泉谷しげるや曽我部恵一をはじめとしたミュージシャンのポートレート撮影を中心に、CD、書籍、広告、webや雑誌などの撮影を手がけている写真家のJumpei Yamadaが、写真をもっと自由に捉えてほしいという想いをもって、7月3日(火)よりスタートする新連載「illusionism」。公募で募ったゲストモデルを撮り下ろし、その写真を元にゲストライターが想像した文章を自由に執筆、写真と一緒に掲載していく。毎週火曜日更新予定。
「illusionism」Vol.1
平日昼過ぎ、アパートの下の公園にはベンチに1人、作業服を着たおじさんがだらしなく座って煙草を吸っているだけで、その他には人の気配すらない。初夏のこんなに天気のいい日に、みんなどこに行っちゃったんだろうと思いながら歩き出す。
「本当にみんな、どこに行っちゃったんだろ」
声に出して呟いてみる。でも、どこかに行ってしまったのはどちらかって言うと私なんだ。女子中、女子高、女子大とエスカレーター式に進学し、親戚のつてで就職。一般的なOLとしてお茶を出したり事務職をしていたけれど、周りに溶け込むことが出来ず、2年も経たずして辞めてしまった。会社の人たちはみんな穏やかで優しくて何も悪くないのに、不思議なほど一向に居心地が良くならなくて、辞表を出すことにした。
「まだ二十代半ばだし、これからいろんな道があるよ。頑張って!」
みんなは口々にそう言ってくれたけど、実際、辞めるにしても理由がないから適当に「自分のこれからの人生を模索したい」なんて言って退職する妙齢の女子には、それくらいしかかける言葉がないんだろう。
いつも通る灰皿の前で一度足を止め、煙草に火をつけた。仕事を辞めてから日中やることと言えば家でパソコンを触ること、漫画喫茶に入り浸ること、近くのスパリゾートでスチームサウナに入ることくらいしかない。今日みたいに昼に起きて、コーンフレークを食べてから家を出て、この場所で煙草を吸う時はサウナの日だ。今はただただ何も考えず、このルーティンの中で生活をしている。
きっと私の前世は「ナマケモノ」とかその類の、のんびりした動物だったに違いない。でも人間だって本来の姿はこんな感じで、仕事をしたりいろいろ考えたりすることは生物学的にも不自然なことなのではないか? そうだとしたら今、自分は人間として正しく生きているだけで、何も後ろめたく思う必要はないのかもしれない、とも思う。
そんな勝手なことを考えているうちに、じりじりと額に汗がにじんできた。ミスをした、今日はサウナじゃなくて漫喫の日だったかもしれない。舌打ちしたい気持ちになりながら、今にも灰が落ちそうな煙草を灰皿に放り込んで、来た道を引き返した。
「illusionism」Vol.2へ続く
Text = まりな(日本マドンナ)
3ピースバンド「日本マドンナ」のギタリスト。
2018年4月には6年ぶりの新作『ファックフォーエバー』をリリース。
新宿を拠点にマイペースに活動中。
Twitter : @nihonmadonna
Photograph = Jumpei Yamada(じゅんぺい・やまだ)
1987年富山県生まれ。
2007年より関西にて活動。
活動拠点を東京へ移し、2014年独立。
ミュージシャンのポートレート撮影を中心に、CD・書籍・広告・webや雑誌等各種媒体の撮影を手がけ、並行して自身の作品制作も行う。
2015年2月 写真集「ギミ!ギミ!ギミ!ダーリン!」発表。
2018年2月写真展「immanent」at 高円寺FAITH
Web : https://jumpeiyamada.com/
Twitter : @jumpeiyamada_
illusionismに被写体として参加して頂ける方を募集中です。経験不問。興味のある方は「氏名」「年齢」「バストアップ写真、全身写真(3ヶ月以内撮影)」「芸能活動されている方は芸歴・活動歴」を明記・添付の上、件名:被写体募集にてillusionism.wanted@gmail.comまでご連絡下さい。応募者多数の場合、採用させて頂く方にのみご連絡させて頂きます。