皆さんこんばんは。
卒業論文がピンチというわけではないのですが、中々にプレッシャーになってきました。
僕のテーマは比較的先行研究が多いので資料も多く、文系学部生の卒業論文ということも考えればそんなに切羽詰めて考えることでもないのかもしれませんが、でもやっぱり読まないといけない資料も多いし書く分量も多いので時間はやっぱり掛けないと仕上がらないものなので…… 加えて内定先の課題もあってピンチ of ピンチ。
でもこういうピンチな状況こそ自分が全部こなして成功している姿を想像してそれに向かって頑張って…… と思っているのに何もできずにダメだムリだと引き腰になっている僕です。
めちゃくちゃ頑張って生きたいと思う(思っているだけ)反面、たまにどうしようもなく全部投げ打って知らんぷりを決め込みたいゴミクズ野郎。
そんな僕に御誂え向きの1冊がありました。それがこちら、ドン!
遠藤周作さんの『ぐうたら生活入門』。
前にも取り上げさせた遠藤周作という作家さんなのですが、いやはや本当に面白いし、人間という生き物について高尚な視点でも俗な視点に於いても大変よく観察して人間を理解しているなあと思います。
彼自身、作品のあとがきや講演会の語り口調を聞いても、決して変に文学者面したりかしこまった言葉を用いず、加えて世の中の普通の人々と同じ目線で物を見て飾らない、少し俯瞰した物の見方を下町の飲み屋の隣のおじさんのような話し口調で話してくれる人だなあ、と思っていて。綺麗事は決して言わないスタイルが好きです。
個人的には、今でいうマツコ・デラックスさんのような考え方をしている人だなという印象。
今回の『ぐうたら生活入門』では、彼の代表作の『沈黙』や『侍』などの重苦しいテーマの小説と打って変って、先に挙げた力の抜けた言葉を全編に並べている作品です。
ちょっと人入りの多いカフェで読みたくなる1冊。
内容はというと、人って卑しい部分や弱い部分があるけどそれでいいじゃないの、仕方ないんじゃないの? って思わせる実体験と伝聞に基づいた小噺、エッセイで綴ったお話の短編集です。
例えば、
たとえば諸君にはこういう経験はありませんかな。駅のホームで電車を待っていると向こう側のホームに部長が立っていられる。気の弱いあんたはこういう時、すぐ挨拶できないものです。
部長が気づかぬのに頭を下げるべきか、それとも黙っているべきか、あんたは心中ハムレットの如く迷う。
そして思いきって頭を下げたが、部長は知らん顔をしている。なんだ、挨拶なんかするんじゃなかったとペロリと舌を出した時、向こうの視線がこちらにぶつかった。部下に舌を出されたと錯覚した部長はムッとされ、あんたはこれはとんだことになったと思う。
確かにこの小噺の主人公は気が弱い人間だと思いますが、遠藤周作氏はこういう世にうんざりするほどいる人々を嘲笑するようなことはせず、
私はあんたのその時の気持ちがわかるよ。なぜなら、私もあんたと同じような経験が幾回、幾十回となくあったから。
と後ろに付け加えています。
加えて、こういった気の弱い人間には必ず一匹の虫が付いて回っている、気弱なあなたが何かをしくじると耳の後ろでケ、ケ、ケ、と奇妙な笑い声を立てているものなのだと。
僕も自分で色々な失敗をしては、自身が気弱なばかりに誰かに嘲笑われているような、遠藤周作の言葉を借りると耳の後ろで虫が笑っている感覚という気持ちが非常によく分かります。自分がみっともなくて、絶対に誰か僕を嘲笑っているに違いない、という気持ち。
もしこの連載を好き好んで見てくれている人がいるとしたら必ず分かる気持ちじゃないでしょうか。
でもこれって、結局嘲笑っているのは自分自身であって、器も小さくプライドも高いばかりに失敗している自分を笑い飛ばして次頑張ろうぜ! の一言も掛けてやれないのが良くない。こんな病的なナルシズムを遠藤周作は「虫」がいると笑い飛ばしているような気がするんです。
でもこういう自尊心が高いばかりに自分を追い詰めてしまう人は確かに一定数、それなりにいると思うんです。
そういう人達のために、遠藤周作さんのような語り口調でからかったり笑ってくれる言葉を出せる人がいるからこそ救われる人もいるんじゃないかなと。気弱な人は自分を笑ってくれる人を求めているのかもしれないなあ、って思いました。
それに応えられる人間にどうにかなりたいなあと思うけど、多分僕には相手を笑ってあげられるような余裕は無いかも。だからこそ遠藤周作さんに憧れるなあ。
最後にこの本で一番好きなエピソードを紹介したいんです。
最後の一言を言っている遠藤周作さんの様子を想像すると、ちょっと可愛い気もします。
僕はこの辺で、卒論書きます。
また来週、よしなに。
ずっと前、あるアパートで生活していた時のことです。
毎夜、夜中に私の部屋の上で若い男が「アアッ、アーッ。アアッ」
諸君は、早まってはいけない。彼は独身だし、その上、女を自分の部屋の中に引きずりこむような男じゃないよ。にも関わらず、「アアッ、アーッ。アアッ」
悲鳴とも絶叫ともつかぬ声を立てる。なぜそのような声をたてているのか。わかった人は小説家になれる素質がある。あんたはどう思いますかね。
「その男は頭が可笑しいんでしょう」
ダメ。そんな答えでは。
彼はね、夜中に布団をかぶっていると、昨日、今日のあるいは過去の、自分のやった恥ずかしいことが1つ1つと突然心に蘇って、居ても立ってもいられなくなり、思わず大声を立てているのです。何だ、そんなことか、と思われる人は気の強い奴。気の弱い奴なら、この夜の経験は必ずあるはずだ。
それがないような奴は、友として語るに足りぬ。
1993年生まれ、青森県出身。進学を機に上京し、現在は大学で外国語を専攻している。中国での留学などを経て、現在では株式会社WACKで学生インターンをしながら就職活動中。趣味は音楽関係ならなんでも。