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収入ゼロ、月支出1億円でも辞めない道を選んだ──LD&K代表・大谷秀政、コロナ禍の覚悟を語る

StoryWriter

東京・渋谷の「宇田川カフェ」をはじめ、東京・大阪・沖縄で計20店舗のカフェ&レストランを経営。渋谷チェルシーホテルや梅田シャングリラなど全国6店舗のライヴハウスの経営も行い、ガガガSP、かりゆし58、打首獄門同好会、ドラマチックアラスカなどが所属する音楽プロダクションとしての顔も持つ、株式会社エル・ディー・アンド・ケイ(以下、LD&K)。それ以外にも、レーベル事業、エージェント、出版、クラウドファンディングなど、「仕事はもらわない。下請けはしない」という哲学のもと、音楽を中心に多角的な経営を行ってきた。

多くの企業が受けているように、LD&Kもまた、新型コロナウィルスの感染拡大を抑えるための自粛による影響を真っ正面から受けている。すべての店舗が営業できていないことにより、収入はほぼ0だが、毎月の支出は1億円にのぼるという。しかし、代表・大谷秀政はいち早くスタッフを解雇しない旨を表明し、さらには2020年7月に横浜に1000人キャパのライヴハウスをオープンさせることも宣言した。借金をしてでも会社を続ける。そんな覚悟を決めたという。音楽業界、そして渋谷においても、エネルギッシュでオープンな経営者として知られる大谷は、このコロナ禍において、どのようなことを考えているのか。5月1日、Zoomにて話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎


LD&Kは「辞めない」方向で決めました

──飲食店、ライヴハウス、スタジオなど、LD&Kが手掛けているほとんどの事業がコロナウィルスによる営業自粛の影響に直面されています。大谷さんもSNSで「本日月末だが口座から1億円がリアルになくなった」と書かれていました。差し支えない範囲でコロナウイルスの影響下におけるLD&Kの現状を教えていただけますでしょうか。

大谷秀政(以下、大谷) : うちは大まかに分けると2種類の事業――音楽事業と店舗事業をしています。音楽事業というのは、アーティストを抱えたプロダクション=音楽事務所のことで、こちらの売上が半分。店舗事業というのは、ライヴハウス、カフェ、レストランが含まれていて、残りの半分の売上になります。コロナの影響を受けて、最初にライヴハウスの自粛があり、同じくしてライヴ活動をしているアーティストの活動がストップ。そこから3週間ぐらい経ってから飲食がストップしました。今、緊急事態宣言で営業自粛が要請されており、基本的にすべての営業を止めている状態ですね。全てが止まっているので当然売上は0です。うちは店舗の家賃だけで3000万円近くかかっていて、スタッフと社員の給料で月間5000~6000万円。そこに諸々の所謂固定経費を含めると大体1億円になる。基本的に固定費だけで月間で1億円出ていく状況です。

──国の制度、例えば雇用調整助成金など諸々の手続きをされている様子もSNSで発信されていました。すでに入金されたものはあるんでしょうか。

大谷 : 入金はまだされていないですね。助成金に関しては、できることは全て申請しています。うちは2店舗以上経営しているので、休業補償金も200万円の対象なんですけど、さっき言ったように3000万の家賃の中で200万って言われても…… というところもあります(苦笑)。助成金に関しては、入金されるのが基本的に2ヶ月後くらいだと言われているので、申請から入金まで持たない店舗も多いんじゃないかと思います。それを見越して、店を辞めるかどうかという判断も迫られている。その中で、LD&Kは「辞めない」方向に決めました。借金がいくら増えてもいいから辞めない、と。僕自身、年齢的にもまだ頑張れるなと思っているので、基本的に融資を受けて雇用も維持して、できるだけ続けようと決心したんです。死なば諸共というところを選択しました。

──大谷さんは、早い段階でスタッフを解雇しないと宣言されていらっしゃいました。全事業合わせて、何人ぐらいスタッフの方がいらっしゃるんですか?

大谷 : 正社員は100人弱で、アルバイトを入れると400人近く。アルバイトも雇い止めをしていないので、基本的に給料を払い続けています。

──僕も小さいながら会社を経営しているんですけど、自分以外、社員が1人しかいないのに日々お金をどうしようか頭を悩ませています。何百人もスタッフがいらっしゃるのは、ものすごいプレッシャーなんじゃないかと思います。

大谷 : 逆に言うと、バンジージャンプと一緒で、高すぎると訳が分からないというか(笑)。6人とか10人とかの時代だったら大変だなと思うんですけど、ちょっと大きすぎて訳が分からないという状況になっていますね、僕自体が。

──音楽事業の部分でいうと、ライヴハウスへの風当たりが強くなり始めた最中、いちはやくLD&K所属の打首獄門同好会が、2月29日・Zepp Tokyoで無料配信ライヴを行いましたよね。

大谷 : ライヴがキャンセルになった時点で何千万かの赤字にはなっているんですけど、無料配信をするとさらに数百万がかかってくるんです。そうした状況も踏まえ、営業本部長の菅原が僕に無料配信をしたいという連絡をしてきたので、僕がOKを出しました。今となっては、当時はコロナをちょっと舐めていたなと思います。なんとなくインフルエンザと同じくらいの感じで、春が来れば収まるんじゃないかって。「必ず春は来る」みたいな言葉を合言葉みたいに言っていましたけど、すでに春を越えてしまいましたから。

──さらに、3月5日には横浜駅前に1000人キャパのライヴハウス「1000 CLUB」を開店させるということも発表されました。これはかなり驚きました。

大谷 : 実際のところ、結構前から動いていて、あの時点では決まっていたプロジェクトではあるんです。発表をどこでするのかというのを見定めているうちにコロナになってしまった。ライヴハウスに限っては、出店できる場所というのがレアなので、場所があれば出すよというスタンスでやっています。本当は、オリンピックが終わって、経済とか不動産がガタガタ来るタイミングで出店しようと思っていたんですけど、それがちょっと早く来ちゃったというか。ただ、うちもそんなことを言っていられないぐらいガタガタになっちゃったので、なかなか状況は難しいですよね。

解約までの6ヶ月縛りというのをなくしてあげないと退くにも退けない

──渋谷のクラブ/ライヴハウスのVUENOS、Glad、LOUNGE NEOが5月31日をもって閉店という報道がありました。僕は事務所が円山町にあるので、近くのお店が閉店を決断したことに衝撃を受けましたし、本当に悠長なことを言っていられないんだと思いました。大谷さんはどういうふうに受け止められました?

大谷 : 渋谷とか東京の店舗って、不動産の解約をするには6ヶ月前に告知が必要なんですね。ということは、コロナが起きてから大家さんに解約手続きをとった場合、家賃もそこから6ヶ月間は払わなきゃいけない縛りがある。そこを待たずして閉店を発表したっていうのはすごいなと。基本的に4店舗ある中の3店舗を閉めて、clubasiaだけ支援を募る形(clubasia 存続支援プロジェクト クラウドファンディング)にした方が支援は集まりやすいんじゃないかという経営判断なんだと思います。4店舗全部の家賃を払い続けるのは、従業員の人件費も含めて厳しいんじゃないかって判断があったのかなと。正直、撤退するんだったら早くした方がいい。我慢しても借金が増えるだけなので。ただ、うちは借金をする方向に舵を切ったんですけど、撤退するのにもお金がかかるんですね。原状復帰のお金だけでも1店舗あたり数百万かかる。それを考えると、今撤退ができない店舗も多いんじゃないかと思います。

──撤退するも厳しい現実が待ち受けていると。

大谷 : ちょっとプロフェッショナルな話をすると、ダンス規制法の問題がありましたよね? あのとき、ダンスを許可する代わりに風営法の届出を出してください、という話がありまして。それで風営法の届出を出したところが多いんです。ライヴハウスはほとんど出してないと思うんですけど、クラブは深夜に踊るってことが主目的なので、風営法の届出を出した。そうすると何が起きるかと言うと、都市銀行、市中の銀行は風俗営業に関しては融資を出さない決まりになっているんですよ。昔から。ダンスの問題で風俗営業に登録しちゃったところが、今となって融資を受けられない状況になっている。それは経営をしていないと分からない話だと思うんですけど、うちも毎年、風俗営業をやりませんって銀行と交わさなきゃならない。所謂VUENOSさんとかはそれに引っかかっちゃったんじゃないかなというところもありますね。

──選択肢がかなり狭められてしまっている状況があるんですね。

大谷 : 政府のなかに、そういった部分をリアルに分かってくれている人がいたらいいんですけど。せめて解約までの6ヶ月縛りというのをなくしてあげないと、退くにも退けない。今、緊急事態宣言が延長される話になっていますけど、いよいよ厳しくなったお店がこれから出てきて、撤退するにも撤退できないという状況になっていくところが多いんじゃないかという危惧がありますね。

バッシングが収まるのかに対してライヴハウスは懸念を持っている

──大谷さんは積極的に赤裸々な発言をされていますけど、炎上したり、クレームのようなリプライを受けることも多いですよね。そのことに関してはどのようにお感じでしょう。

大谷 : 僕もTwitterでつぶやくと、すごいバッシングを受けるんですね。誰が言ってもそうなんですけど「お前のところだけじゃないだろ」って話になるわけですよ。配信系だったり、Netflixだったり、調子が良いところもあると思うんですけど、大半の業種が厳しい中、個人がバッシングを受けざるをえない恐ろしい状況なんですよ。なぜかと言うと、経済影響を受けてない人の方が多いんですよね。所謂一般的な大きな企業、サラリーマンの方々というのは、テレワークになっているだけで、給料自体は普通にもらえているわけですよ。ほとんどの勤め人の人たちが給料をもらえている。プラス公務員の方ももちろんもらえている。さらに、3000万人から3500万人の年金生活者の人たちも年金が減っているわけじゃない。年金生活者だけで3割ぐらいいると考えると、7、8割の人はまだ経済的な損失を受けてないんですね。ネットで声をあげているのは、経営者だったり、事業主だったり、フリーランスの方々なんです。実際に経済的な損害を本当に受けている人たちは、実は少数派だったりするんですね。そんな中で、経済活動の影響を受けない人たちは、コロナだけ怖いと言っていればいいわけですよ。

──たしかに自分の生活に危機が訪れていないと、感覚は違うでしょうね。

大谷 : だから、不謹慎狩りとか、正義中毒みたいな人たちがいっぱい出てくる。その人たちは、それだけ言っていればいいわけですから。そういう世の中になって社会が分断されちゃっているわけですよ。そこが非常に問題で。ライヴハウスに関していえば、政府よりも一般の人たちの方が怖い。不謹慎厨的なものが怒鳴り込んできたり、何やってんだお前、みたいなことを言われるわけですよ。そういったバッシングが収まるのかということに対して、ライヴハウスは懸念を持っていて。一旦コロナが収まったとしても、要するにクラスターになる可能性があるわけだから、やるなよお前らってなるのを危惧しているわけですね。

──僕もライヴハウスの方に取材する中で、近所の人から嫌な目で見られるという話を何度も聞きました。こんなにも露骨に、職業差別があるんだと実感したと話す人が多いです。

大谷 : テレビが簡単にそういうことを言ってしまう影響は大きくて。結局ワイドショーなんか観て鵜呑みにしちゃっている人たちが多い。そこも非常に懸念されている点で、こんな目で見られ続けるのならライヴハウスは閉めちゃった方がいいんじゃないかという人たちが増えてくる可能性もあるわけですよ。

──経済的な負担だけじゃなく、精神的な負担がものすごく大きい、と。その中でも、大谷さんは借金をしてでも決断された理由はどこにあるんでしょう?

大谷 : 性格的に、どこを削って、どこを残すということが、できないんですよ。あと、もともと頑張ってくれているスタッフがいる中で、お店をなくすことは、その人も働けなくなってしまうということになってしまう。コロナだから、逆に切りたくないというのはありますよね。それに加えて、うちは固定費も大きすぎるので、ちょろっとどこか切っただけじゃなんともならない。今、1番大変なのはライヴハウスだけやっている人たちで。うちはライヴハウスだけのシェアで考えると事業全体の20%あるかないかなので、他の事業が復活すれば補填できるかなと思っているんです。ただ、アーティストもライヴ活動できないので、そこを含めると売上の半分を占めちゃっている。アーティストが、いかにライヴ活動ではないところで活動できるかが肝で、そこにかかってくると思っています。会社をやっている人は分かると思いますけど、基本的にオーナー社長ほどの危機感はスタッフのみなさんにはないので。これは立場が違うので無理な話で。だから、僕は基本的にずっと寝れない日が続いていますね。やっぱり気になってしまって。

──大谷さんも一時期、具合が悪くて1週間ぐらい病院に行かれていたということも書かれていましたよね。

大谷 : そうなんですよ。

──体調はよくなられましたか?

大谷 : めちゃめちゃ元気になっています。それが1ヶ月くらい前なんですけど、近所の病院に行ったら、婦長さんに「あなた音楽の仕事してますよね?」「コロナじゃないですか?」みたいなことを言われて。

──どれだけ音楽業界って色眼鏡で見られているんでしょうね……。

大谷 : 僕はオーナーなので、基本的にライヴハウスの現場にほとんど行ってないんですよってことを話したんですけど、「音楽の仕事をしているからコロナでしょ」ってことを言うわけですよ。ちょっとショックでしたけどね。かかりつけの病院だったので(苦笑)。

ライヴハウスという業態自体がなくなることはない

──LD&Kは、アーティストマネジメントもされています。普通の人より感受性の強い方もいらっしゃったりもすると思うんですけど、そういう方のメンタルの面だとか、現状というのはいかがでしょう?

大谷 : 話をしている限りでは、アーティストとか曲を作る人は特に部屋にこもっているのが苦にならない人が多いんですよね。基本的に職場が自宅みたいな人が多いので、そこまで意外と気になってないという人が多いですね。うちもアーティストが何組か所属していて、全アーティストじゃないですけど基本的に給料も払っている。こういう時代なので曲作りとかしてもらってと思ったんですけど、そろそろ何かしらの活動をやっていかないと厳しいんじゃないかなっていうのはありますけどね。

──ライヴ配信もそうですし、音楽を巡る活動というのも確実にオンライン化しつつあります。アーティストの活動の仕方も今後、変わりそうだと思われますか?

大谷 : 基本的に配信というのは根付くと思うんですよ。ある程度レギュラー化して、コロナが終わった後もいろいろなところで配信が使われていく。うちも配信に関しては、全国に配信するような仕組みをするので、乞うご期待というところで。あと、ライヴハウスという業態自体がなくなるんじゃないかなという人もいるんですけど、あの感動を体で覚えちゃった人たちがたくさんいるわけですよ。あの感動を身を持って覚えちゃった人たちは、絶対にライヴハウスをやりたくなるし行きたくなる。需要が絶対にあるんですね。だから仮にライヴハウスは1回なくなったとしても絶対に復活します。そこに関しては危惧はしていないというか、ライヴハウスという業態自体がなくなることはないという確信はあります。

──たしかに、ライヴハウスに変わるものはないですよね。

大谷 : 今の問題としては、ライヴハウス自体をできる場所が限られていること。1回撤退しちゃうと、ライヴハウスを始めるハードルがすごく高いんですね。場所の問題もあるし、単純に設備とか内装工事だけで、2年間分の家賃よりも高いわけですよ。それを考えると、またライヴハウスをやるんだったら、できれば辞めないでおきたいという人たちのほうが多い。そうした経済的な理由はあるとは思うんですけど、基本的にライヴハウスをやっている人たちというのはライヴハウスの魔力に取り憑かれちゃってますから(笑)。なかなか辞めろって言っても、難しいと思うんですよね。

心ない言葉を投げたりすることはやめてほしい

──大谷さんは渋谷で長年お店をやられているじゃないですか。コロナが収束した後に、若者が戻ってくるのか、渋谷ならではのカルチャーみたいなものが引き継がれていくのかということに関してはどう考えていらっしゃいますか?

大谷 : LD&Kは、来年創業30周年になるんですね。震災があったり、いろいろなショックがあったんですけど、たしかに今回のインパクトが1番でかい。とは言え、渋谷は不滅ですよ。今だと、大晦日だったり、ハロウィンだったり他の街にはない盛り上がりがある。所謂、渋谷ってステージなんですよ。ハロウィンに1番人が集まるということ自体がそれを端的に表しているんですけど、渋谷に来ること自体がステージに上がっているみたいなところがある。これが他の街にありますか? っていうところなんですよ。若者が自己顕示欲も含めたところで、何かしらを発散できる。そういうところなんですよね。チェーン店が増えていく中でも、うちの店はどんどん流行っているわけですよ。街として、うちもそうですけども、訳の分からない人たちがいっぱい店をやってもらって個性的な店がいっぱい集まっている方が、絶対におもしろいわけですね。

──先ほどおっしゃっていたみたいに、今後追加で発表されていくこともいろいろありそうですね。

大谷 : コロナの状況を見ながら、発表していいタイミングと、ダメなタイミングを見極めて発表していこうと考えています。世間がすごくセンシティブになっているでしょ? 世の中の波がいろいろな方向に渦巻いていて、大局が変わりますからね。今は、とにかく自粛しないと不謹慎狩りみたいなことになっていますけど、もうちょっとすると自粛を我慢できないって声が上がってくる可能性もある。1週間ぐらいでころっと変わる可能性もある。志村けんさんが亡くなって、小池都知事の発表があったところからガラッと変わりましたけど、日々潮目が変わってしまう。これを見極めないと厳しいところがありますよね。

──本当にいろいろな言説が飛び交っていますが、それぞれが相手のことを思って行動するという当たり前のことが大切になってきますよね。

大谷 : これは言っておきたいんですけど、ライヴハウスとか楽器を持っている人に対して、心ない言葉を投げたりすることはやめてほしい。みんな傷ついているので。なるべくそういう心ない言葉だったり、言わなくていい言葉を言うってことはやめてほしいですね。

■PROFILE

大谷秀政(おおたに・ひでまさ)
エル・ディー・アンド・ケイ 社長/オーナー 1968年愛知県生まれ。22歳でデザイン事務所ビックボスを設立。同社は95年にLD&Kに社名変更。01年の「宇田川カフェ」のオープンを皮切りに、東京、大阪、神戸、大分、沖縄などで、カフェやバー、ライブハウス、宿泊施設などを運営。音楽プロダクションとしては、ガガガSP、かりゆし58、打首獄門同好会、ドラマチックアラスカ、中ノ森文子、日食なつこなどが所属。レーベル事業、プロダクション事業のほか、飲食業や、近年はクラウドファンディングなど新規事業も積極的展開。
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