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【LIVE REPORT】民謡ロック、R&B、HIPHOP──拡がる台湾音楽シーンが集結した〈Taiwan Plus〉1日目

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2019年9月28、29日の2日間に渡って、日本最大級の台湾カルチャーイベント〈Taiwan Plus〉が上野恩賜公園にて開催された。台湾現地の雑貨屋、飲食店も数多く出店して大盛り上がりとなった今回のイベントは、開演の午前10時前から観客が集まり、2日間で述べ8万人の来場者数となった。その中でも、今盛り上がりを見せている台湾のバンド・アーティストが数多く集まった野外ステージは、特に大きな盛り上がりを見せた。日本人・台湾人の垣根を超えて大盛況となった初日28日のライヴの様子をお送りする。

取材・文:エビナコウヘイ


2日間に渡って開催された今回の〈Taiwan Plus〉。1日目は生祥樂團(センシャンバンド)、巴賴(バーライ)、9m88(ジゥエムバーバー)、李英宏(aka DJ didilong)が出演した。

生祥樂團(センシャンバンド)

当日の朝10時になると生祥樂團(センシャンバンド)がステージに登場。日本人と台湾人のメンバーが混在した生祥樂團は、環境問題や農業などをテーマにした歌詞を、台湾の民謡風なメロディとバンドサウンドに乗せて歌い上げる。Gt&Voの林生祥は、2006年には日本に三味線を習うなど日本とのゆかりがあったという。ライヴは、故郷の美しい田園風景やのんびりとした自然風 景への愛を歌う「我庄」からスタート。晴れた上野恩賜公園をのんびりとした温かな雰囲気に包み込んだ。自身が学んだことがあるという三味線や笛のサウンドも盛り込んだ「枝豆」では、サビで会場と一緒に「えだまめ」と合唱する場面も。そういった穏やかな台湾の田舎風景を想起させる一方で、美しい空気など環境問題をテーマにした楽曲「拜請保生大帝」では、ベースやギターのジャジーなフレーズとチャルメラのオールドな音色が相まってクールかつ神秘的な側面を見せた。

生祥樂團

 

巴賴(バーライ)

続いては、第27回台湾グラミー賞(金曲賞)でも最優秀原住民歌手賞を受賞し、名実ともに台湾の原住民歌手として先頭を走る台湾原住民排灣族(パイワン族)の「巴賴(バーライ)」が出演。1曲目の「勇士」は、イントロから自身の民族の言語をアカペラで会場に響かせた。アコースティックギターを掻き鳴らしながら声高らかに歌い上げ、時には狼のように咆哮を叫び、生祥樂團と続いて雄大な自然とその力強さを想起させる。民族の伝統民謡のメロディを盛り込んだ楽曲は、海を跨いだ遠くの地日本に生まれ育った日本人にもその民族精神が伝わって来る。イントロのギターのブラッシングと、その後にじわじわとサウンドが広がり広大な荒野の情景を思わせる 「盤旋」、自身の代表曲「光明的道路」、情熱的に歌い上げ会場との合唱も叶った「反覆的新芽」などを披露。崇高な民族精神とも言える曲調を高らかに、力強く歌う姿を会場に刻みつけた。

巴賴

 

9m88(ジゥエムバーバー)

3組目は、今年の〈Summer Sonic 2019〉にも出演した話題の台北生まれ、NYの名門校でジャズを学んだ経歴を持つソウルシンガー9m88(ジゥエムバーバー)が登場。登場とともに会場から大きな歓声が上がり、彼女への期待値を物語る。軽快なドラムビートから始まり、ジャジーな弦楽器隊のフレーズにシンセサイザーの音が乗って、本場で培って来たR&B、一昔前の日本のシティポップも感じさせる。何よりも、彼女の力強さのある歌声、そして時折聞かせる繊細さも備えた高音に惹きつけられる。そして、バンドメンバー全員に近寄ってリアルに流れているサウンドを感じとり、彼女の身体全体と声でそれを表現する姿が会場・舞台の垣根なく1人1人にずっしりと届けられていた。台湾のインディーズ音楽シーンでは、オルタナロックやシティポップが主流の中で、新たな風を吹き込ませていることが確かに感じられた。

9m88

 

李英宏(aka DJ didilong)

1日目のトリはラッパーの李英宏(aka DJ didilong)が務めた。2016年にアルバム『台北直直撞』をリリースし、年配が上の台湾人が多く話す台湾語(※中国語ではない)を、クールなトラックに乗せた台湾語ラップを世に出すと、その年の金曲獎(中華圏のグラミー賞)で「ベスト台湾語シンガー賞」、「ベスト台湾語アルバム賞」にノミネートされ、若者の間で社会現象と言うまでにブームになった李英宏。ステージに上がると大きな歓声が上がり、1曲目から2016年の社会現象にもなった「台北直直撞」が流れると、会場は一気に大盛り上がり。サビのフレーズ〈我 直直撞(わ でぃでぃろん)〉は会場からシンガロングが当然のように起こり、続く「什麼時候 她」と夕暮れの上野恩賜公園で全員が縦ノリで揺れる。序盤から大盛り上がりして踊っていた会場のファンの男の子を指名してステージ前に呼んで、一緒に歌わせたりコミカルに踊る場面もあり、ファンとの近さも感じられた。その後は、昨年台湾で話題になったLGBT映画『誰先愛上他的』主題歌「峇里島」なども披露して、夕暮れの時間に合ったムーディーで漂うような雰囲気で魅せる一面も。最後は会場の座席の前のスペースを指して「ここが空いていますね?」と煽り、観衆が前に詰めかけて全員で飛び跳ねるご機嫌なナンバー「蘆樂佛尼亞」で本日一番のテンションで幕を下ろした。

李英宏

 

多様化が進んでいる台湾音楽シーンとはいえ、特に流行りつつあるのがオルタナロックやシティ ポップ、シューゲイザーのジャンル。その中で民謡ロックの生祥樂團、原住民音楽の巴賴、R&B シンガーとして注目株の9m88、そしてhip-hopの李英宏が出演した〈Taiwan Plus〉1日目は、我々が思っているよりも台湾音楽シーンが広がっていて、より多くの可能性を感じさせるライヴとなった。2日目の様子も追ってお伝えする。


■出演者コメント

生祥バンド
東京が台湾のためにずっと世界の窓を開いていてくれますように。

9m88
上野公園はとても心地いい場所で、ゆったりとした感じの観衆に巡り逢いました。今回のライヴでは、自分の音楽に対する野望を今は完全に再現することができませんでしたが、音楽 に対する感受性を共有できたと思います。とても満足でした!


■イベント詳細

〈Taiwan Plus〉
2019年9月28(土)、29日(日)@上野恩賜公園
=1日目セットリスト=
生祥樂團(生祥バンド)
1. 我庄
2. 讓我跟
3. 毛豆之歌 Edamame
4. 古錐仔
5. 風神125
6. 拜請保生大帝

巴賴
1. 勇士
2. 盤旋
3. Ananasi
4. Ayi 愛
5. 光明的道路
6. 反覆的新芽

9m88
1. 愛情雨
2. Aim High
3. 平庸之上
4. 浪費時間
5. leftovers
6. Inner
7. 九頭身日奈
8. Plastic Love(竹内まりやカバー)

李英宏(aka DJ didilong)
1. 台北直直撞
2. 什麼時候她
3. 我想和你還
4. 峇里島
5. 愛上你
6. 水哥
7. 蘆樂佛尼亞

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