【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.4「うつ病と双極性障害」

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.4 うつ病と双極性障害

メンタルの不調といえば、「うつ病」がすぐに思い出されるかもしれません。多くの有名なアーティストたちも悩まされている病ですが、最近ではブルース・スプリングスティーンが自身のうつ病との闘いについて告白し、話題となりました。彼に対する一般的なイメージは「ボス」という愛称に象徴されるように、力強く逞しいものでしたので、そんな彼がうつ病であるということは、そのイメージとのギャップもあって、多くの人を驚かせました。

ただ、彼の有名なヒット曲『Born in the U.S.A.』は、その音楽の力強さとタイトルから、なんとなくマッチョな愛国歌のような誤解をされていますが、その歌詞の内容はベトナム戦争の帰還兵の哀しくて辛い現実を歌ったもので、もともとそういうナイーブな感覚を持ったアーティストでもあるのです(歌詞の和訳は検索するとすぐ見つかりますので、興味のある方はぜひ読んでみてください)。

 

■うつ病

さて、この「うつ病」ですが、アメリカ精神医学会による『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』によれば「抑うつ障害群」という病気の一つに分類されていて、「大うつ病性障害(major depressive disorder)」とも呼ばれます。下記の9つの症状のうち1または2を含む5つ以上の症状があり、それが2週間以上続いている場合に「うつ病」と診断されることになります。

1 ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
2 ほとんど1日中、ほとんど毎日の活動における興味または喜びの著しい減退
3  食事療法をしていないのに、体重の減少または増加(1ヶ月で体重の5%以上の変化)または、ほとんど毎日の食欲の減退または増加
4 ほとんど毎日の不眠または過眠
5 ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止
6 ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
7 ほとんど毎日の無価値観、または過剰か不適切な罪悪感
8 思考力や集中力の減退
9 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図

* 日本ではおよそ15人に1人がうつ病を経験しています(出典 : 厚生労働科学研究費助成こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」)。つまり珍しい病気ではなく、だれでもかかる可能性があるのです。

うつ病の治療は「休養」「環境調整」「薬物治療」「精神療法」などが中心になります。うつ状態のときは心と体を休めることがまず第一歩で、そのために必要な環境調整を施し、医師による適切な薬物治療を行ないます。そして認知行動療法や対人関係療法などによる精神療法で、ストレスに対する対処法を学び、良い状態を維持し、再発を防ぐようにします。

■ 双極性障害

また、双極性障害というものがあります。これは、一般的には躁うつ病と呼ばれていて、うつ病と同じように思われがちですが、うつ病とはまったく違う病気で、そのため治療法も違ってきますので注意が必要です。

うつ病は「うつ症状だけ」がみられますが、双極性障害はうつ状態と躁状態または軽躁状態を繰り返す病気です。うつ状態に加えて激しい躁状態が起る双極性障害をI型、うつ状態に加えて軽躁状態が起るものをII型と言います。一般的に躁状態を病気として本人が認識することは難しく、うつ状態のときに診察を受けるため、うつ病と診断されてしまうこともあります。

躁状態の時は、うつ状態の時と反対に、気分が高まって、あまり眠らなくても元気だったり、急に自分がえらくなったような気になったり、なんでもできるような気になったり、おしゃべりになったり、アイデアが次々と浮かんできたり、怒りっぽくなったり、浪費したりします。とくに双極性障害のⅠ型の場合、激しい躁状態にあると、周囲の人が不快に思うような発言をしてしまうこともあり、そうしたことによって社会的にダメージを被ってしまうこともあります。

また、双極性障害は、予防療法を行わなければ、ほとんどの場合再発してしまいます。再発を何度も繰り返すうちに、次の発症までの期間が短くなってしまう急速交代型になる恐れがあり、そうなってしまうと薬が効きにくくなってしまいます。そのためにも、再発しそうなサインを自覚して、予防に努めること、症状が治まっている期間にも薬を飲み続けることが重要です。双極性障害は、糖尿病治療に服薬が欠かせないように、治療のためには服薬の継続が大切です。また、うつ病の場合と同じように、適切な精神療法を行ない、生活リズムが乱れないように努めます。

いずれの疾患にせよ、本人と家族や周囲が疾患について正しく理解することが大切です。うつ状態のときには体を動かすことも非常につらいことです。また、
躁状態でやってしまった失敗を一番後悔して苦しんでいるのはうつ状態のときの本人です。
怠け者として扱ったり、「頑張れ」「元気を出せ」「甘えるな」「いつになったら直るの?」などと言ったりしてはいけません。気晴らしに誘うことも避けた方が良いです。家族や友人から気晴らしに誘われると、断っては悪いと考えたり、「せっかく誘ってくれているのだから楽しまねば」と義務的に考えたりして、結果的に疲労が嵩むことになります。そもそも、気晴らしをするエネルギーもないのですから。また、「薬に頼るな」などもいけません。

世の中には、「うつは心が弱い奴がなるものだ」と言う人がいますが、むしろある意味逆に心が強いため、無理な状況に「過剰適応」してしまい、発症に至ることもあります。それに、人間は、誰しもが弱さを持っている弱い存在とも言えます。であるならば、人間誰しもが当事者になり得ます。生きづらさを抱えている人を否定的にとらえることなく、共感的に受容したいものです。

Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

あわせて読みたい

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。