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ライヴハウスと飲食店の現在 Vol.3──コロナ禍を生き延びるため数百万の設備投資し、再スタートをするライヴハウスNEPO

StoryWriter

新型コロナウイルス感染症の急速な拡大により営業自粛を余儀なくされていた全国各地のライヴハウス。収入が絶たれた苦境へと立たされ、残念ながら閉店するハコも少なくはない。それでも、ライヴ配信やクラウドファンディング、そのハコ独自の安全基準のもとでライヴを行うなど、音を鳴らす場所を必死で守り続けている人たちは全国に数多くいる。

StoryWriterでは、2店のライヴハウス(埼玉県宮原にあるヒソミネ、東京吉祥寺にあるNEPO)と、2店の飲食店(埼玉県宮原にあるbekkan、東京吉祥寺にあるMOCMO sandwiches)を経営し、自らもAureoleを率いるミュージシャンである森大地に現状を聞き、定期的に現状を伝えていく記事を不定期で連載。毎日大きく変化する日々の中でストラグルしている森の言動を共有することで、ライヴハウスのリアルを知ってほしいと願っている。

連載第3回目は、前回の取材から約4ヶ月経った8月26日に電話で森に話を訊いた。9月1日から再開する吉祥寺のNEPOの設備投資の話をはじめ、まさに正念場にいる森の現在の言葉をお届けする。

取材&文:西澤裕郎

>>Vol.1──緊急事態宣言直前、売上0で毎月200万ずつ減っていく現状を語る

>>Vol.2──融資を受け延命し、立ち上げたウェブ上の第四の居場所「Fourth Place」とは?


みんなが怖がっているのは、コロナウィルスじゃなくて周りの目

──前回の取材から約4ヶ月ぶりとなります。まずはお店の状況から伺わせていただけますか?

森大地(以下、森):ヒソミネは7月から動き出したんですが、売上でいうと前年比50%減といったところです。今年3月にオープンしたMOCMO sandwichesは、ジブリの森美術館からのお客さんやインバウンド客を見越していたんですけど、コロナの影響で予想より厳しくて。bekkanは大きく改造してクラウドブレッドのサンドイッチ専門店に変えました。ディナーの売り上げはだいぶ下がったんですけど、ランチは前年比1.5倍になっています。

──それはすごいですね! bekkanは洒落たレストランといった趣もあったので、大きな転換ですよね。

森:ケンタッキーとかマクドナルドとかって持ち帰れるという意識がもともとあったからコロナ禍でも売上が好調だったんだと思うんですよね。持ち帰りができる店ということを認知してもらうには、看板やPOPよりもお店自体を改造してパン屋みたいに見せる方が効果的かなと思って、bekkanでもMOCMO sandwichesのようにサンドイッチをトレーとトングで取ってもらうスタイルに変えたんです。そうすることで説明がなくても持ち帰りができる店だと地域の人に認知してもらえて、日が経つにつれて持ち帰りのお客さんが増えたんです。ランチは以前から満席に近い状態で営業できてたんですけど、比較的暇だったティータイムに買って帰る人も増えたので、その点で成功したのかなと思います。

──吉祥寺にオープンさせたライヴハウスNEPOはいかがでしょう。

森:NEPOはしばらく設備投資していて。9月1日から再開します。換気扇の強化に加え、自動で体温を読み取るシステムを取り入れました。スクリーニングすると顔と体温が記入されたレシートが発行されるので、それを受付で照合して、万が一のことに備えて名前や連絡先も記入してもらう予定です。換気のアラートシステムも設置して、二酸化炭素の量が基準値を超えると「換気してください」っていうアラートが出るサイネージディスプレイを設置して、お客さんにも常に空気の状態を見えるようにしました。換気扇を強化しても、お客さんが不安だったら楽しめないと思うので、本当にきれいか常に測って数値として出るようにすることで、安心して楽しんでもらえるようになっています。

 

 

──様々なライヴハウスに取材しましたけど、ここまで徹底しているところはほとんどないと思います。

森:徹底的にやった結果、オープンも9月まで延びてしまいました。配信システムもかなりお金をかけて揃えています。撮影でお金を取るとしたら、プロとして通用するような一流のものを入れようと思って、Hello1103というNEPOの映像システムを組んでくれたユニットに今回もシステムを組んでもらったんです。これから毎日配信していくとなると、それ用にカメラマンの人員を1人加えるのが難しかったので、人を感知してカメラが自動で演者を追尾していくシステムを取り入れ、スイッチングもHello1103独自開発のオートスイッチャーを採用しています。テストした感じだと、かなりクオリティも高くて良い感じになっていると思います。

──ただでさえ固定費と人件費が出ていくわけで、これだけ設備投資をして経営面は大丈夫なのかなと思うのですが、そのあたりはいかがなんでしょう。

森:正直一時期はめちゃくちゃ将来を悲観したこともあったんです。他のライヴハウスもどんどん閉店していて。それって、お金がなくてやめるっていうよりは、将来に絶望してやめているケースが多いのかなと思っていて。僕は気持ち的には諦めていないんですけど、今回のこの設備投資はかなりの賭けですが、やらなければ生き残りは不可能だと思いました。配信のみだとビジネスとして成り立たせるには程遠いですが、配信チケット収入だったり、撮影スタジオとして貸し出したり、スポンサーを入れたり、やれることをやって少しでも収入を増やしていかなければならない。4月から始めた「Fourth Place」も、ライヴ配信を想定してやり始めたので、ようやく連携できるかなと思っています。

──7月には、先着30組限定でNEPOを無料で貸し出すキャンペーン「タダネポ」も行われていましたよね。

森:ハコが空いているのが財産としてもったいないなと思って。社会貢献って言うとおこがましいんですけど、少しでも音楽産業にプラスになればと思って。もともとkilk recordsもそういう想いで始めたわけですし、こういう苦しい時こそ、その初心を大切にしていこうと思ったんです。

──ライヴハウスは設備を整えたり、ガイドラインを定めて安全にライヴを行うシステムと覚悟を定めている。どちらかというと、お客さんが当たり前に足を運ぶようになる意識がこのあと生まれるかどうかかなと思います。

森:3~8月の売上推移を見ていると、感染者数によって人々の動きが左右されているなと思うんです。さらに影響しているのが、政府やメディアの発言によって形成される世論。例えば既に営業しているヒソミネは、しっかりドアを開けて換気をして、飲み物を飲む時だけマスクを外すのが当たり前になっている。観客も大声を出す人は全然いないです。だけど飲食を始めたらマスクをずっと取ったままで大声で話している居酒屋のほうがライブハウスよりはまだ人が集まるという現実があるんです。そうなると本当の安全ってなんだろう。実はみんなが怖がっているのって、コロナウィルスじゃなくて、周りの目なんじゃないかって。最近、クラシック音楽公演運営推進協議会も演奏する際に飛まつが広がる範囲を楽器ごとに実験していたりして。

https://twitter.com/We_Need_Culture/status/1295634902436569088
https://drive.google.com/file/d/1Nddt04SFTeBT1X2Ls7vCjggfVYi0Zj7V/view

そういう部分があまりピックアップされず、イメージでここは危険だと言われたり、あまり科学的じゃなくなってきている。それはおかしいっていったら自粛警察が出てきて、うちが非常識な店みたいになるかもしれない。感染対策はNEPOもヒソミネもすごくやっているだけに正直不公平さは感じますね。近所のパチンコ屋も、熱中症にお気をつけくださいって言って水やマスクを配っていたり、なんとか信頼を取り戻そうとがんばっている。みんなが思うほど、全部が全部悪い店ばかりじゃないのに、世間の目は恐ろしいなってことを痛感しました。パチンコ屋という業種自体を元々煙たがっている人々は「ろくでもない商売をしてる店だからコロナを助長しているに違いない。潰せ。」という思考が働く。ライヴハウスも一部の人にはそういう思われ方をしていると今回の件で実感しましたね。コロナ対策で風営法を理由に夜の店を取り締まっているニュースがありましたよね? あれと似てますよね。本末転倒です。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020071900132&g=pol

僕はまだ全然諦めているわけではない

──先ほどおっしゃっていたように、9月1日からNEPOが再オープンします。どのようなスケジュールになっていくんでしょう。

森:今のところ休みは0にして、これまでの分を挽回しようと思っています。ただ、人数制限や出演者の数も意識しないといけないので、ぶっちゃけた話、今までギャラを渡していたようなバンドはビジネスとしてなりたたないというジレンマもあるんです。単純に10万円のギャラを払うのに、チケット3000円で人数制限の20人が入ったとしても6万円にしかならない。ギャラありのバンドも出てほしいですけど本当に厳しいですね。配信チケットでちょっと足しになればいいですけど、今のところは小遣い稼ぎくらいにしかならない。9月の売上の大体のイメージはあるけど、それ通りにはならないかもしれないし、その売上次第では考えないといけない。

──考えないといけないというのは?

森:あえて正直にいうと、4店舗どれも閉店する可能性はゼロではないと想定しているんです。もちろん、存続させるつもりでどうにかやっているんですけど、倒産は避けないとという想いは強くあって。ヒソミネは幸いにもめちゃくちゃ支出が少ない稀なライヴハウスなので、なんとか撮影機器なしでも凌げるかもしれない。逆にNEPOは2フロアあって、満員の公演も多数あって、スタッフ数も多いので、今までと同じようにやっていたら毎月赤字で、資金がなくなるまでの戦いになってしまう。いつかコロナが完全に終息したら、これまで以上にイベントの存在意義が高まって人々がまた戻ってくるとは思っています。でもそれは今から2年は先かなと考えていて。まだ戦いは長そうです。その時代を耐え抜くための前準備としてできる限りのことをやったのがこの5ヶ月間だったと思っています。

──ここまで正面からコロナに向かい合っているだけに、絶対生き残ってほしいと願っています。

森:今はまだ助成金とか出ているけど、それを受け取り終わったら辞めるってハコも出てくると思うんですね。ライヴハウスが潰れたら、うちにお客さんが集中するからラッキーみたいな気持ちはまったくなくて。できれば一店舗でも多く生き残って耐え切りたい。

──ライヴハウスがなくなることは文化の存続にも関わってくる話ですからね。

森:僕はまだ全然諦めているわけではないんです。今も毎日ヒントとなるような思わぬ発想がないか探し続けています。正直、コロナによってそういうことを考えさせられるきっかけになったのは事実です。より柔軟な姿勢で、しっかり頭を使って考えて乗り切っていきたいです。


・森大地 Twitter : https://twitter.com/daichimori

・NEPO HP : https://nepo.co.jp/

・ヒソミネ HP : http://hisomine.com/

・bekkan HP : https://bekkan.kilk.jp/

・MOCMO sandwiches HP : https://mocmo.kilk.jp/

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