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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン5 コロナ時代編 第6回

StoryWriter

私にとってオンラインキャバクラ初体験の店舗「エア♡ラブ」。

運営スタッフから届いたオンライン開始アナウンスに、急いで帰宅した私は、すぐさまパソコンでZOOMを立ち上げ、LINEに記載されたURLにアクセスした。

ここから先は、未知との遭遇であり、キャバクラ版X-ファイル。私はモルダー捜査官になった気分で、初めて出会うオンキャバ嬢を迎える。そして、嬢が画面に現れた。

金髪のロングヘア、卵型の輪郭。不自然な二重瞼、そして巨乳。

歳の頃にして、23歳ぐらいだろうか。少々上を向いた鼻の穴が目立つものの、どことなく某アイドルグループのメンバーに似ている。

縦長のスマホ画面から明るく、朗らかに、両手を振っている嬢。味方であることを伝えているようだ。口をパクパクさせているものの、声が聴こえない。さらに、なぜかその姿は真横になっている。これが、オンラインキャバクラ、なのか。

「おっはー」

画面の中、横になった状態でそう声を上げている嬢(読唇術)。声もしなければ、嬢の姿も真横のまま。

もしかしたら、課金しないと声も聴こえず、正面も向いてくれないシステムなのだろうか。バカ、バカ、バカ、私のバカ。たった1,000円で30分も嬢と話せるなんて、そんなうまい話があるはずがなかったのだ。私は、落胆しつつも念のため嬢の状態を指摘した。

「あ、この方がいいかなと思ったんだけど、違うか!」

あっけらかんと、声を出す嬢。まさかの、掴みギャグ。オンライン嬢渾身のボケだったのだ。すぐさま画面を真っ直ぐに直すと、嬢は豪快に笑い出した。

「んなわけないか? ウケる、超ウケる!」

画面の向こうにいる嬢は、両手を叩き、おおいにウケている。そんなに面白いかといえば、たいして面白くない。それでも、初めてのオンキャバを前に緊張していた私の心をほぐすには十分なパフォーマンスだ。私は、嬢のサービス精神に、「笑わせるんじゃない、笑われるんだ」。そんな、大御所お笑い芸人の言葉を思い出し、心を掴まれた。

5分経過。

「なに、飲んでるんですかー?」

特に自己紹介などもなく、会話を進める嬢。私は、自慢のストロングゼロを画面に移すべく誇らしげに差し出す。そのとき。

私は、ストロングゼロ500ml缶を掴もうとして、思いっきり倒してしまった。みるみる流れ出すストロングなゼロたち。画面に、キーボードに、飛び散るゼロ。慌ててティッシュで画面を拭く私。ティッシュの隙間から見える嬢は、ポテロングを食べている。

「大丈夫ですか?」

いきなり嬢に心配をかけ、出鼻をくじかれた形となった私のオンキャバロード。あんなに念入りにイメトレを積んできたのに。思春期に少年から大人に変わる道を探していた汚れもないままに……。そんな私の心、嬢知らず。ポテロングをガリガリと食べつつ、こちらを見ている。

10分経過。

「そこは、どこですかー?」

そこは、どこか。想定外の嬢の問いかけ。コンディションの良いときの私だったら、地球だよ、とオモシロ返しができたかもしれない。しかし、今の私はオンラインの入り口で躓いた男。思考が停止したままだ。かろうじて、東京都内であることを伝える私。

「東京かあ~ちなみにこっちは、仙台だよー」

なんと、嬢は地方住まいの嬢だった。なるほど、オフラインキャバクラではありえない、東京以外の嬢とのコンタクトが可能になるのが、オンキャバの最大の特長。どこにいても、全国各地の嬢と出会うことができるなんて。ついにどこでもドアが現実のものになったのだ。

「今日は何してたんですかー」

東京と仙台を結ぶ、嬢と私の星空のディスタンス。そんなロマンティックなソーシャルディスタンス感などおかまいなしに、どんどん会話を進める嬢。今日はとくに何もしていなかったことを話す私。

「ずっとおうちにいると、だらけちゃいますよね」

その通り、と同意する私。

「なんか面白いドラマとかありますー?」

ドラマはまったく見ていない私。

「お酒はよく飲むんですかー?」

家ではそれほど飲まない私。

「そうなんですねー」

そうなんです。

…… 会話がまったく盛り上がらないまま、オンキャバ初戦の前半15分が終了した。

時間が、ない。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

アセロラ4000「嬢と私」とは? まとめはこちらから

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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