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【連載】CHOOSE YOUR DISTANCE Vol6──〈りんご音楽祭2020〉開催直前、主催者&制作者それぞれが抱える想い

StoryWriter

長野県松本市のアルプス公園で2009年から毎年開催されている野外ミュージック・フェスティバル〈りんご音楽祭〉。 新型コロナウィルス感染拡大により様々な音楽フェスが中止・延期になる中、〈りんご音楽祭2020〉が2020年9月26日(土)、27日(日)に開催される。

今年は身近な仲間とともに作り上げる長野県松本市の“祭”という根源的な観点に立ち返り、チケットは長野県内のチケット取り扱い店舗のみ、通常キャパシティーの5分の1にあたる1日1000人限定で販売、りんごステージ、そばステージ、そして新設となる山の神ステージの計3ステージで行われる。

StoryWriterでは、同フェスの主催者である、dj sleeperこと古川陽介に3ヶ月にわたり密着する連載「CHOOSE YOUR DISTANCE」を毎週掲載中。

いよいよ開催直前となった連載6回目の今回は、9月4日に松本市で行った古川氏へのインタビュー、そして〈りんご音楽祭2020〉の制作を統括する志村龍之介氏に9月18日に行ったインタビューを掲載する。


INTERVIEW:古川陽介

──2日間通しチケットは早々に完売、各日のチケットもほぼSOLD OUTの状態で〈りんご音楽祭2020〉の出演者108組とタイムテーブルを一斉に発表しました。どうしてこのような発表の仕方をしたんでしょう。

古川 : 理由は何個かあるんですけど、〈りんご音楽祭〉自体のファンに来てほしいという想いが今年はあって。例えば、出演者を発表した後にアーティストが出演キャンセルという可能性も今年はありえるわけじゃないですか? そういう状況を踏まえると、お目当の出演者のために来てもらうより、〈りんご音楽祭〉自体に期待してくれる人に来てもらいたいなと思ったんです。

──とはいえ、チケットが売り切れたあとで出演者発表というのは、いまのフェスではあまり聞かない方法ですよね。

古川 : コロナ禍でしかできないやり口ではあると思っています。その分、できる遊び心もあって。めちゃめちゃドープな音楽だけど、まだ売れていない若手をタイムテーブルの「おいしい」ところで出しやすかったりもする。お客さんがタイムテーブルを見てチケットを買うかどうかで迷っていないから、こちらもブッキングの表現でおもしろいことができることは間違いないですよね。

──〈りんご音楽祭〉に来ることを楽しみにしている人がこれだけいるって嬉しいことですよね。

古川 : ありがたいですね。このチケットの売り方は運営部でもすごく話し合ったんです。この期に及んでチケットが売れなかったら地獄ですから。最終的に一斉にタイムテーブルを発表しちゃおうということになったのは、みんなの手間をとらないようにしようという考え方があって。もともと、このやり方が理想的だと分かってはいたんですけど、1日5000人の規模ではチケットの売り方とかも考えながら発表しなくちゃいけないから、これまではできなかったんです。

──誰が出演するかわからない状態では、お客さんもチケットを買いづらいですもんね。

古川 : 〈朝霧JAM〉は昔、それができていたんですよ。2万人規模で、タイムテーブルと同時に2週間前に出演者を発表していた。僕はもともと〈朝霧JAM〉のスタッフで、それがかっこいいなと思っていたんです。だけど、フェスが一般化するにつれて、フェスってだけでテンションが上がってくれなくなってしまった。それで出演者が他とどう違うかの勝負になっていったんです。同時に、昔よりもみんなちゃんとライヴを観ている感じもして。もちろん適当にダラダラ遊ぶ人もいるし、自分もそっちタイプだけど、若い時って、あれ観たい、これ観たいって部分が、前のめりで意欲的だと思うから。そういう人の比率が上がってきたのも大きい変化だと思います。

──連載タイトルでもある〈CHOOSE YOUR DISTANCE〉を掲げて古川さんはパーティを続けてきました。〈りんご音楽祭〉でもその姿勢は変わらずですか?

古川 : 基本的に一緒です。CHOOSE = 選ぶ。自分で行動を選ぶためのヒントは瓦レコードよりも分かりやすく出します。フードを買う時や物販を買う時はマスクしてくれた方がいいですよとか、距離を取って遊ぶのがいいんじゃないですかとか、ヒントは分かりやすく提示する。瓦レコードは30人くらいのパーティーだったから直接話して解決できたけど、1000人規模なので分かりやすいヒントは書きつつも、スタンスは自分で決めてくださいって想いでいます。基本的に人の行動を制限するって人権侵害だと僕は思っているんです。それはやるべきではないし、やりすぎている世の中がおかしいと思う。もちろん無事に終わりたいし、そのための対策もしています。ヒントは分かりやすく与えて、お客さんを信用するしかない。社会ってそういうものじゃないですか? 社会って、人への信用で成り立っている。できる限りの対策と、来てくれる人たちへの信用の上で〈りんご音楽祭2020〉を開催したいと思っています。

INTERVIEW:志村龍之介

──志村さんは、現場の制作を担当されています。コロナ禍の中でフェスを開催するというのは現実的にかなり苦労があったんじゃないでしょうか。

志村:制作という立場で話すと、今回は矛盾する中で進めなきゃいけない状況だったんです。〈りんご音楽祭〉はパーティーだから、スタッフたちのグルーヴをあげながらやっていかなきゃいけないけど、自分があがりきれていなかった。コロナ禍の価値観の中でパーティーをやって、果たして成立するだろうか。そこが悩ましいところだったんです。今までは連続性の中で毎年積み重ねてきたけど、今回は規模が縮小してステージの数も変わった。その点で制作に連続性がないし、ゼロから始めないといけないことが多かったんです。あと1、2日すれば全部仕込み終わるので、いつもどおりのテンションになると思うんですけど、今までで1番苦しい制作でしたね。

──〈りんご音楽祭2020〉を開催するかどうかで悩むこともあった?

志村:俺は最初やめようと言っていたんです。もともと俺はブレーキを踏む役なんです。今回は全力でブレーキを踏みながらできた形がいまで。それでもモリモリでしょ(笑)? そういう意味では、俺とsleeper(古川)は頭の部分で今年は対立しているんです。ただ、sleeperは1人でもやるっていうから。それは危ないし、そういうわけにはいかないと思って。それで、やりたいこと、できることが雪だるま式にふくらんでいき、落ち着くところに落ち着いたのが今年の〈りんご音楽祭〉。

──他のイベント制作者と話すことも多いんですけど、本当にみな苦しい気持ちを抱えています。志村さんはどんなことに苦労をしましたか。

志村:コロナは分断を引き起こしたというか、もう1回イベントに対する価値を表現しなきゃいけなくなったんです。いままでなんとなくのグラデーションでよかったのが、一個のミッションを共有するようになった。そりゃあ価値観はズレるよねって。でも、ズレるところを気にしないようにやりましょうというのがパーティーじゃないですか? 多様性を認めましょう、ズレたままでいいよって。でも、今回のことはズレたままでは進めない。そこがみんな苦労しているところなんじゃないかと思います。

──そんな苦悩を抱えながらも〈りんご音楽祭2020〉は開催されます。図らずともいろいろなものを背負っているんじゃないかと思います。

志村:社会的にどう影響を与えるかは正直わからないです。もしかしたら何も思われないかもしれない。それぐらいエマージェンシーだと思うんです。フェスに行きたいけど、みんなもっと大きなものを抱えているから。開催したこと自体がどれだけ影響を与えるかは未知数ですけど、来た人が何かを思うことは確実で、それが伝播していくんじゃないかな。今年参加してくれた人は思うことが絶対ある。そんな3日間になると思います。

この3ヶ月間、筆者は古川氏を密着してレポートを書いてきた。正直、最初はこんなに長く追うつもりはなかった。しかし、瓦レコードでのパーティー、そこに集う人たち、松本の街並み、飲食店、ライヴハウスなどと触れる中で、自分から松本へと行きたいと強く思うようになっていった。

古川氏が作り上げたのは瓦レコードという場所だけでなく、そこに集う人々、コミニティーでもある。そこに関わる全ての人たちと関係性が生み出す年に一度のお祭が〈りんご音楽祭〉なのだ。

志村氏がインタビューで話してくれたように、社会的にどれだけの意義が伝わっていくかはわからない。しかし〈りんご音楽祭2020〉に訪れた人たちが感じることは、限りなく大きなものであることは間違いない。この祭を開催するために尽力する人たちに身近で関わってきた筆者はすっかり彼らの熱と音楽にあてられてしまった。〈りんご音楽祭2020〉が楽しみで泣きそうだ。

【連載】 Vol.1──コロナ禍の24時間パーティー「瓦祭」潜入レポート
【連載】Vol.2──この時代に音楽フェス開催を選んだ〈りんご音楽祭〉のアティチュード
【連載】Vol.3──どんな規模でも音を鳴らし続けることの重要性、松本3日間密着レポート
【連載】Vol.4──〈りんご音楽祭2020〉 開催1ヶ月前、主催者古川陽介インタビュー
【連載】Vol.5──コロナ禍に〈りんご音楽祭〉主催者が全国各地で行った34本のライヴオーディション


■イベント詳細

〈りんご音楽祭2020〉
2020年9月26日(土)・27日(日)@長野県松本市アルプス公園

・オフィシャルサイト:https://ringofes.info

・古川陽介 Twitter : https://twitter.com/dj_sleeper

【連載】CHOOSE YOUR DISTANCEは毎週火曜日更新予定です。

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