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StoryWriter

“アセロラの味がいいね”と嬢が言ったから 今日はアセロラ記念日。

「アセちゃん、って書いとくね?」

初の同伴で入れることとなった焼酎のボトル「鏡月」に掛けるネームプレートに、嬢が名前を入れてくれた。そう、私の名はアセロラ4000。嬢のためにすべてを捧げた男。

嬢との初同伴を経て、私は悦に入っていた。何しろ、嬢がこう言うのだ。

「アセちゃんって、すごく聞き上手だよね!? 私、おしゃべりだから、すごくうれしい」

まさかここで、派遣の仕事であるテレアポが役に立つとは。嬢は、さらにこうも言う。

「私、アセちゃんの前だと、素でいられる気がする」

もしかしたら、嬢は私に本気で惚れているのではないだろうか? そんな気はしていた。なぜならば、店で60分が経過し、ボーイが私の元にやってきたときのこと。

「お時間です。延長、どうなさいますか?」

無常のタイムリミットを告げるボーイに対し、財布を取り出そうとした私を、嬢の右手が制した。

「帰っちゃうの?」

嬢がこちらを見つめている。潤んだ瞳、濡れた唇、酔っているのか紅潮した頬、そして巨乳。

「延長、しよ?」

上目遣いで健気に訴えかける嬢。私に帰ってほしくないという嬢の本気。その気持ちを無下にすることなどできない。必死な陳情に、私の財布がゴーサインを出す。

「うれしい! 飲も、飲も!」

嬢の手がアセロラのピッチャーに伸びる。私と嬢は、30分間のアディショナルタイムに突入した。

翌朝。嬢のペースに合わせて飲んだ結果、ひどい二日酔いだ。しかしながら、気分は良い。なぜなら、嬢が私に半ばベタ惚れしていることがわかったのだから。帰宅後、私は眠りに就く前に嬢にLINEを送った。

「今日はありがとうね! またなんでも話してね」

じつに紳士的なメッセージ。もちろん、ポムポムプリンのスタンプを添えて。嬢からの返信はない。それどころが既読にすらなっていない。昨夜、私が店を去った落胆と、反するようにやってくる嫌な客。接客業の辛さにより、きっと嬢は疲労困憊なのだろう。かわいそうに。私は嬢を寝かせてあげることにした。

嬢との未来という名の船に乗り、キャバクラという大海を漕ぎ出した私。未来は明るい。しかし、タダではない。この船に乗るには乗船料が必要だ。私は財布を取り出し、昨夜の領収書を並べてみた。

基本料金1セット 5,000円
指名料60分 2,000円
同伴料 3,000円
焼酎ボトル(鏡月) 5,000円
アセロラドリンクピッチャー 2,000円
延長料金30分 3,500円
延長指名料 1,000円

合計金額 21,500円

私は、1ヶ月分の食費を1日で、否、わずか90分間で使ってしまった。それだけではない。店に行く前の焼き鳥屋の飲食費、8,800円。総合計はなんと30,300円。

私は眩暈を覚えた。この先、こんなにもお金をかけないと嬢とランデブーできないということなのか。困った。想像以上の負担額。正直、苦しい。正月に実家に帰るつもりで取っておいた電車賃とお土産代のお金まで使ってしまった。どうしてこんな目に遭わなければならないのか。キャバクラとはこんなにも人を苦しめるものなのか。歯ぎしりが止まらない。

ふと、鏡に映る自分の顔を見る。そこにあったのは、早朝バズーカで目覚めたオスマン・サンコンが煙の中から睨んでいるときの顔。あの顔になっている自分に気付く。一個、二個、サンコン。口に出して言ってみたものの、ことは解決しない。正直、帰省などどうでもいい。姪や甥におもちゃも買ってあげなくてよい。子どもは缶蹴りをして遊べば良いのだ。このままでは、嬢に会えなくなってしまう。

金策に困り果てた私は、仕方なく、コレクションしていた名作映画のDVDをブックオフに売ることにした。「ドランクモンキー 酔拳」「クレージーモンキー 笑拳」「プロジェクトA」「スパルタンX」「サイクロンZ」「プロジェクトA2 史上最大の標的」etc…… 映画マニアとして、数々の名作映画を手放すのはつらい。しかし、すべては嬢のため。私はDVDを売って得たわずかばかりのお金を、嬢に会うための「J資金」として封筒に入れ、引き出しにしまった。

そのとき、嬢からのLINEが届いた。

〜第6回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第3回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第4回

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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