休憩時間の60分を使い、ひたすら新たなキャバクラを開拓すべく検索を続ける私。
隣にいるエトウさんも、おなじくスマホで何やら検索しているようだ。
もじゃもじゃの天パー、ニキビだらけの顔面。短い手足、そして巨乳。
いや、男の巨乳など、見たくは、ない。しかし、ついつい隆起した胸部に目を取られてしまうのは、私のストレスが頂点に達しているに他ならない。今の私は、極度のスランプ。気が合う嬢との出会いを求めて彷徨い歩く、キャバクラ版ウォーキング・デッドなのだ。
そうだ、キャバクラ版ウォーキング・デッドの企画を、amazonプライムに持ち込むというのはどうだろうか。きっと、画期的な企画だと驚かれるに違いない。脚本はクドカン、監督は三池崇史にお願いしよう。原作・主演は私こと、アセロラ4000。ただし、派遣会社の手前、本人出演はNGかもしれない。致し方無く、代役の俳優を立てるしかない。菅田将暉くんを抜てきしようと思う。ヒロインは、大地真央さまが相応しい。ラブシーンを想像して、頬を赤らめる私。そうだ、アクション陣として、棚橋弘至やオカダ・カズチカにも出てもらおう。そうなると、同じ事務所のアミューズから星野源の出演も不可能ではない。むろん、主題歌も彼に頼まざるを得ないが、ここは大先輩のサザンを立てて欲しい。すまない、源くん。エトウさんやサカイくんにも、カメオ出演のチャンスを与えよう。歴代の嬢たちを連れて、レッドカーペットを歩く私。さあ、これからは忙しくなるぞ。令和は、アセロラ4000の、時代。
「アセくん、休憩時間終わったわよ。早く席に着きなさい」
生田マネージャーの声に、我に返る私。時計は、13時を過ぎている。
バカ、バカ、バカ。私のバカ。結局、休憩時間に新しいキャバクラは見つけられなかった。ウォーキング・デッドで一攫千金を狙っている場合ではなかったのだ。
失意の私が大人しく席に着くと、隣のエトウさんが話しかけてくる。すまない、カメオ出演の件なら、なかったことにしてほしい。
「アセさん、今日、中野ブロードウェイに付き合ってくれないすか?欲しかったフィギュアが、見つかったんですよ」
ガサガサ声を必死に絞り、私にお願いするエトウさん。頼まれたら、嫌と言えない私。二つ返事で、同意した。
残業を経て、夜7時に中野に着いた我々。エトウさんは、中野駅北口の改札を出ると、慣れた様子でまっすぐに中野ブロードウェイを目指し、お目当ての店でフィギュアを購入した。萌えアニメ的なキャラクターの、水着フィギュア。
「これ、今なかなか手に入らないんですよ。しかも安かった。よかった~地球に生まれてよかった~」
テンションが上がるあまり、織田裕二の真似をする山本高広の真似を繰り出すエトウさん。まったく似ていないものの、喜びが伝わってきて、こちらもほっこりさせられる。ただし、48歳のおじさんの部屋に萌えキャラフィギュアがあることを想像すると、正直、キモい。ただ、夢中になれるものがあるということは、良いことだ。私は、そう思う。
「アセさんも、趣味を見つけた方がいいすよ」
そう言われて、思い出した。私には、キャバクラが、ある。
そうだ。ここ中野には、キャバクラがあるはず。たしか、ラジオでオードリー春日が言っていた。周囲を見渡すと、夜は更け、徐々に呼び込みらしき男たちが姿を見せだしている。なんだ、この街は、キャバクラだらけではないか。聞けば、中野は昔からキャバクラがあったことで、発展を遂げた街だったようだ(※アセロラ4000調べ)。
ここにも、あそこにも、むこうにも、色々なキャバクラが、ある。
ギャルが多そうなキャバクラ、ドレスアップしたちょっと高級感を出したキャバクラ。コスプレキャバクラなんていう店もある。なるほど、こういうのもあるのか。目移りしてしまう、私。
待て待て、焦るな。
私は、キャバクラに行きたいだけなんだ。
「アセさん、今日はレアなフィギュアが安く手に入ったし、俺がキャバクラ奢りますよ」
なんと、頼りになる、エトウ先輩。一生、ついて行こうと思う。
私とエトウさんは、中野ブロードウェイ周辺を何周か調査した後、ある店の前に立つボーイに金額を尋ねた。
フリー入店で、60分総額、4,000円。
安い。とてつもなく、安い。せっかく奢りなら、歌舞伎町に行けばよかった。いや、ダメだ、ダメだ、ダメだ。歌舞伎町のキャバクラは、そこが丸見えの底なし沼。今度ハマったら、再起不能は間違いない。私には、中野ぐらいのキャバクラタウンが身の丈に合っているのだ。
中野で初の、キャバクラ体験。店の名は、「ポワゾン」。
私は、エレベーターのボタンを、押した。
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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