2020年2月22〜24日の3日間、沖縄県那覇市の桜坂劇場にて〈Trans Asia Music Meeting(TAMM)〉が開催された。
>>沖縄から日本とアジアの音楽市場に交流を生み出す〈TAMM 2020〉を現地レポート
同イベントでは、世界各地の音楽業界人を招き、それぞれの音楽シーンや抱える問題などをプレゼンテーション・ディスカッションするとともに、日本から世界のインディー音楽シーンに与する人々の課題点や展望を共有する大事な機会となった。StoryWriterでは、アジア現地の音楽シーンで活躍する彼らに個別インタビューを決行。それぞれの地域や国の音楽シーンやお勧めの現地ミュージシャンについて話を伺った。
第1回となる今回は、タイの音楽業界で働くPiyapong Muenprasetdee(以下、Py)と、タイに10年以上在住し、バンドマンとして活躍する傍ら、日泰音楽交流インディーレーベル〈dessin the world〉を立ち上げたGinnに、タイの音楽シーンからおすすめの現地バンドについて話を訊いた。
取材&文:エビナコウヘイ
INTERVIEW:Piyapong Muenprasetdee(タイのストリーミングサービス「Fungjai」コアファウンダー)
──まず、Pyさんがタイの音楽業界でどんなことをされているか教えてください。
Piyapong Muenprasetdee(以下、Py) : 音楽ストリーミングサービスとオンラインマガジンを配信する「Fungjai(ファンジャイ)」のコアファウンダーを務めています。その他、〈Mahorasop Festival〉というタイ初の国際的な音楽フェスで、カンファレンスやショーケースなども主催しています。主にタイのインディーズ音楽コミュニティと協力してイベントをやる事が多いですね。その他に、〈Bangkok Music City〉というカンファレンスも担当しています。
──タイの音楽だと、Gym and SwimとかPhum Viphurit(プム・ヴィプリット)なんかも最近日本で有名になってきています。その他、ここ数年はシティポップが人気でしたが、これからはどんなジャンルが人気になってくると思いますか?
Py : H3F(Happy three Friends)とかは結構毛並みが違う感じですかね。Phum Viphuritももちろん人気ですけど。これからどうなるのかっていうのはハッキリ分からないんですが、オルタナのジャンルも人気が出て来ていると思いますよ。「Fungjai」を検索してもらうと分かると思いますが、実は「Fungjai」はほとんどタイの音楽だけを扱ったストリーミングサービスなので4000バンドくらい登録されているんです。プレイリストやラジオ番組もあるので、それを聴いてもらえれば結構分かりやすいかもしれません。やっぱり、自分の耳で聴いて見るのが一番です。自分で「Fungjai」に音楽をアップロードすることもできるので、もっと自由に音楽が広がっていける場になればいいと思います。
──「Fungjai」に携わろうと思ったきっかけを教えてください。
Py : 僕はだいぶ初期から関与していて、僕が入る前には4人のコア・ファウンダーがいました。彼らはグラフィックデザイナーやコンピュータープログラマーでしたが、その後に僕はマーケティング担当兼ミュージシャンとしてここに参加しました。やっぱり僕の目標としては、タイの音楽を発展させながら世界にもっと打ち出していけたらなと思っています。僕は元々エンジニアで、持続可能な発展についてのコンサルタントなどもやっていましたが、音楽産業についてはもっと適切に解決されないといけない問題があるのに、それが適切な手段で行われていない感じていて。政府ともよく仕事をしたりしますが、音楽産業に関する政策や支援を変えてほしいという話し合いもしています。
20年前から始まったタイのインディーズ音楽の隆盛
──タイのインディーズ音楽の発展はこの10年くらいで目覚ましいものがあったと思います。そこにはどういう要因があるんでしょう?
Py : 僕は20年ほど前からタイのインディーズ音楽が成長を遂げてきたと思っていて。当時、タイの音楽学校に関する有名な映画『早春譜(Season Change)』に多くの子供たちが影響を受けたんだと思います。最近のバンドもそういった音楽学校の出身の人も多かったりするので、結果としてタイの音楽レベルの底上げにつながったのではないんじゃないかなと思います。
──その世代に流行っていたのはタイのアーティストの曲でしょうか? それとも海外のアーティストの曲が多かった?
Py : インディーズ音楽をやっている世代のタイのミュージシャンは、もちろんそれぞれの音楽的バックグラウンドはあると思いますが、国内外問わず、なんでも聴いて影響を受けてきたのではないでしょうか。例えば、4、5年前くらいの話なんですがタイではポストロックが流行っていました。その後シティポップ、ドリームポップ、ニューソウルと色々なジャンルが流行り始めて来ましたし、逆にちょっと規模が小さくなって来ているのはメタルとかですね。パンクとかハードコアのシーンはそれなりの規模ではあるけど、まだ規模的には小さいかな。でもタイで音楽シーンが大きくなっていく要素は整ってきました。ライヴをやる会場も増えてきていますし、我々の「fungjai」のように音楽ストリーミングサービスも浸透して、音楽を広めていく状況は整っています。
──では逆にタイで人気な日本のアーティストはいますか?
Py : パッと思いつくのはやっぱり、The fin.とかLITE、CHAIとかですかね。実際パフォーマンスもすごく良かったですよ。
──僕の印象だと、東南アジアの音楽シーンはプロモーターやキュレーターが繋がっていて、そこでビジネスも成り立っていると思うのですが、それでも日本を始め海外に進出する目的ってなんでしょう?
Py : 僕個人としては、東南アジアの業界人の結びつきがそんなに強いっていうこともないと思いますよ。僕がこうやって今回日本に来た理由っていうのも、タイの音楽シーンはもっと国外に出ていくポテンシャルがあると感じているのに、タイのミュージシャン自身がそれを理解していないのかなと感じることも多いからで。タイ語で歌うアーティストが多いので、彼らは国外に出てもそんなに人気が出ない、売れないんじゃないかなって思っている気がするんです。タイのYellow Fangというバンドが一つの良い例だと思うんですけど、彼女らはタイ語で歌唱するけど、日本をはじめ海外のフェスからオファーを受けて確実に評価されてきています。
いずれにしてもタイの音楽シーンを知っている、好んでいる人は東南アジアでもとても少ないんです。なので、私はいろんな場所に出向いて、タイの音楽をもっと、国や地域を超えて広めていけるようにしています。PYRAとかもタイでの人気はそこまで大きくなかったんですけど、海外のショーケースやイベントに出演して評価をいただくことで、海外での人気が出ていますし、アメリカの大人気イベント〈Burning Man〉にも出演を果たしました。数週間前にはワーナーミュージックとも契約しています。
──最後に、タイで最近おすすめのバンドを教えてください。
Py : やっぱりYellow Fangですね。ガールズバンドなのですが、彼女らは日本の〈Summer Sonic〉にも既に2回出演していますし、また日本にもツアーで来るんじゃないでしょうか。アメリカや韓国、台湾、香港、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、インド…… 本当に各地を回って活動しています。歌詞はタイ語なのですが、世界中のインディーシーンで人気が出ていますね。ぜひ聴いてみてください。
タイの音楽シーンに12年触れ続けるGinnによる現地の注目バンド3選
〈TAMM〉に参加し、自身も現地でミュージシャンとしてタイで音楽活動する傍ら、日本とタイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」を主宰している、タイ在住12年の日本人Ginn。彼にもタイの現地の音楽シーンの概要、そしてまだ日本に広く知られていない現地のバンドをオススメしていただいた。
以下はGinn氏によるレコメンド。
タイ音楽も日本と同じように多くのジャンルがありまして、一般的に人気があるのはポップス(最近はヒップホップ(風)も)なのですが、インディーズでは、ポストロック、マスロック、シューゲーザー、ハードコア、パンク、エレクトロニカ、ノイズなどなど多種多様です。その中でも、インディーズではここ3年ほどはシティポップが大流行してて、新しく出てくるバンドのほとんどはシティポップバンドだったりします。
ただ、ここ最近、アングラの現場では流れが徐々に変わってきており、オルタナ勢が元気よく暴れまわるようになりました。Safeplanet、Moving and Cut、Gym and Swim、Zweed n’ Roll、Solitude is Blissなど、今やすっかり人気者となったバンドが同時多発的に出現した7~8年前。様々なスタイルのバンドがごった煮で一緒にライヴをやっている時代があり、「これから何かが始まる」というワクワク感がインディーズシーンを席巻してた時期がありました。
それを経て、似たようなバンドばかり出てきて正直つまらなくなった期間を過ぎ、尖ったバンドが再び芽を出してきました。”タイのインディーズシーン、また胎動始まったな”っていう感覚。
今回ご紹介するバンドも、あと3年もすれば(活動を続けてくれれば)、人気バンドになっているはずなので、今のうちからチェックよろしくお願いします。
1. 世界が見つける前に見つけておこう「Beagle Hug」
ツインドラムにギター、ボーカルという構成のエクスペリメンタルポップバンド。
ボーカル Aeの力強くてどこまでも伸びていく声に心を奪われ、ギター Bankの音作りと間を大切にするフレージングにも心奪われ、さらにツインドラムの掛け合いに心奪われるし、Torphanがベースを弾きながらバスドラムを踏み、電子パッドもいじるスタイルに心奪われるし、とにかくライヴが始まってから終わるまでずっと心奪われます。
ライヴで感じるBeagle Hugの音はしんしんと身体に染み込んできて、気付くと全身に音が張り巡らされおり、もう一音一音に反応してしまいます。音源も素晴らしいし、ライヴも素晴らしいし、ずるいなこのバンド。
今年にはまとまった音源をフィジカルでリリース予定とのことで、聴く用と観賞用と配る用に10枚くらい買おうかと思ってます。
2. 今年のタイのインディーロック大本命「DOGWHINE」
インディーロックな疾走感と、ジャジーでブルージーな倦怠感を併せ持つバンド。完成度の高いアンサンブル、敢えて引っ掛かりを持たせた印象的なフレーズ、縦横無尽に駆け回るサックスを武器にライヴを重ねてきて、今では観客を没頭させ熱狂させるまでのステージングになりました。良いライヴするんだよなあ。
タイの若手バンドには珍しく歌詞の内容が社会派で、確固たる意志を感じられます。2014年から去年まで続いていたクーデターで樹立された政権への皮肉を交えての批判や、失業問題、 民主主義について歌ってたりします。去年はタイの大型野外フェス「CAT EXPO」の新人ステージに抜擢され、注目が集まりつつあり、僕としても嬉しい限りです。今年のタイフェスシーズン(タイでは11月~12月にかけて大型音楽フェスが開催されます)では、きっと、去年よりも名前を聞くことが増えることでしょう。
3. チェンマイからの新星「Yonlapa」
チェンマイの新星、渋フィメールポップ。以前は所属レーベルが運営しているチェンマイのバーで弾き語りしてたシンガー・ソングライターだったのですが、今はメンバーを携えバンドとして活動。ボーカルの名前をそのままバンド名にしています。北部特有の気候がそうさせるのか、やっぱチェンマイのバンドはバンコクのバンドとは違う空気感があります。からっと乾燥した空気の中、全力で熱光線を放ってくる南国の太陽の暑さが和らぐのを、木陰で待つ午後にぴったり寄り添うサウンドです。
まだ数曲しかリリースしていないものの、チェンマイではもちろん、バンコクすら飛び越え、日本でもファンがじわりじわりと増加中。今年の5月にフィジカルリリースということで、必須アイテムとなること間違いなしです。
・Fungjaiオフィシャルサイト https://www.fungjai.com/
・Fungjaiアプリダウンロード
Android:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.fungjai&hl=ja
iPhone:https://apps.apple.com/th/app/fungjai/id999518766
Ginn
タイ・バンコク在住12年以上の日本人。
フリーランス(イベントプロジェクトマネージャー、プロモーションプランナー、営業戦略コンサルタント、など)として仕事をしつつ、音楽活動を継続的におこなっている。日本・タイのインディーズシーンを支援するためのレーベル「dessin the world」も運営。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、日本とタイの音楽交流のための草の根活動を行なっている。
dessin the world 公式ホームページ:https://dessin-the-world.jimdosite.com/
Facebookページ:https://www.facebook.com/dessin.the.world/