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映画『解放区』公開記念トーク「対等に嘘がなくこの街の現実を描くために自分の弱さを曝け出した」

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映画『解放区』が10月18日より一般公開を迎えた。

同作品は、友人の自殺に向き合うドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』などの監督を務めた太田信吾が、大阪、西成区・釜ヶ崎に漂着する若者をリアリティあふれる描写で表現した初の長編劇映画。あまりに衝撃的でリアルな内容と表現のため、大阪市が助成金を打ち切り、その費用を返還。その議論は各所に飛び火したが、2014年東京国際映画祭などで上映。その後、 劇場公開される事は無かったが、5年を経て遂に一般公開を迎えることとなった。

昨今では、〈あいちトリエンナーレ2019〉のように、芸術や文化作品の内容や、出演者の不祥事によって行政がバックアップしないという事例が現実に起きている。そうした日本社会において、交付金を返還してまでも2013年当時の西成地区の目を背けたくなる実情を記録として残し、カメラ越しの傍観者ではなく、レンズの向こうの実情まで踏み込もうとしたこの作品の意義は大きい。そんな『解放区』の上映記念トークショーが2019年10月23日、東京・テアトル新宿にて行なわれた。進行役にSPACE SHOWER FILMSの高根順次、ゲストに太田信吾監督と峯岸みなみ(AKB48)を迎えたトークショーの様子をレポートする。

取材・文:エビナコウヘイ


自分が言ったことをどれだけ引き受けて、メディアとして実践できるか

高根順次の呼び込みで、監督・太田信吾と峯岸みなみが登場、会場は大きな拍手で迎えた。

映画『解放区』にコメントも寄せた峯岸。初めて本作を観た時の感想を尋ねられると、「どう受け取るべきなのか正解がなく、あまりにリアルなので、どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが作品なのか分からなくなってしまった。何を感じるのが監督にとっての狙いなのか凄く不思議に思った」、「改めて自分の恵まれた環境を感じながらも、本山(※劇中での引きこもり役)が画面に向かって『高いところから見やがって!』と言うシーンが印象に残って、自分もその1人だなと思った」と、本作の中でも力強いメッセージ性が現れている場面に言及した。

太田監督は本作制作の経緯について尋ねられると、「1970年代から日本のインフラを整備するために全国の労働者が集められた“あいりん地区”という場所に僕が出会ってしまった」という西成との出会いから、「この街を残したい」、「再開発や路上で生活している人々の現実もありのままに伝えたかった」、「美しいものだけではなく、この街の現実、日当いくらで明日どうなるかも分からないまま生きてきた人がいて、体を壊したり、お酒や薬にハマっていく現実を反映させて脚本を作った」、「峯岸さんの感想の通り、匿名の言葉が溢れている中で、自分が言ったことをどれだけ引き受けて、メディアとして実践できるかをテーマにした」とストイックな制作への心意気を語り、テレビや映像関係の業界の人々にも是非観てほしいと語った。

高根順次は、「テレビの持つフィクション性、面白くする為に無理やり作る歪みを描いている」とコメント。峯岸も「タレントの1人として、求められている自分、喜ばれる自分を演じている部分はあり、その中で大衆に向けて隠しておきたい部分をリアルに描くのが好きだからこそ、こういう単館映画が好き」だと語った。

トークショーの様子 画像左・峯岸みなみ(AKB48)、画像右・太田信吾監督

自分たちの弱さも含めて曝け出さないとフェアじゃない

「メディアのジレンマを感じることはあるか?」という高根の質問に対し、太田監督は「素材として1人1人の物語が奪われがちだという制作現場の現実は否定できず、本作はそこに踏み込んだ作品でもある」、「もっと皆の人生のドラマを持ち寄って、皆で調理するやり方を映画作りの場でやっていきたい」と語った。実際、本作ではタレントや俳優ではなく、一緒に西成に住むところから協力してくれる人を探し、スタッフや演者関係なく皆で話し合って脚本書き変えながら作っていたという。

太田監督は、「対等に嘘がなくこの街の現実を描くために、自分たちの弱さも含めて曝け出さないとフェアじゃないと思って出演しようと決めた」と言い、解体現場のシーンも実際に皆で働き、作業していく中で釘を踏んでしまった様子などもカメラが捉えている。作り手のリテラシーとして同じく生活してみることを選んだという言葉通り、本作の並々ならぬリアルさの探究心が垣間見えた。

映画『解放区』の1シーン

映画終盤ではドラッグを打つシーンが描かれている。太田監督がたまたま出会った元麻薬密売人のたこ焼き屋の店員から、薬物を使用するとどうなるのか実際に教えてもらったという。薬物にハマらないためのメッセージを送れるなら、ということで劇中の売人も演じてもらったエピソードも語られた。このシーンの異様な緊張感の正体が明らかになり、会場からは感嘆の声も漏れた。

イベント終盤で、峯岸が「太田監督が描く彼らの未来はどういうものなのか興味がある」と尋ねると、太田監督は「街の現実をありのままに伝える決意の表れとして、逃げ切るシーンで終わってるんですね。皆がポジティブな方向を向けるように、映画作りがそういう場であればいいと思っています」と劇に関わる人間全てが前向きな未来に進むことを望んでいた。

映画『解放区』の1シーン・西成地区の様子

一周回ってポジティブな映画

最後は、締め括りとして峯岸と太田監督がコメントを残して本イベントは幕を閉じた。

峯岸みなみ:映画を見て終わりじゃなく、内面をもっと知りたくなって調べていくうちに、こんな事があったんだと思って。監督さんから、出演者さんの背景を聞いたら凄く興味深かったし、一周回ってポジティブな映画なんだと思いました。映画を観たらどういう気持ちになればいいんだろうって思う部分もあるかもしれないんですけど、もっと奥まで深く掘っていくとメッセージ性があるので、もっと内面まで知ってほしいですね。周りの方に勧める時も、興味を持ったらもっと調べてみてって言うところまで含めて、監督の真意が伝わったらいいなと思います。

太田信吾:映画を観てくださる方に、いかに自分のことだと感じてもらえるか。そのために、僕自身も現場に踏み込んで、当事者として街を生きないといけないんじゃないかという思いから出来上がっていった映画です。今はプロや素人に関わらず誰しもメディアを持っている時代だと思うので、皆さん自身で何かを表現するという事のプロセスの在り方を問い直していただくことがあればいいなと思います。


■作品情報

映画『解放区 』
エグゼクティブ・プロデューサー:カトリヒデトシ
プロデューサー:筒井龍平、伊達浩太朗
アソシエイトプロデューサー/ラインプロデューサー:川津彰信
監督・脚本・編集:太田信吾
撮影監督:岸健太朗 録音:合諒磨 制作:金子祐史 音楽 :abirdwhale、Kakinoki Masato
助監督:島田雄史 制作助手・小道具:坂田秋葉 録音助手:高橋壮太 制作応援:荒金蔵人
現地コーディネーター:鈴木日出海、朝倉太郎 撮影助手:鈴木宏侑
エンディングテーマ:ILL 西成 BLUES-GEEK REMIX-/SHINGO★西成 (作詞:SHINGO★西成/作曲:DJ TAIKI a.k.a. GEEK)
出演:太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤亮、岸健太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、 本山純子、青山雅史、ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー、SHINGO★西成 ほか
製作:トリクスタ 制作プロダクション:トリクスタ、ハイドロブライト
『解放区』上映委員会(トリクスタ+キングレコード+スペースシャワーネットワーク)
2014年/日本/カラー/ビスタ/111分/DCP/映倫審査前/英語字幕付き上映/英題:Fragile
配給:SPACE SHOWHER FILMS ©2019「解放区」上映委員会
2019年10月18日より東京・テアトル新宿にて上映

・ストーリー
先輩ディレクターとの理不尽な上下関係、制作時の被写体との接し方に疑問を持ちながらも、小さな映像制作会社で働きながらドキュメンタリー作家になる事を夢見るスヤマ。未だその途中にありながらも、夢を語り理解を示してくれる恋人もいる。ある日、取材現場での先輩の姿勢に憤りを爆発させてしまうスヤマ。やがて仕事での居場所を無くした彼は、自らの新たな居場所を探すかのように、かつて希望を見失った少年を撮影したことのある釜ヶ崎へ向かう。しかし、1人で問題に向き合えないスヤマは、東京で取材した引きこもりの青年を呼びつけたり、行きずりの女性に愛を語ったりと切実さに欠ける取材を続ける。少年を探しながら街をさまよう日々。やがて、自らの甘さがもたらした結果から、スヤマは一歩また一歩と道を踏み外し始めるのだった。

・公式Twitter
https://twitter.com/kaihoukufilm
・公式サイト
http://kaihouku-film.comhttp://kaihouku-film.com

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