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コロナ禍を生き延びろ! ライヴハウスに住み続ける男が打つ次なる一手とは?

StoryWriter

東京のオフィス街・四谷にある200人キャパのライヴハウス、四谷Outbreak!。

開店15周年を迎えたこのライヴハウスは一風変わった企画をすることの多いハコでもある。「ライヴハウス界で1番キレイなトイレ」を目指しクラウドファンディングで151万円を集め、ノイズバンドが演奏している中トイレ工事をしたり、ライヴハウスにも関わらず耳栓を販売したり、献血カード提示で入場無料となる「献血ギグ」をしたり、変化が必要だと感じたことに対して独特なユーモアをもって改善してきた。

そうしたアイデアを発案し、リーダーシップを持って推し進めてきたのが、店長の佐藤”boone”学である。

四谷Outbreak! もまた、新型コロナウィルスの拡大による自粛要請によって経営や今後のあり方を模索している。3月14〜16日には「デスクワークギグ」と銘打ち、佐藤自らのデスクワークを配信。4月1日からは全ての営業を中止し、代わりに自らライブハウスに住み込んで配信などを行う「2週間住み込みギグ」を行ってきた。三密にならない状態でゲストを呼んでパフォーマンスの生配信を行い、投げ銭を受付ながら、ブッキングもしている。

まさに彼の生き様がそのままコンテンツになっているが、その行方は人ごとではない。誰も正解がわからないが変化が求められる中、スタッフを守り、四谷Outbreak! を存続させるために無我夢中で動き続けている。そんな佐藤に、住み込み2週間が経った日に話を訊こうと連絡したところ、新しくやろうとしていることがある、と更なるアイデアがあることも教えてくれた。そこで、ライヴハウスの現場から、佐藤の身の回りのミュージシャン、今後のブッキング、新しく行おうとしている施策まで、漏らすことなく話を訊いてきた。

…………。

と、この記事を公開しようとした直前、事態は急転。

4月16日から5月6日まで、無観客のライヴ配信などを行った場合には、感染拡大防止協力金の対象から外されるという情報がSNSにて飛び回ったのだ。

ひとまず、5月6日まで延長しようとしていた「2週間住み込みギグ」は白紙に。そして佐藤自らも役所に電話して確認するなど、現在もなお正しい情報を確認中の状態である。

 

状況は日々大きく変化している。

この記事も公開延期をと思ったが、四谷Outbreak! も稼働していないということをはっきり明記した上で、2020年4月14日に行った下記インタビュー記事を公開することにする。

ライヴハウスは今本当に緊張感に包まれており、一刻の猶予も許されていない。生き残りをかけて頭をひねってアイデアを生み出し行動しようとしている。その事実を知ってほしい。

あわせて、4月19日時点の佐藤のコメントも下記に掲載する。

どうも、アウトブレイク佐藤です。

生配信も協力金の対象として外れるかも? ということで毎日事務作業に勤しんでいます。

都からの発表は全然なくてコールセンターは電話しても正しい答えが得られない事がわかった。SaveOurSpaceの皆さんが今、声をあげてくれて情報が拡散されています。皆さんも是非声を上げて欲しいな、と。

全部のイベントをキャンセルにして働くスタッフのシフトを白紙にして、それでも3密に気を付ければ配信は最小の人員で行って良いと当初は言ってくれていたからこそ僅かな雇用が生まれ、希望が持てました。

しかしそれすら、たった数名の「出勤」すら許さないというのならば、それは音楽業界だけじゃなく全ての娯楽/芸術に対して辛すぎませんか?

僕はこの店のオーナーではありません、雇われ店長です。
恩義あるオーナーにこれ以上迷惑をかける事ができない。
今はただじっとしています。毎日心が死んでいくのがわかります。

ただ、ピンチはチャンス。アウトブレイクらしいやり方で皆さんを楽しませるので期待していてください。

合わせて皆さんが好きなライヴハウスへの支援をお願いいたします。

佐藤

 

取材&文 : 西澤裕郎

※この取材は、2020年4月14日に行われたものです。


これだけみんなが愛をくれて、俺たちは何を返せるんだろう

──2週間アウトブレイクで暮らしてみた感覚はいかがですか?

佐藤”boone”学(以下、佐藤) : それが、結構楽しいんですよ(笑)。いろいろな人が来て音を出してスッキリして帰っていくのが手に取るように分かる。この2週間でアウトブレイクというか、ライヴハウスがこんなに愛されていたのか、という面も見れたし、逆にこんなに必要とされていなかったんかい! みたいなこともわかったし。

──「必要とされていなかった」というのはどういう時に感じるんですか?

佐藤 : それは政府の対応とかも含めて。落語家さんが生配信をしたとき、興行が全部キャンセルになったことを語りながら「こんなに俺たちって必要とされてなかったのかな」と涙ぐむシーンがあったんですよ。最初に「結構楽しい」と言いましたけど、それもこの2週間で終わりかなと我々も思っていて。ライヴハウスの寄付や投げ銭とかもピークも越えて、みんなからもらうものはもらってしまった。そういう状況で、じゃあこれからどうしようみたいな感覚ではいます。

佐藤の職場であり現在寝泊りをしているライヴハウス・四谷Outbreak!

──4月5日のTwitterで「多分ライブハウスがんばれ~!の投げ銭やグッズ販売はあと1週間で旬を終える」と、つぶやかれていました。どのタイミングで、フェーズが変わると感じたんでしょう。

 

佐藤 : アウトブレイクでBASEを使って投げ銭の仕組みを始めたのが4月1日からなんですよ。ドリンクチケットと、Tシャツ、お礼の手紙みたいな感じで、いくつか投げ銭の種類があって。毎日課金してくれる人もいるし、想像できない価格をぶっこんできてくれる人もいた。最初の1週間はそれで「すごい!」「ありがとう!」みたいな気持ちだったんですけど、7日目ぐらい過ぎて、ずっとこれを続けたらあかんだろうという不安・恐怖に近いものが出てきて。これだけみんなが愛をくれて、俺たちは何を返せるんだろうって。しかもこの状況は想像以上に長く続くことが分かってきたとき、2、3ヶ月これは続けていられないよねって。なので1週間目ぐらいですね。次にシフトしないと、これは無理だなって思ったのは。

──3月14〜16日には、アウトブレイクのフロアでブッキングのオフィスワークをする「デスクワークギグ」を行いました。その間、お店は休みにして、スタッフには1万円ずつ渡して「好きに使ってこい」ってメッセージを出していましたよね。あれはどういう気持ちからやられたんですか?

佐藤 : あれはもう、やけくそでしたね(笑)。もちろん給料の補償という面もあるんですけど、休まにゃならぬという雰囲気の中で生配信という頭もそんなになかったので。俺たちができることなんだろう? って言ったら、いい仕事をするために力を蓄えること以外ないなと思って。この1万円で楽しいことをして、その楽しさを還元できるように使っておいでっていう気持ちで渡したんです。

──みんな、どんなことに使われたんですか?

佐藤 : みんなやさしいから、うちのボロボロになった看板を買い替えてくれたりとか(笑)。ちゃんと自分のために楽しんで使ってやつもいましたよ。

──「デスクワークギグ」自体は、どういう気持ちでやられたんですか?

佐藤 : ただ休むことだけにしたくなかったのと、その時はこんな状況になるとは正直思ってなかったというのもあります。ライヴハウスにできることというか、何か変わらなきゃ感はあったのかもしれないですね。ただ、あの頃はめっちゃやけくそだった。本当にこの野郎! としか思ってなかったかもしれない。

──ライヴハウスで感染者が出たことによって、叩かれる対象であったりスケープゴートにされていることに対する苛立ちというか。

佐藤 : 当然ありましたね。それは他のハコにもあったと思います。

ライヴハウス閉店は他人事ではない

──4月1日からは「2週間住み込みギグ」が始まったわけですが、その発想というかアイデアはどういうふうに生まれていったんでしょう?

緊急事態宣言の発令によって、5月6日まで住み込みを延長することになった

佐藤 : 前日3月31日の午前中に、これしかないんじゃないかと思って。知り合いのバンドとか、その期間ライヴが決まっていた人たちに「この期間、こうやって使おうと思います。すいません!」みたいな感じで連絡を回して。俺がやっている企画で唯一かな。オーナーにも事前の承諾を得ましたね(笑)。

──アウトブレイクの店長で決済権があるとは言え、オーナーが別にいるわけじゃないですか。でも、今までは「なんでもやっちゃうライヴハウス」として佐藤さんの独断と責任でやってきたんですよね。

佐藤 : 独断です。だから本当にオーナーに確認をとったのは初めてかもしれないです(笑)。

──今回、承諾をとって開催したのはどういった理由からなんでしょう。

佐藤 : お店としての収入が100%なくなるという数字的なことがとてもシビアに見えていたので、その間シフトを決めていたスタッフの給料の補償をしてほしいということを話したかったんです。というのと、この2週間はこの店自体が絶対に注目される自信もあったので、金に変えられないものは絶対に得るからやらせてくれって言うことを伝えて理解してもらって頼みましたね。

──4月7日には東京で緊急事態宣言が出ました。いずれにせよ、お客さんを読んで収入を得るということは、もともと難しかったんじゃないですか?

佐藤 : もともと難しかったと思います。そもそも店に僕がいて誰かを呼ぶという行為自体も世間にプラスに受け止められない可能性も多々ありました。だけど告知する時は自信があったんですよね。絶対みんなワイワイ楽しんでくれるだろうって。

──実際に、その2週間でちゃんと収入を得ることはできましたか?

佐藤 : 4月1日から14日に関しては、BASEで売っているドリンクチケット、Tシャツ、お礼の手紙が届く投げ銭、それらを「住み込みギグへの愛」って僕たちは呼んでいるんですけど、その3種類でスタッフの人件費などは稼げました。

四谷OUTBREAK! の投げ銭サイト

──僕も通販をBASEでやっているんですけど、入金速度的に今1番早く現金化できるプラットフォームの1つですよね。逆に、YouTubeとかクラウドファンディングは月末締めの翌月末で、カード会社からプラットフォームにお金が入ってくるケースが多いので、実際お金を手にするのは翌々月頭とかになる。となると、4月に始めたとしても入金が6月頭とかになってくるわけで、その間の運転資金は大丈夫そうですか?

佐藤 : お金に関してはオーナーと本当に毎日話し合っていて。幸いなことにアウトブレイクは開店して15年経っているので、比較的借金的なものは払い終わっていて、毎月の固定費の中に銀行への返済というのはほぼほぼないんですね。実質家賃と人件費がメインなので、運転資金的に言うとあるにはあるんです。ただ、それはオーナーが身銭を切って出している資金であって。先が見えない状況の中で身銭を切って生命維持をさせていてもどうしようもないと思って、損切りみたいな感覚で閉店するという判断になるのが1番怖い。だから今、これだけアクティブに動けていて、これだけ未来がありますよというのを、僕たち現場のスタッフがオーナーにも見せているという側面もありますね。

──今日調べた限りだと、コロナウイルスの影響によって5店舗のライヴハウスが閉店になっています。四谷でも1軒閉店している店舗がある。リアルに閉店するところが出てきている現状に関して、佐藤さんはどういうふうに思われていますか?

佐藤 : 当然ショックで、他人事ではないなという面が1番デカいです。ここで拍車がかかっちゃったら嫌だなって気もするんですけど、先が見えなさすぎるからの判断ということを考えると、しゃあなしという感じはありますね。結構冷静に見ちゃいましたね。あー逝ったか…… みたいな。今後先が見えないから1回終わっておこうという判断をするオーナーはめちゃくちゃいると思います。

地方や店に来た事がない人に見て貰えた実感が強くある

朝9時には起きてデスクワークを始める

──佐藤さんがまとめている全国各地のライヴハウスのYouTubeチャンネル一覧があるじゃないですか? 結構見ているんですけど、週に2、3本動画をあげていても、1本あたりの再生回数が数十回とか数百何回とかというのがリアルな数字で。チャンネル登録者数と再生時間数をクリアできたところで果たして収益化できるのか? という壁が次に出てくるのかなとも思うんです。

佐藤 : あのリストをアップしたのは、選択肢が1つ増えるだけで未来が見えるかもしれないという想いがあったのと、リストに登録して、その流れで好きなライヴハウスのドリンクチケット買ってみようかなとか、ワンクリックでアクションを起こさせることによって次の購買に繋がるなと思ってやったんです。YouTubeでの収益化に関して言えば、おっしゃった通り難しくて。収益化できるサイトってYouTubeだけじゃないから、ライヴハウスが自分の店にあったやり方をすればいい。ただ、間違いなくコンテンツが強くないと、おもしろくないし、お金にもならないとは思いますね。

──1万再生されているライヴ映像を観て、結構再生されてるなと思っていましたけど、YouTuberと比較したらだいぶ少なく見えちゃいますよね。

佐藤 : たぶんみんなが1番欲しい機能って、再生回数に応じたお金ではなくて、生配信をやった時のスーパーチャット=投げ銭システムだと思うんです。他のサイトに誘導することなく、YouTubeというプラットフォームで、自分のコメントや課金した証が残せる。クレジットカードがあれば2クリックくらいで投げ銭ができる機能が欲しい。正直、YouTube的な編集をして攻めることは難しいだろうなって。お客さんを呼んだライヴはできないけど配信はしますってなった時の収益化を目指していると思うんですよね。YouTubeってことに関して言えば。

四谷OUTBREAK! をステージ側から眺めた景色

──ぶっちゃけ、それって音楽に対してお金を払っているというより、アーティストやハコを応援するためにお金を払っているということですよね。

佐藤 : まさにそうだと思います。

──ちゃんとファンがいるアーティストは投げ銭してもらえるのかもしれないけど、いい音楽をやっているけど無名な人にも可能性はあるんでしょうか。

佐藤 : 音楽を提供するコンテンツとして動画配信がベストかと言うと、クオリティの問題もあるので難しいと思うんですよ。ただ、2週間動画配信をやってみて、地方の人とか知らない人に100%リーチできている実感が強くあるんです。たまたま観て「このバンドいいじゃん」となって投げ銭をしてくれた人もすごくいっぱいいる。そこは、未来があるなと思っていて。所謂、ライヴハウスで頑張っているインディーズの子らって、自分たちのチャンネルじゃ訴求力がないじゃないですか? そういう人たちが集まるライヴハウスのチャンネルだったら、まだ可能性がある。というところで、僕は自分の店の生配信を頑張っている。その窓口になれるチャンスなんですよね。俺らはずっと、ライヴハウスがいろいろな人を繋げられる場所でありたいと思って発信し続けてきたんです。それが今は「俺らのチャンネルでライヴちょっとやってよ! 自分たちだけでやるより、いっぱいの人が観てくれる。もしかしたらお金になるかもしれない」というのが、2週間で作れるようになってきた。それで俺、今が楽しいのかもしれないですね。

──昔は1つのイベントに5、6組のミュージシャンが出ていることでたくさんの発見があったけど、近年はそういうイベントにお客さんが集まりづらくなっていました。そういう意味でいくと、家や自分の好きな体勢で観れる配信が、かつてのライヴハウスがやろうとしていたことを担う可能性が出てきたわけですよね。

佐藤 : 似ている側面もあると思いますね。今僕らは種を蒔いているという気持ちがあって、終息したらチェックして気になった人たちのライヴに行ってほしい。そこがあるからライヴハウスの店員としての人格を保てているというか。それはめっちゃあります。

──落語家の方のライヴ(三遊亭司&若林美保)、配信で観ましたけどおもしろかったです(笑)。

佐藤 : 最高でしたよね(笑)。

 

──コロナがなく日常が続いていたとしたら多分出会うことがなかったなと。

佐藤 : お客さんがいたら、俺もあんなブッキングしないですよ(笑)。初顔合わせの2人でやってもらうことは無観客だからできたことです(笑)。

ライヴハウスで生活する1日のスケジュール

──実際、ライヴハウスに泊まっている1日はどうやって生活しているんですか?

佐藤 : 基本的には、朝テントで9時くらいに起きて活動を開始します。

佐藤はステージ上に設置されたテント内で寝泊りをしている

──あのテントは平野(勝之)さんが持ってきてくれたそうですね?

佐藤 : 床に寝ようかなと思っていたんですけど、平野監督が初日に持ってきて組み立ててくれました(笑)。テントで起きたあと、最初の配信の予定が昼過ぎとかなので、1回風呂に入るため家に帰ります。

──風呂は家に入りにいくんですね(笑)。

佐藤 : そもそも住み込む必要がないんです(笑)。風呂とか洗濯をして荷物を持って昼前に戻ってきてから事務作業をします。事務作業が結構溜まっているんですよ。バンドとの連絡もあるし、BASEの発送とか。あとは生配信だけじゃなくて、映像の編集とかもやりながら昼過ぎの生配信に臨むみたいな流れですね。生配信が始まっちゃうと、その後は結構タイトにスケジュールを組んでいるので、ガーっと生配信して夜12時ぐらいに一旦終わる。で、Twitterとかチェックしながらお酒を飲むと、1杯ぐらいで眠くなっちゃうんですよね(笑)。

──何時くらいに寝ているんですか?

佐藤 : 2時、3時くらいですかね。本当は朝までやりたいんですけど、寝ちゃいますね。生活リズムで言ったら、普段よりも確実に人らしいことをしていますね。

──ここにある生ハムは差し入れで持って来てもらったんでしたっけ?

佐藤 : 生ハムもそうだし、ほとんど差し入れですね。食費たぶん、この2週間でまだ0円だと思います(笑)。

日本ローレグライズ協会の理事長、フリー女優連盟理事の葵マリー さんからの差し入れ

──何を食べているんですか?

佐藤 : 差し入れられた飯がいっぱいあるんですよ。演者さんが持ってきてくれたり、Amazonで毎日送られてくる。食生活は普段より充実していますね(笑)。

配信スタジオとしてライヴハウスを提供する新しい試み

──佐藤さんの周りには、ミュージシャンの人もいっぱいいらっしゃるじゃないですか。この状況の中で佐藤さんの周りのミュージシャンの方はどのような日々を送ってらっしゃるんでしょう?

佐藤 : 音楽で食っていた、いわゆるスタジオミュージシャンたちは軒並みツアーもキャンセルだったり現場が飛んでいて。みんなガチで工事現場とかで働いていますね。「バイト始めたわ」みたいな連絡も来ます。こちらから「こういうタイミングだから生配信できるんでやってもらえませんか?」って話をしたんだけど「佐藤くんごめん。養う家族がいるから、今は日銭を稼がないと」みたいな。「久々だぜ! バイト!」みたいなミュージシャンはめちゃくちゃ多いですね。

──音楽スタジオも開いていないから、練習などもできないですしね。

佐藤 : そう。なので困ったのが、仮に6月にライヴがでれる環境になったとしても、そこからバンドたちもリハーサルがスタートするんですよ。音を合わせたりしてバンドとしての感を取り戻すのに1、2ヶ月はかかるだろうと思っていて。「じゃあ、来週みんな集合でライヴやろう!」とはならないじゃないですか。

──いろいろなものが1回ストップしちゃっているから、機材だったりスタッフにしても、再び動き始めるには時間かかりますしね。

佐藤 : 7、8月のライヴブッキングに誘ったり、キャンセルになった人をスライドしていたりするんですけど、今は「ちょっと待ってくれ」という声の方が圧倒的に多いですね。

──NEPOの森さんも取材したときに言っていました。9月あたりがリアルな再開時期じゃないかって。

>>ライヴハウスと飲食店の現在 Vol.1──緊急事態宣言直前、売上0で毎月200万ずつ減っていく現状を語る

佐藤 : じゃないかなと思います。ただ、9月になったらなったで、今度は数少ないバンドたちをライヴハウスが取り合う戦国時代が始まるんですよ。だからこそ別レイヤーを1個用意しておかないとやべーぞってことで、僕らは配信のスタジオとしても、ライヴハウスとしても機能したいと考えているんです。

──ブログに書こうとしてもまとまらないからって言っていたのは、今言っていた配信のスタジオとして運用を開始するということなんですよね? どういった仕組みなのか教えてもらえますか?

佐藤 : 5、6月限定になる可能性もあるんですけど、要はライヴしたいけどライヴハウスに来るのは嫌だ、お客さんを呼びたくないっていう人たちに向けて、配信スタジオとしてライヴハウスとを提供したいと思っています。僕らスタッフが配信をして、動画のコンテンツとして残すので、まずバンドには経費としていくらかもらった上で、収益を返していくという形にしたい。僕らもお金を確保しながら、バンドが納得するクオリティのものを配信していく。投げ銭制にするのか有料ライヴにするのかはバンドと相談。そのお金をうちの人件費に当てたり、バンドのバックに当てたりする形でやろうかなと考えています。

配信用のカメラ

──例えば僕がバンドマンで、アウトブレイクを使いたいとします。まず人件費だとか場所代を先にお支払いして配信してもらう。その後に投げ銭で得たお金や、再生回数に準じたバックなど、ある程度見込みで返してもらうようなイメージでしょうか。

佐藤 : バンドによっては1000円払ったら観れるみたいな、有料配信ライヴという形にして、そのお金をバンドに返すという形にしたいなとも思っています。

──この1ヶ月でやってきた配信のノウハウがあってこそですね。配信におけるアウトブレイクならではの強みはどういうところにあると思いますか?

佐藤 : 他のハコの配信も全部チェックしていますけど、この規模のライヴハウスの中では1番かっこよく撮れているんじゃないかなって気はしていますね。クオリティがまず1つ。そして、この生配信YouTubeバブルの中でも、再生回数とかアクセス数とかを見ると、うちは比較的注目してもらっているので、いい宣伝というか、いい窓口になれるのかなというところが、めちゃくちゃありますね。

──撮影はカメラ何台くらいでやられるんですか?

佐藤 : カメラは4台あるので。

──公開してるセッティングの通りですね。PAさんも、照明さんもいますしね。

佐藤 : PA、照明は予算に応じてという形にしようと思います。でも基本、僕がいるので僕がやります。強みは、要はカメラマンとかもうちの受付とかバーをやっているスタッフ。言ったら素人なんですけど、うちに出ている連中だったら、そいつらのこと知っているし、アウトブレイクでやりたいってバンドだったらみんな愛を持ってやっているから足りない技術を愛でカバーできると思うんです。

 

──大切ですよね。愛があると気持ちが入るし、熱量みたいなものは伝わりますから。

佐藤 : 今は自分の撮った動画とか生配信を冷静に観れないということもあるとは思うんですけど、技術わりにやってるな! 俺たち! みたいな気持ちはめちゃくちゃ思いますね。あと生配信であれば、それがある意味許されるというか。生のライヴとも違うものを見せたいので。だからステージでは絶対生配信ライヴはやらないって決めているし、こういう特殊な環境下でやりたいなと思っています。

──蛍光灯の光とか格好いいですよね。どうして蛍光灯を裸のまま置こうと思ったんですか?

佐藤 : 動画にしたとき、普通のライヴハウスの照明ってクソダセえなっていうのにずっと気づいていて。蛍光灯にしたらなんかいいぞみたいな違うぞみたいな(笑)。DOMMUNEみたいにしたいなって勝手に思っていたんですよね。

ライヴハウス中にいる僕の見立てですけど、戻るわけはない

──ちなみに、2週間住み込みギグの間に、後藤まりこさんとクリトリック・リスの2マンライヴ〈まりクリ東名阪、天国と地獄ツアー〉が9月3日に決まりましたよね。これはどういう経緯で決まったんでしょう?

佐藤 : 後藤さんから「何日か何日空いてる!?」って電話がいきなり来て。「スギムとやるから、あんたと未来の約束せなあかんねん!」みたいな感じで、日にちをすぐ決めてくれました。めちゃくちゃうれしかったですね。感動しました。

──スギムさんがつぶやいていましたけど、ライヴハウスがなくなったらミュージシャンもライヴをやるところがなくなって生活もできなくなってしまう。つまり、音楽自体を巡る環境そのものが全部地盤沈下してしまう怖さがあります。

 

佐藤 : 落ち着いたら絶対に復活するというのはなんとなく分かっているんですけど、店にしろ、アーティストにしろ、そこまで持ち堪えられない人がどれだけいるかっていう。人気なくて淘汰されていくのはしょうがないですけど、こういう形での淘汰は誰も望んでない。それがつらいですね。

──今後のブッキングはそのまま継続なんですか? キャンセルとかも出ている?

佐藤 : 今のところ、ごめん! って人もいますけど、様子見って人もいる感じですね。6、7月に関してはみんな分からんっていうところで、うちらも早めに切り替えたほうがいいかなと。こういうおもしろいことをやるから、その日配信でやってみない? って提示をしてあげた方が心穏やかかなと。それでも、やっぱり家族が心配でとか、行けないよって人はしょうがないと思うし。いずれにしても、今待っているだけだったら死ぬので。100%。

──ブログでも書かれていましたよね。「とにかく動け~~~~死ぬぞ~~~~~!!!!」って。

佐藤 : いやまじ死にますよ。のんきにやってんじゃねえよと思って。

──僕もStoryWriterのサイトをリニューアルして、新規営業しようと思っていた矢先にこの状況なので、広告とか関係なしに、とりあえず何かやらないとと思って動いています。

佐藤 : そうそう。経済的にもそうだけど心が死ぬという。

──ずっと家にいて人に会っていないと心も病みますよね。

佐藤 : まじでそうですよね。俺、この2週間家にいたらヤバかった(笑)。

──僕は、BAYCAMPを主宰しているATFIELDの青木さんとPodcastも始めたんですよ。イベンターとしてキャリアが20年以上ある青木さんが「今まで通りのイベント制作はできないかもしれないから、新しいことやらなきゃ」って話していて。柔軟さがある人だけど、本当に自分がやってきたことを大きく変えていくような気持ちじゃないと生き残れないかなって。

佐藤 : ライヴハウス中にいる僕の見立てですけど、終息したら元に戻るかって言ったら戻るわけはないと思っていて。新しい形と、前まであったものを共存させていく以外、本当に方法ないと思っています。これはライヴハウスだけじゃないと思いますけど、こんなに世界が変わってしまうんだと重く考えています。

──テレワークも5Gのあり方とかも、理屈じゃなくて、現実的に強制的に生活と密接になってきていますしね。本当に生活が一変する実感がありますよね。

佐藤 : 昨日、『日本エロ本全史』などを書かれているライターの安田(理央)さんと喋っていたんですけど、このタイミングで閉店する本屋さんとか古本屋さんとかもあって。いつか死ぬかもとは思ってはいたけど、こういうきっかけで死ぬとは誰も想像しなかったと思うって。当然濃厚接触なので、AVも撮影が全部ストップしていて、ストックがなくなるのが8月ぐらいらしいんですよ。そこから先は編集版しか出ないからより厳しいとか。CDもそうですもんね。リリースのインストアライヴとか軒並み飛んでいるじゃないですか。

──4月中リリースだった音源は、予定通り配信はするけど、CDはのきなみ延期ですからね。CDを売るという側面から脱却したビジネスにしないとやばいんじゃないの? っていう気もしますよね。すべての業種が転換を求められている。僕も今取り上げなきゃいけない場所に話を訊きに行くしかないと思っていて。正直、どうせ死ぬなら、やりきって死のうと思って(苦笑)。

佐藤 : どうせ死ぬならって感じはありますよね。俺もこの店が普通に潰れんじゃないかってちょっと思っていますからね。仮に潰れるとしたら、3ヶ月以内じゃないですか? 逆に言ったら、3ヶ月生き残ったらこの先も生き残れそうな気がするんですよね。だったら3、4ヶ月死ぬ気で誰に何を言われようが関係ねえみたいに店とスタッフ守ってやらあみたいなことをして、ダメだったら、もうしょうがない! みたいに腹を括るしかない。

──大きな組織に属していない我々からしたら、そういう意地はありますよね。

佐藤 : ありますね。

アウトブレイクで配信ライヴをしたい方!

アウトブレイクは5月6日~6月末まで通常のライヴ(状況次第)と並行して、配信ライヴを同軸で進めてまいります。

具体的には約2時間の間に、搬入、リハ、配信(25分程度)、撤収という流れです。

投げ銭制、課金制に対応でき収録だけして後日編集後にアップも可能です。

配信に関してのシステムとノウハウは十分に整備されました。

日程、時間、予算とアウトブレイク始まって以来最大限の融通ききます。

絶対お問い合わせ下さい!!!!

四谷Outbreak! 電話番号
03-5368-0852

 

佐藤boone学(さとう・ぶーん・まなぶ)
ライヴハウス界の変化球「四谷アウトブレイク」店長。トイレのクラウドファンディング、早朝ギグ、自家発電などユーモアあふれる話題をライヴハウスに振りまき続けている。
>>今夜、四谷の地下室で。

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