前野健太の初期三部作『ロマンスカー』『さみしいだけ』『ファックミー』がサブスク解禁された。
新たな「うたもの」ムーブメントの火付け役となった2007年発売の1stアルバム『ロマンスカー』。全ての楽器を自ら演奏する完全ひとり多重録音のポップ・フォークアルバム、2009年発売の2ndアルバム『さみしいだけ』。キャッチーに突き抜けた2011年発売の3rdアルバム『ファックミー』。そのすべてを各種サブスクリプションサービスで聴くことができる。
また、サブスク解禁を記念して、長編アニメーション映画『音楽』の岩井澤健治監督による手描きアニメーションビデオ「ヒマだから」(『ファックミー』収録)をYouTubeにて公開。2011年5月のレコ発ライヴで上映されたきり眠っていた幻の作品となる。
■前野健太 コメント
初期三部作サブスク解禁に寄せて
13年前に勝手にCDを出してデビューということにしました。
今では「シンガーソングライター」という肩書きをつけていますが、
すべてはこの最初の作品群からはじまった、単なる「でっち上げ」にすぎません。
誰もCDを出そうなどと誘ってくれはしませんでしたが、燃え盛っていました。
一撃をくらわしてやる、とよく言っていましたが、それはたわごとで、
でもそれがなければ走り出さなかった車もあったのでしょう。
今聴くと、たとえばセカンドアルバムの『さみしいだけ』なんかは、
一音一音に明確な意思を感じます。指が見えます。演奏している手、その指が。
たとえば誰かの気持ちを振り切って、この一音を録らなきゃいけないんだ、という気持ち。
不思議なのは、愛情から逃げるように選んだ一音が、結果的に何かに手を伸ばしているということ。
一人の女性の顔を思い出します。
一音一音を聴きながら、影のプロデューサーはこの人だったんじゃないだろうかと、
思いました。男はいつだって女にはかなわない。ただ風を見て、歌を紡ぐだけ。
そんな時代遅れな歌がたくさん詰まったアルバムたちです。
街の中で気軽に聴いていただけたら幸いです。
猫が、マンションが、空が、夏草が、静かに揺れると、
少しだけ明日が見えてくる。
特別じゃない夏なんてあっただろうか。
2020年8月14日
前野健太
前野健太 オフィシャルサイト https://maenokenta.com