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【連載】本と生活と。vol.26 僕のマリ『常識のない喫茶店』

StoryWriter

こんにちは! Huluオリジナルドラマ『死神さん』はじまりましたね、なたまざわです。

『ケイゾク』、『トリック』、 『スペック』と堤監督のドラマシリーズが大好きな者としてはとってもうれしい。

第1話で額に卍マークのタトゥーを入れている人が出てきて、地元のダサいヤンキーを思い出して笑いました(中学時代、ヤンキーの間で手の甲にコンパスで卍マークを書いて、墨汁を流し込むのが流行ったんです)。シュールな小ネタを挟むけど、フラグ回収の気持ちよさがミステリー然としている。堤作品の良さ炸裂で、今後もたのしみです!

さて、生活に寄り添う本を紹介するこの連載。第26回目に紹介するのは、僕のマリ『常識のない喫茶店』。

vol.26僕のマリ『常識のない喫茶店』

『常識のない喫茶店』
著者:僕のマリ
出版年:2021年

内容:
「働いている人が嫌な気持ちになる人はお客様ではない」
――そんな理念が、この店を、わたしを守ってくれた。
失礼な客は容赦なく「出禁」。
女性店員になめた態度をとる客には「塩対応」。
セクハラ、モラハラ、もちろん許しません。
ただ働いているだけなのに、
なぜこんな目にあわなければならないのか。
治外法権、世間のルールなど通用しない
異色の喫茶で繰り広げられる闘いの数々!
狂っているのは店か? 客か?
あらゆるサービス業従事者にこの本を捧げます。
喫茶×フェミニズム――
店員たちの小さな抵抗の日々を描く、
溜飲下がりまくりのお仕事エッセイ!

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784760153923

 

本書は実在している喫茶店で働いている著者・僕のマリさんのお仕事エッセイ集です。喫茶店の仕事内容を記しただけのエッセイではなく、良いお客さんのことも、悪いお客さんのことも細かいところまで丁寧に洞察し、文章にしているので飲食店で働いたことがある人であれば、すぐに「わかるわ~」という気持ちになります。

僕のマリさんが働いている喫茶店にはルールがないそうです。それに、働いている人を不快にさせるような無礼なお客さんとは喧嘩をしたり、出禁にしてもいいそう。あくまで従業員とお客さんは人として対等であることを大切にしているお店です。

私もアルバイトはいろいろとやってきましたが、飲食・接客業がメインでした。その中でやっぱり、理不尽なクレームや「いや、明らかにあなたがおかしいでしょ?」ということに対してもお客様=神様という日本の悪しき謎文化に縛られて、良い意味でも悪い意味でもすぐに一喜一憂していた気がします。

この本にはお笑いコントかよというぐらい強烈なお客さんがたくさん出てくるし、僕のマリさんの容赦ないやばいお客さんぶった切りにアメコミ・ヒーローを感じました。そして、外で読んだら絶対ダメな本です。吹き出し注意。

少し長いですが、感銘を受けた部分を全て引用します。

この世の中は狂っている。悔しいがそれが事実だ。でも、だからなんだ。何の主張もせず、狂った奴らの言いなりになって働くのか。店員だから格下なのか。お客様だから何をしてもいいのか。若い女だからなめられても仕方ないのか。私は日々考え続けた。小さな喫茶店で働きながら、色んなことを自問自答した。間違っていることを間違っていると言えない弱さは、のちに自分を苦しめることになる。どんな相手でも対等であること、嫌な気持ちに素直になること。そういう当たり前のことをやっと思い出せたから、「常識のない」人を出禁にし続けることができた。店にだって、お客さんを選ぶ権利はある。罵倒されても、言い返されても、私たちは黙らない。 (僕のマリ(2021年)『常識のない喫茶店』115ページより引用)

フードコートのクレープ屋さんで働いていた時、開店前に「一口食べさせてください」おばさんが執拗に絡んできたのを思い出しました。断って警備員を呼んだら、怒鳴られてバックヤードで泣いたし、何なら店長にも波風立てるなと叱られたことを思い出します。今思い出しただけでもちょーむかつく。なんで泣いたんだろう。あの時、私も勇気を出して立ち向かっていればよかったなと後悔しました。

現在、飲食業・接客業に従事している方はもちろん、仕事について思い悩んでいる方にもぜひおすすめです。きっと、自分が体験した悪い出来事も痛快コメディのように思える日が来るだろうなと前向きになれます。昔のことを走馬灯のように思い出して、その時の感情を追体験して落ち込む私が言うのだから間違いない(笑)。そして、打たれ弱い自分でも、違和感を無視せずにキッパリと「ノー」と言えるようなお守り的一冊です。

それでは今週はここまで。来週もよろしくおねがいします。

※「本と生活と。」は毎週水曜日更新予定です。

たまざわかづき
1993年生まれ。SWスタッフ。もともとクラリネットとドラムをやってました。音楽以外の好きなもの:本、映画、動物、ドラマ、Netflix、Hulu、ぬいぐるみ、文房具など諸々たくさん。モルモットのごまちゃんと生活してます。30歳になるまでに本屋さんの開業を目指しています。

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