『悪人』、『怒り』と映像化が続く作家・吉田修一の短編集『犯罪小説集』が、映画『64 -ロクヨン-』の瀬々敬久監督により映画化。
その公開に先立ち、10月1日(火)早稲田大学にて開催された〈早稲田大学・KADOKAWA共催 映画『楽園』特別試写会〉に、本作のメガホンを取った瀬々敬久監督と、磯見俊裕美術監督がティーチインゲストとして登壇した。本記事では、そのイベントの様子を、オフィシャルレポートにて紹介する。
瀬々監督と磯見美術監督は犯罪心理学を学ぶ多くの学生を前に挨拶しイベントはスタート。まず初めに、本作を制作したきっかけを聞かれた瀬々は「本屋で『楽園』の原作である吉田修一さんの「犯罪小説集」をたまたま手に取って読み始めたのがきっかけでした。それまで吉田さんのファンで沢山作品は読んできて、いつか吉田さんの原作を映画化したいと思っていました。そうした時にこの「犯罪小説集」は短編集だし誰も手を出さないだろうと考えたんです(笑)。原作が角川さんというのもあって、当時KADOKAWAで『最低。』(2017)という映画を撮っていたので、プロデューサーに話したことがきっかけです。」と経緯を話す。
本作のタイトルを『楽園』に決めた理由については「元々が「犯罪小説集」というタイトルで短編集でもあるので映画のタイトルとなると中々決まらず。『Y字路』や『悪』など100個くらい案がでましたけど、ダークな印象を持つアイデアが多くいまいちピンとこなかったんです。というのも犯罪を犯してしまう人もそれぞれ差別や犠牲の中で生きてきている訳で、ただボタンの掛け違いのように予期せずに犯罪的世界に追い込まれていくんですよ。彼らもより良い生活をしたい、楽園で生きたいという欲望があったはずなのに、どこかで踏み外したことで予期せぬ事態に陥ることもあると思ったんです。人々は楽園を探して生きているのではないか、誰しもが持つであろう希望をタイトルに込めました。」と話す。
実際の事件をモデルにしている映画を撮る理由を聞かれると、「私たちが20代のころは犯罪が時代の合わせ鏡のようだったので興味が湧いてきたんです。それは犯罪が起こると、そこには謎があり、どうしてこのような悲惨なことが起こるのだろう、また悲惨なことが起こってしまうのかと考えるとその謎を探りたくなったんです。それで実際に起きた事件をモデルにして映画を作ろうと思いました。」と答えた。
また学生から本作のストーリーに大きく関わってくるY字路についての質問に磯見美術監督は、「実際にイメージしていたY字路が中々見つからず、どのように作っていくのかがとても面白かったです。ようやく候補を見つけて、映画の中で事件が起きた時とその12年後の事故現場として描くのに樹を植えることでイメージしていたY字路を作り上げました。」とコメント。
次に大島渚監督の『飼育』(1961)を例に出し、本作のセリフ作りについて問われると瀬々は「昔、大島さんが出ているTV番組を拝見して、大島さんが戦後になって急に学校の先生たちが民主主義を唱え始め人がころっと変わった様に怒りを感じたと仰っていたのが印象に残っていたんです。そうして大島さんが戦後の民主主義にこだわっていたように私も日本が高度経済成長期を経験して、90年代にバブルが弾けたにも関わらずに時代がふらっと2000年代に突入したことに違和感がありました。そうしたことも含めて現代がヘイト的な時代になっていることに私としては嫌な感じがあります。その嫌な感じを映画作りに反映しています。」と話した。最後に瀬々はいよいよ公開が迫った本作品を一足先に鑑賞してくれた学生たちにお礼を述べ、イベントは終了。
■公開情報
2019年10月18日(金)全国ロードショー
出演:綾野 剛、杉咲 花、佐藤浩市
柄本 明、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣
主題歌:上白石萌音「一縷」(ユニバーサルJ)
作詞・作曲・プロデュース:野田洋次郎
原作:吉田修一「犯罪小説集」(角川文庫刊)
監督・脚本:瀬々敬久 配給:KADOKAWA ©2019「楽園」製作委員会
あらすじ:
青田に囲まれたY字路で起こった少女失踪事件から12年後、事件は未解決のまま再び惨劇が起こった。事件の容疑者として追い詰められていく青年・中村に綾野 剛。消息を絶った少女と事件直前まで一緒だった親友・湯川 に杉咲 花。罪の意識を背負いながら成長し、豪士と互いの不遇に共感しあっていく。Y字路に続く集落で、村八分になり孤立を深め壊れていく男・田中に佐藤浩市。次第に正気は失われ、想像を絶する事件へと発展する。そして、柄本 明、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、根岸季衣、石橋静河と、豪華かつ個性溢れる面々が揃い、作品世界を完成させた。Y字路から起こった二つの事件、容疑者の青年、傷ついた少女、追い込まれる男―。三人の運命が繋がるとき、物語は衝撃のラストへと導かれる。彼らが下した決断とは─。“楽園”を求める私たちに、突き付けられる驚愕の真実とは─。