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寺尾ブッタと落日飛車・曾國宏が語る、台湾インディー音楽式典〈金音獎〉から始まるアジア音楽の国際交流

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2020年10月31日(土)、台北・台北流行音樂中心で〈第11回金音創作獎〉(以下、金音奨)の授賞式が開催される。

流行華語ポップスを表彰する〈金曲奨〉、中華圏の映画作品に送られる〈金馬獎〉など、台湾では様々なカルチャーごとに大規模な式典が開催されており、台湾のインディーミュージシャンを演奏者、アルバム、ライヴパフォーマンス、音楽ジャンル、言語など、様々な視点から評価するのが〈金音奨〉である。

今年は23部門に渡って受賞者が選ばれる。新たに、台湾以外のアジア各国のインディーミュージシャンに贈られる「亞洲創作音樂獎(アジア創作音楽奨)」も設立された。台湾ではインディーシーンを中心として、台湾内外問わず活躍するミュージシャンが増えている。台湾とアジアのミュージシャンの交流も多く、昨今のアジアインディー音楽シーンの成長にも着目した賞といえる。

「亞洲創作音樂獎(アジア創作音楽奨)」の設立を受けて、東京・青山と台湾・台北でライヴハウス月見ル君想フを経営しながら、2015年には日本とアジアへ架け橋となる音楽レーベル「BIG ROMANTIC RECORDS」を立ち上げるなど精力的な活動を行う寺尾ブッタと、落日飛車(Sunset Rollercoaster)のGt/Vo曾國宏を招いての対談を実施。なぜアジアンミュージシャン全般を対象とした賞が作られたのか? これによってどんな変化がもたらされるのか? 昨今の台湾音楽事情と絡めながら話し合ってもらった。

取材・文・翻訳:エビナコウヘイ


新設された「亞洲創作音樂獎(アジア創作音楽奨)」の背景

──「亞洲創作音樂獎(アジア創作音楽奨)」が設立された背景には、どんな要因があるのでしょう?

寺尾ブッタ(以下、寺尾):第一にアジア音楽市場の発展と関係があると思います。それに伴って、台湾インディーズの存在感が増してきており、台湾のバンドが他国でも交流したり、人気を得ることができると感じているんだと思います、そのパイオニアになったのが、落日飛車であると思っていて。落日飛車が東・東南アジア各国で知名度や人気を得ることで、それを見た他の台湾のバンドが「自分たちも同じように海外でも活動できるかもしれない」と思い始めたというのがあるんじゃないでしょうか。

曾國宏(以下、國國):台湾政府も台湾インディーズ音楽を広めたいのかなと思っています。台湾も地形が島なので、人口や市場のベースが大きくなく、海外市場を目指したいのも当然あると思います。もし、「亞洲創作音樂獎(アジア創作音楽奨)」によって交流の機会が増えるなら、アジアにいる素晴らしいインディミュージシャンと直接交流を図れるようにもなり、台湾の音楽市場の競争力の向上にも繋がるのではないかと思いますね。

 

──台湾のインディー音楽の実力の向上はもちろん、アジア全体の交流やミュージシャンの実力の向上もあって、こういう部門の設立に繋がった、と。

寺尾:僕の見方としては、実は多くの台湾のバンドが海外で評価されていると思います。その中でも、日本や韓国に限らず、東南アジアにもマーケットがあったということを証明したのが、落日飛車の例だと思うんです。落日飛車って去年はインドのフェスからもオファーを受けたんですよね?

國國:ありました。イスラエルもオファーがありましたね。主にスケジュールの関係でインドには行けなかったんですけど、3都市でのライヴも組んでくれていたんですよね。インドのフェスの主催側がインド国内はもちろん、国外のアーティストも多く招聘していて、インド版の〈SXSW〉っていう感じがしましたし、きっと大学生とか、インディー音楽を聴く人がSpotifyなどを通じて落日飛車を気に入ってくれるんだと思います。

寺尾:イスラエルは日本のインディー音楽を聴く人もいるし、日本にもイスラエルのミュージシャンが来たりするから、そこに落日飛車でライヴするのが想像できるんだけど、インドは想像できなくて面白そう。もし実現していたら、東アジアのバンドとして歴史に残る快挙だったと思いますよ。

──そもそも、落日飛車がアジアツアーをするようになったきっかけは?

國國:落日飛車は英語の歌詞がメインなんです。台湾や中国で、華語/中文の音楽がメインストリームであることを考えると、自分たちにとっては台湾や中国が主要な音楽市場であると考えていなかった。なので、最初に英語詞で曲を作った時から、もっと世界の色々な場所に届いて欲しいと思っていて。最初からヨーロッパやアメリカを目指すのは、移動などのコストが高くつく一方、地理的にも近いシンガポールや香港、日本や韓国などは英語詞のインディ音楽も受け入れられやすいので、アジアから目指し始めました。

──台湾からは、落日飛車や大象體操(Elephant Gym)など世界に羽ばたくインディバンドが続出しています。自分たちが世界各地で成功できた理由はなんだと思いますか?

國國:落日飛車の場合は、インターネットが1番の大きな要因かなと思います。結局、音楽を作ってインターネットで公開して、色々な国のオファーを受けることが多くて。当初の考えとしても、遊びにいくような発想の方が大きかったので、ツアーで海外を回ってお金を稼ごうと最初から思っていたわけではないんです。一番大事な心構えは、国外に僕たちの音楽を聴こうとしてくれる人がいて、僕らは自分の音楽を携えて現地に遊びに行くという感覚。音楽は必ず自分の好きなものを作る。曲を聴いてさえもらえれば、どの国にも関わらず人を惹きつけられるものがあるはずなんです。そういった平常心を持って活動していけば、年を重ねるごとに少しづつ何かしらのモデルやファンベースが大きくなっていく。結果として、それが収益の部分にも繋がっていって、好きでやっていたことが仕事としても成立してくる。最初はPRやエージェントが付いているわけではなかったのですが、こういうやり方をしていく中でどんどん協力してくれる方が増えてきました。

寺尾:彼らは特別海外だけを目指して発信していたわけじゃないと思うんですけど、その中で反応があった場所やものへの力の入れ方や反応が速くてチームの足並みも早い。インディーズだからフットワークが軽いということもあるんでしょうけど、ここ数年の台湾のインディバンドは特にそういう特徴がありますね。僕としては、台湾のバンドのステップとして、先ずどこを市場にするのか狙いを定めるのではなく、先にしっかり音楽を作って、そこからの動きに接触しにいく反応の早さがポイントだと思います。

寺尾ブッダ

アーティスト同士の国を跨いだ交流の場を生み出す

──これまでも台湾のバンドはアジアを中心に海外で活動を行うことも多かったですが、「アジア創作音楽奨」の創設によって、もっと海外バンドの受け入れが盛んになるのではないかと思います。これによって台湾の音楽シーンやファンにどんな影響を与えると思いますか? 

寺尾:台湾のライヴハウスでは、平日のイベント本数が比較的少ないんですけど、それが埋まるようにはなりますよね。選択肢が増える=色々なバンドが台湾で見れるようになる。今は、例えばタイのPhum ViphuritやGym & Swimみたいな人気のあるバンドじゃないと、台湾ではまともにライヴを開催できない。実際、僕の会社で東南アジアのミュージシャンを呼んだときは本当に人が集まらなくて。日本だともうちょっとお客さんを集められるはずのレベルなんだけど。

國國:海外のインディミュージシャンと協力していく上で、まず台湾のバンドが海外のバンドを紹介するということが必要だと思います。タイのGym & Swimと台北のライヴハウスTHE WALLで対バンした時に、僕らが彼らを台湾の音楽ファンに紹介できたのですが、それがとても効果的だったと思います。実際、それ以降Gym & Swimは台湾の音楽フェスにも出演するようになりましたし、段々と台湾で受け入れられるようになったんです。こういう紹介をするのは現地のバンドである僕ら落日飛車の役割だし、逆に落日飛車がタイでライヴをする際には、Gym & Swimが僕らをタイのお客さんに紹介してくれて、良い交流の機会になりました。自分たちのホームタウンのファンベースを共有できたのがとても重要だったと思います。

寺尾:こういうやり方は日本でも採られているんですけど、とても重要だと思うんです。今回「アジア創作音楽奨」が金音奨で作られましたけど、「アジア創作交流奨」とかあっても良いかなと思うんです。最近、落日飛車と韓国のHYUKOHもコラボしましたけど、そういう共作を奨励して、受賞者には賞金とかもあると上手くバンドの国際交流を奨励できると思うんですけどね。

國國:コラボについて話すと、レコード会社を通したやり方でやってしまうとコストが高くなったり、肖像権、曲の著作権など保護するものが大きくなると思うんです。でも、アーティスト側から始めることができれば、お互いの音楽交流もできるし、楽しむこともできる。もともと仲の良いバンド同士なら、共作も自然と起こりやすいですよね。国や文化を跨いで商業的、つまりコラボのためにコラボするなら、良い化学反応は生まれないと思います。政府がこの賞を作ったのは、海外のミュージシャンが直接、少なくとも式典では会うことができて国を跨いだミュージシャンの直接の交流が生まれるという意味でも、良いプラットフォームを作りたいと考えているのだと思います。

寺尾:確かに商業的なコラボレーションだと良い作品が生まれないので、そういうコラボ賞を作るなら評価の仕方は考えないといけないですよね。

メジャーとインディーの動きの違い

──いわゆるメジャーの音楽を主な審査対象とした金曲獎ではなくて、インディーズをメイン対象にした金音奨から、アジア全体にフォーカスする部門が設立されたのはなぜだと思いますか?

寺尾:現在のアジアの中で、積極的な交流が多いのがインディ音楽というレイヤーで、そこが広がっている状況なんですよね。インディ音楽を評価する〈金音奨〉から、アジアを眼中に捉えた賞が生まれるのはとても自然な流れだと思います。

國國:〈金曲獎〉と〈金音獎〉という分け方はありますが、何がインディで何がメジャーなのか分別するのが難しくなってきていると思います。というのも、流行りの音楽の中でも、インディ音楽の占める割合は大きくなって、棲み分けがとても曖昧になってきているんです。僕の感覚的には、〈金曲獎〉は伝統のある式典なので、華語の音樂圈メイン市場の反応を主に意識しているんだと思います。一方、〈金音獎〉の包容している範囲は広く、流行っているかどうか、ファンが多いかどうかではなく、曲の内容や特徴などを審査員が判断していて。〈金音獎〉の中に「アジア創作音楽奨」を作ることによって、音楽を架け橋に、台湾のミュージシャンの創作に様々な刺激を与えたいということもあるかもしれません。

曾國宏

──実際、アジアのインディー音楽は盛り上がっていて、彼らが海外でライヴを行うことも以前に比べて難しくないと思います。その一方で、いわゆるメジャーのミュージシャンだと海外を狙う動きはなかなか起こらないと感じているのですが、その辺はいかがお考えでしょう?

國國:最も直接的な原因は、お金が動くかどうかというのがメジャーミュージシャンにとっての鍵だからじゃないでしょうか。目標を海外市場に定めた台湾のバンドの一部には、市場の開拓以外だけでなく、単純に認められたいという想いもあると思うんです。台湾文化の特徴として、少々自信がないところがあって、海外から認められたいという部分はある。仮にお金を稼げなくても、他の人が自分の音楽をかっこいいと思ってくれれば、自分の音楽はかっこいいんだと胸を張れる。一方、メジャー音楽はどちらかという商業的に考えないといけない部分があって、カラオケで歌ってもらえれば自分たちの収入になる。インディバンドはそもそも聴いてくれる人の数がメジャーほど多くないけど、カッコよくありたいと思っているはずです。

──音楽を通してやりたいベクトルが違うと。

國國:先ほどメジャーとインディーの境目は曖昧になってきていると言ったものの、メジャー級のレコード会社にも当然、海外のアーティストとコラボしたいミュージシャンやA&Rもいるでしょう。そういう大きな会社は仕事も細分化されていて、連絡や仕事の効率はあまり良くないというのもあります。落日飛車もメジャーアーティストとのコラボに興味がないの? と訊かれることがあるのですが、やはり連絡や仕事の仕方という観点で見ると、メジャーと仕事するのはちょっとプロセスが面倒なんじゃないかなと思います。

寺尾:実は僕も日本でやりたいって、台湾のメジャーアーティストから相談を受けることもあるんです。でも実際難しいですよね、国内の市場を意識して作られた音楽作品とインディの芸術性のある作品ってやはり違っているので。インディ作品の方が海外でも面白がられるっていうのは事実あるんですよね。でも最近はインディーズの市場も大きくなってきているので、メジャーの人もインディーズのやり方を研究するようになったりしている。なので、メジャーでも芸術的なクオリティの高い作品が生まれてきているとは思います。

──ブッタさんのところには、逆に台湾で活躍したい日本のアーティストのお話もあるわけですよね?

寺尾:メジャーもインディーズも両方ありますね。でも、台湾での日本の音楽好きという市場が存在していて、昔からある程度のファンベースや影響力があったんですけど、今はだんだん減ってきていて。同時に他の国の音楽も台湾で広まってきているからこそ、今回「アジア創作音楽奨」が金曲奨に設立されたのかもしれない。一昔前なら、日本と韓国のミュージシャンに向けて部門ができたのかもしれないけど、今は東南アジアの音楽も存在感が増してきていますからね。

落日飛車の今後の展望

寺尾:落日飛車って今後ずっとインディーバンドとしてやっていくの? メジャーの誘いもある?

國國:インディーズで活動していく考えではありますよ。

寺尾:仮に日本でメジャーでやるとしても、アルバムを一枚完成させてリリースまでだいぶ時間がかかるから、あまり落日飛車には合わないんじゃないかな?

國國:なんでそんなに時間がかかるんでしょう?

寺尾:習慣ですかね。レーベルと相談したり、流通の手配もあるし、メジャーにはメジャーのやり方があるので、彼らに合わせないといけないと思います。日本のレーベルももちろん台湾のバンドに興味はあるはずだけど、台湾のインディーミュージシャンの仕事が早すぎるっていうのがあるかもしれない。彼らは音楽を作ったらすぐにYouTubeに音源をアップするけど、日本のマーケットに流通させるとなると、大体3ヶ月は宣伝や情報公開の準備に必要なんじゃないかな。僕はそういう台湾のスピード感は正解だと思うし、日本のメジャー市場が改善していくほうがいいと思いますけどね。

 

國國:日本の市場に出て行って3ヶ月くらい準備するとなると、世界全体がそれに合わせないといけなくなりますよね。どうにかできると思いますか?

寺尾:今のままの落日飛車のやり方がいいんじゃないかな? 日本も落日飛車とか台湾のインディーアーティストみたいなスピード感に変わっていくだろうし。日本のメジャーレーベルだと自由にYouTubeに曲をアップしたり、曲の配信ができないから。日本のメジャーレーベルはやっぱりCDを買ってもらいたい方針だったと思うんだけど、それも今変化の最中なので、今後どうなるか次第だよね。

國國:今は自分たちで夕陽音樂產業有限公司(Sunset Music Production)というレーベル会社を作っていて、台湾の雷頓狗やアメリカのバンドPaul Cherryが所属しているんです。一方で韓国のHYUKOHのレーベルとも協力していて、韓国では僕らの作品をリリースしてもらっています。今はいろいろな地域や国に似たような規模のレーベルとのつながりを増やしているところですね。今はレコード会社とインディペンデントの中間くらいの規模で、A&RチームやPRチーム、MVチームや協力スタジオを持ちつつ、少しづつ会社のようになってきているんですけど、全ての決定権は落日飛車にあります。台湾のレーベルは社内で全ての業務をこなすことに慣れていますし、海外のことも自分たちでやる。僕らは、海外のことは現地事情に詳しい現地の会社に任せていて、少しづつ繋げていきたいんです。国や地域によって協力の仕方も違っていて、僕らも柔軟にしていかないといけない。例えばヨーロッパやアメリカなら、レーベルではなくエージェントとディストリビューターと一緒に仕事をしますし。

寺尾:同じようなやり方を採っている台湾のバンドってあるの?

國國:deca joinsやElephant Gym、落差草原WWWWもそういうやり方に切り替えてきていると思います。ただでさえ高く付くコストや税の処理とかも面倒ですよね。それをグローバルにやるとコストはもっとかかるので、挑戦的ではあると思います。インディバンドがお金を稼ぐのは本当に難しいけど、ほとんどはカッコよくありたいだけ。カッコよくいるためにこれだけ多くのコストを支払わないといけない。

 

國國:落日飛車の経験を新しいバンドにも共有したいんですよね。台湾のバンドを国際的にしていきたいというよりも、海外ベースや国際的に活動するバンドと契約して、彼らを国際的に活動させたいんです。僕らが彼らの音楽を好きになれて、雰囲気も似ていれば、僕らの経験をそのバンドにも共有できるし、世界ツアーとかもしてほしいですしね。様々な国と連携をとっている僕らができることでもあるので、良い音楽を持って、良好なコミュニケーションをしていきたいです。


■イベント情報

〈第11回金音創作獎〉

2020年10月31日(土)@台北・台北流行音樂中心
日本時間:20:00より(YouTubeでの生配信あり)

YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/c/金音創作獎/videos
金音創作獎Facebook公式ページ:https://www.facebook.com/bamidgima/

■リリース情報

落日飛車(Sunset Rollercoaster)
アルバム『SOFT STORM』

配信日:2020年10月30日(金)
配信リンク:
Spotify:https://spoti.fi/31VWlu5
Apple Music:https://apple.co/3jIBAYy

Facebookページ:https://www.facebook.com/sunsetrollercoaster/
公式Twitter:https://twitter.com/ssrc_japan

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