はじめて出会えた同じ境遇の女の子。クラスメイトも先生も、みんなゴミのように見える。学校には行きたくないし、行っても心を許せる友達はいない。誰とも話さず帰ってくるだけの毎日。何のために行くのか意味がわからない。目標も何もないのに、同級生たちはどうしてそんなに楽しそうに学校生活を送れるのだろう。
そんな日々を抜け出したいと思って応募したアイドルオーディション。そこで出会った、まるで自分のような候補生。毎日寝る部屋は同じで布団も隣同士だ。生活リズムもすべて同じだから、まるでもう一人の自分と出会ったような気がした。悩んだときや嫌なことがあったら話をしたし、逆に聞いたりもした。支え合って合宿6日目まで乗り越えてきた。そして、あと一歩でWACKのアイドルになれるところにいる。
絶対に一緒に合格してアイドルになろう。2人はそう約束した。
ワキワキワッキー(以下、ワッキー)と名付けられた候補生の女の子は、昨年の合宿オーディションの0日目。長崎県壱岐島で行われた全員面接に参加し、合宿への参加権を勝ち取った。いざ合宿に臨むんだと思った初日の朝、歌唱審査に向かうためのフェリー乗降場で倒れてしまい、合宿に参加することができなかった。挑戦する前に終わってしまった。その悔しさをバネに1年間自分を鍛えてきた。「絶対に変わって、もう1度オーディションに挑戦してWACKのアイドルになるんだ」。そんな気持ちがワッキーを突き動かしてきた。
インポッシブル・マイカ(以下、インポ)と呼ばれる女の子は、学校に行くことの目標をみつけられずにいた。自分はなんのために勉強しているのだろう。気のあわないような連中といるのなら学校に行かなくてもいいし、勉強もできなくていいと思っていた。そんな中みつけた自分が全力をかけて臨めるもの。WACKのアイドルになる。「私にはこれしかない。このオーディションにすべてをかけるつもりでやってきました」。
2人の距離が近づいたのは必然だった。似ているところは多いけれど、違っているところもある。感情がすぐに現れるワッキー、合宿を通して少しずつ自分の感情を表に出せるようになってきたインポ。脱落者が出て合宿施設から候補生が減っていくにつれて、2人の距離も近づいて行った。最終日前日の合宿6日目の早朝マラソンを終えると、2人は身を寄せ合い、笑顔でリラックスしていた。
例年、合宿の最終日前日には脱落者は出ていない。それに則れば、今日は脱落者はいないはず。それでも最後まで気を抜かずにがんばろう。2人はそれを再確認した。
この日与えられた課題は、初期BiSの代表曲「primal.」のパフォーマンス審査。WACKの先輩メンバー、WAggのメンバー、そして候補生3名を加えた13人が2つのチームに分かれて、お昼12時からパフォーマンス審査を行った。気を抜かずに全力でやった。そう思っていたし「後悔していない」ということを伝えたが、審査員でありWACK代表である渡辺淳之介は厳しい面持ちで、それとは反対の評価を下した。
「この曲は、エモーショナルになるはずの曲だから、それを超えるものを作ってきてくれという話をしました。たしかに準備時間は短かったと思う。でも今回のダンスの中で、どこにエモーショナルがあったのか、僕にはどちらにも見えなかったです。1週間やってきた候補生と、3日間いたWACKメンバー、苦楽を共をしてきたからこそ、もっと見せてくれると思っていた。もう一度チーム分けをします。残念だけど、この状況が打破できないようであれば誰も受からないです。そこは僕が決めることなので、揺るぎない事実です。納得できなければ帰ってください」
そうした一連の審査の中で、誰よりも早く声をあげて涙を流している人物がいた。BiSHのメンバーであるセントチヒロ・チッチだ。その涙についてチッチはその晩、「みんなが愛おしかったから。涙が出て来て泣きそうになりながら歌っている姿も楽しそうに歌っている姿も、全部その子がこの1週間で得たもので、普通に生きていたらこんな表情できないだろうなって。それは候補者だけじゃなくてWAggメンバーもそう。誰かのために必死になったり、いろんなことに揉まれた表情を見て、がんばったねと思って」と語った。
再編成されたチームは、WACK現役チームと、WAggメンバー&候補生チームの2つ。途中で渡辺淳之介との個別面談を挟みつつ、約4時間の練習を経て、18時よりこの合宿最後のパフォーマンス審査が行われた。課題曲は、WAggメンバー&候補生チームが再び選んだ「primal.」。両組ともにエモーショナルと自由に楽しんでやることを意識したパフォーマンスを行った。
渡辺は、「WACKチームは、よく考えてやってきたなと。願わくば最後はステージの前にいてほしかったなということくらいかな。候補生もよかったですが、先輩たちの気迫のほうが強かった。自分たちでよく考えてきたなと思います。力の入れ方もわかってきたので忘れないように。ただ、これが毎回やらねばいけない最低限です。これ以上なにができるかを考えて臨んでください」と評価した。
そのまま候補生&WAggの視聴者投票とWACKメンバーのニコ生投票、WACKメンバーの総合ポイント発表が行われた。
WACKメンバーニコ生投票結果
1位 セントチヒロ・チッチ(BiSH)
2位 ユイ・ガ・ドクソン(GANG PARADE)
3位 ウルウ・ル(CARRY LOOSE)
4位 トギー(BiS)
5位 ナオ・オブ・ナオ(豆柴の大群)
6位 MiDORiKO EMPiRE(EMPiRE)
7位 月ノウサギ(GANG PARADE)
視聴者投票(3月27日)
1位 サアヤイト( 1731票)
2位 ワキワキワッキー(1659票)
3位 インポッシブル・マイカ(1547票)
4位 キラ・メイ(953票)
5位 ア・アンズピア(706票)
6位 モンスターアイドル(540票)
WACKメンバー ポイント対決結果
1位……セントチヒロ・チッチ(BiSH)158Pt
2位……月ノウサギ(GANG PARADE)131Pt
3位……ア・アンズピア(WAgg)116Pt
4位……トギー(BiS)111Pt
5位……キラ・メイ(WAgg)110Pt
6位……ウルウ・ル(CARRY LOOSE)107Pt
6位……ユイ・ガ・ドクソン(GANG PARADE)107Pt
8位……MiDORiKO EMPiRE(EMPiRE)105Pt
9位……サアヤイト(WAgg)98Pt
10位……ナオ・オブ・ナオ(豆柴の大群))71Pt
最後に「合宿6日目の脱落者を発表します」と渡辺が静寂の中発言。「WACKメンバーも何が正解なのかどうしたらいいか非常に悩んだり、候補生やWAggメンバーも自分を見失うときがあると思います。そういうところも含めて総合的な僕の判断で脱落を決めさせてもらいました」と説明し、脱落者を発表した。
脱落者は…………
・ワキワキワッキー
・インポッシブル・マイカ
静寂の中、救済措置について発表。翌朝6時30分、オセロにて2人で対決をし、勝ったほうが残留することができる。
あまりに残酷とも言える脱落発表に対し、発表場の空気はさらなる沈黙に包まれた。その後、夕食の時間が設けられ、リクリエイションの卓球が行われ、メンバーたちの活動は終了。明日朝の救済オセロまで自由行動となった。
そんな中で、ワッキーとインポの部屋へと1人訪れた人物がいた。セントチヒロ・チッチだった。
「脱落者発表があってから、どうしても私は2人に声がかけられなくて。他のみんなは「大丈夫だよ」とか「がんばろうね」とか声をかけていたけど、2人の気持ちは計り知れないくらい絶対に苦しくて。悲しいとか悔しいとかそんなもんじゃないと思う。
そう思ったら、何も声をかけることができなくて。私も涙が止まらなくて、どうしても伝えたい気持ちとか言葉があった。もしもどちらかが落ちて、心がぐしゃぐしゃに折れちゃって嫌になったり諦めちゃうかもしれないと思ったとき、どうしても諦めてほしくなくて。普段の生活に満足していない2人だと思うし、きっと明るい生活をしているわけじゃないからこそ伝えたくて。糧になるものを持って帰ってほしかったから、手紙に書いて2人に渡しました。
部屋に行ったら2人ともぼーっとしていて。外に出て来てくれたので、思ったことを言わなきゃと思ったんだけど、やっぱり全然言えずに私も泣いちゃって。2人のことが大好きだからどうしても伝えたいことを手紙に書いたんだってことを伝えて「諦めないでね」って言って渡したら2人とも号泣しちゃって。涙涙の時間でした。
インポって実はあまり泣かないんですよ。ワッキーは感情が溢れてすぐ涙が出る子で。この2日でインポはすごく泣いていて。この子、こんなに泣けるんだなと思って。最初はあまり感情を出せない子だったんですよ。2人はすごく魅力があると思う。清らかな力だと思う。2人の関係性を私は知っていたからこそ、めちゃめちゃ悲しくて。こんな酷なことがあるのかと。普通に仲がいいだけじゃなく、やっと出会えた絆みたいなものが2人にはあって。私は小中学生の頃いじめられていたから、2人の気持ちはわかる。そういうときに出会えた存在って、思春期の彼女たちからしたらめちゃめちゃ大きい。その相手と最終的に戦わなきゃいけないこの瞬間って、すごく辛いと思うんですよね」
ようやく出会えた2人の物語。どちらか一方が脱落をし、一方が合宿最終日に残ることができる。運命はどのような未来を描いていくのか。この後、6時30分よりオセロの対決が行われる。
取材&文:西澤裕郎
写真:外林健太
全て見せます! WACKオーディション合宿2020完全密着 6泊7日の死闘
3月22日(日)13時~「前半」:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv324617066
3月25日(水)12時~「後半」:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv324617068
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