watch more

カンパニー松尾が語るコロナ禍のナンパレース映画「劇場版 おうちでキャノンボール2020」

StoryWriter

コロナ禍に、あのレースがひっそりと開催されていた……。

カンパニー松尾が監督を務め、AV監督や男優がナンパレースを繰り広げる「テレクラキャノンボール」。2014年に劇場公開された「劇場版 テレクラキャノンボール2013」が男女問わず多くの人々を熱狂させ、芸能人やミュージシャンも巻き込み社会現象を巻き起こした。その後、BiSの解散ライヴにAV監督6人がそれぞれ密着したドキュメンタリー映画「劇場版 BiSキャノンボール 2014」、WACK合同オーディションにAV監督たちが密着してポイントを競った「劇場版 アイドルキャノンボール2017」と開催を重ね、ついにその本丸にして最新作となる「劇場版 おうちでキャノンボール2020」が、2022年3月26日より東京・K’s cinemaで1週間限定公開。同作が連日大入りを記録したことを受け、4月23日より3週間の追加上映が決定した。

舞台は、新型コロナウイルスが蔓延した緊急事態宣言下の2020年5月。濃厚接触が避けられないAV業界だからこそ今しか描けないものがあると思い至り、「ナンパはオンライン」「対面する場合は最低1.8mのソーシャルディスタンシングを厳守」など、これまでのキャノンボールとは異なる新ルールのもと非接触の“フルリモートナンパレース”を実施。バクシーシ山下、梁井一、嵐山みちる、黒田悠斗、カンパニー松尾の5人がレースに挑むこととなった。これまでのキャノンボールとは違う環境の中、戸惑いながらも、それぞれの個性を出しながら挑む5人が捉えた映像には、コロナ禍のもっとも厳しかった日々が生々しく描かれていた。そんな本作が生まれた背景、そして当時の様子について、監督のカンパニー松尾に話を聞いた。

 

取材&文:西澤裕郎
表紙写真:大橋祐希


日常が奪われてしまった中でのキャノンボールだったらできると思った

──コロナ禍中、何度か松尾さんにお会いする機会はありましたけど、まさか5月5日、6日でキャノンボールを実施していたとは知らなかったので、ビックリしました。

言っていなかったけど、実はやっていたんです(笑)。

──未知のウイルスに対して世の中が手探りの状況の中、どのようにして「おうちでキャノンボール2020」を行うことにしたんでしょう。

2020年に東京オリンピックを舞台に「テレクラキャノンボール」をやろうと思っていたんです。もともと「テレクラキャノンボール2013」の反響が大きくて、早く続きを撮ってほしいって声も多くて。ただ、僕はちょっと天邪鬼なので、すぐに同じようなものを撮るのも嫌だなと思っていて。僕の見かけが変わるぐらい年を食ったほうが面白いなと思って、2020年にやろうって設定をしていたんです(笑)。

──しかし2020年、コロナ禍によって東京オリンピックは延期になってしまいました。オリンピック開催を待たずにキャノンボールを行ったのはどうしてなんでしょう。

実を言うと、コロナ前からハマジムの業績があまり良くなくて。キャノンボールを作るお金がなかったんです。緊急事態宣言が出た4月から5月の1ヶ月半ぐらい、AVの制作が完全にストップしていたんですけど、そのタイミングで企画書が回ってきて。緊急事態制限下で何か撮りたいものはありますか?って。ちょうどその頃、Zoomとかを使った映画なんかも出てきて、新しい動きが始まっていたので、ルールに則ってキャノンボールをやったら何か映っちゃうかもしれないねって。街から人は消えたけど、今はインターネットというかSNSの時代だから、そこを見てみたいなと思ったんです。

──舞台をSNSに移して開催しようと。

あと、今までのテレキャノって、実はお祭に被せたりしているんですよ。例えば2013年は仙台の七夕まつりと被せている。被ってない年もあるんですけど、90年代の作品も青森ねぶた祭に被せていたりして。というのも、元々お祭の場ってハレの場じゃないですか? そこで逢引をしたりするイメージもあって。ハレの場の裏で、性の方もハレているんじゃないかみたいなことも考えていたんです。

──そういう意味で、東京オリンピックはもっとも大きなハレの舞台になるはずだった。

東京オリンピックが普通に行われていたら、街はハレの場になっていたと思うんです。しかも外国人の方もいっぱいいるだろうから、ハレの街の裏がどんなことになっているかを収めたかった。英語でナンパしなきゃいけないとか、いろんなルールを考えていたし、そういうことをしたかったんです。ところが、コロナによってハレではなく、ケ以下になってしまった。ケって日常だから、日常以下ですよね。日常も奪われてしまった中でのキャノンボールだったら逆にできるんじゃないかと思ったのがきっかけでした。

──AVの世界も動いてない状況だったからこそ、嵐山みちるさんや黒田さんも参加できた、プラスの面もあったんですよね。

本編でも触れてますけど、みちるが忙しくて時間が取れないくらいの売れっ子で。でもあのときは全てが止まってしまっていたので、逆にコンディションの良い状態でキャノンボールに参加できたんです。

嵐山みちる

黒田もそうですね。仕事が1ヶ月もなくて彼は本当焦っていて。だから賞金が欲しいし勝ちたかった。逆に言うと、山ちゃんみたいにずっとステイホームしていた人が、打ち合わせにもあまり来たくないとか、電車に乗りたくないから自転車で行くとか。実は山下が一番コロナの影響を受けていたのはありました。

バクシーシ山下

──黒田さんは今回初参加で、いわゆるダークホース的な登場になりましたよね。

歴史的に言うと、ビーバップみのるとタートル今田が抜けたんですね。彼らも年を重ねて人生いろいろあったから。次は誰かなって考えていたときに、歴代さかのぼると、昔は花岡じったさんっていう猛獣男優が入ってる時期があって。男優は僕らとスペックやSEXのパワーも思考も全然違う。黒田はもう何十年か知り合いで、彼が監督しているのも知ってるし、必然的に黒田だろうなって。色を変えたかったというか、ああいう獣みたいで、ある種遠慮がない。SEX IQが高くて、人の話を聞いていないところも含めて面白いとずっと思っていたんです。

黒田悠斗

──クリトリック・リスのMV「ちゃう」を撮っていただいたときに、音楽イベントのお客さんの中で平気でベロチュウをしているのを見て、肝が座っているというかエネルギーの塊のような方だと思いました。

かっこいいですよね。こう見えて僕ら監督は所詮文系の人たちなんで、肉体系ではないので、そこは全然違いますね。

変化の一番厳しいときの記録

──今回、非接触型でのキャノンボールを開催するにあたり、ルール決めを4月にされたシーンもありますが、ルール会議は難航しませんでしたか?

もともと僕が作ったベースに対して、自分が有利になるようなアイデアを出していくのが今までのルール会議で。2013だと、山下さんが突然無理ゲー的な、◯◯の話をし出して、みのるが乗っちゃったことによって最終的にそれが勝敗やドラマのポイントってなっているので会議は重要なんです。ただ、アイドルキャノンボールでポイントを増やしすぎて訳がわかんなくなっちゃったので、極力シンプルにしました。ベースはテレキャノに近い感じ。今回は、それ以外の、非接触とか、1. 8m厳守とか特殊なルールがあったのと、2013年から7年経っていたわけだから、価値観もアップデートされていて。例えば、ルール的に言うと、年齢的な部分でプラスマイナスはつけないようにしているのと、ジェンダーレス。こういう時代だから、男だろうが女だろうが差はないというか。

平沢審判部長

──性のことに関して点数をつけることって、かなりデリケートなことですけど、映画を見て、価値観的な部分での不快感みたいなものはほとんどなかったなと感じました。

その辺は、やる側も観る側もアップデートされていると思うんです。以前のキャノンボールもそういう気はなかったんですけど、撮影の過程で何かしら映ったものを編集して見てもらったときに、面白いと感じるかどうかは個人差だと思っていて。面白いと思えば別に笑ってもいいし、そこは自由だと思うんですよね。逆にデリケートに思う人もいる。ただ価値観を押し付けすぎるのは窮屈なので、僕は個人個人に任せたいスタンスで。もちろん一部分を強調するような演出とかはあまりしないようにしているつもりです。根本的に人のことを笑うなって言うんだけど、人のことを笑えるってことは、自分のことを最終的に笑えるのかなとも思っていて。けど最近はそういうわけにはいかなくて、テレビとか音楽の現場もそうかもしれないけど、コンプライアンスはすごく重要だし、配慮はしつつ、ハードルを少し下げつつもやっているって感じですね。

梁井一

──映画を観てすごいなと思ったのは、マスクという形じゃなく、当時の雰囲気をすごく納めているところでした。1. 8mを厳守するにあたって、目に見えるアイデアで映像化している部分はキャノンボールっぽいなと思いました。

言ってみたら、大喜利ですよね。僕は大喜利がど下手で全然答えられない人なんですけど、ちゃんと答えられる人が何人かいたので良かった。今回は大喜利が得意な人が勝っているんですよ。僕は見せるときの味付けが大事で情緒系というか。

──松尾さんは、やっぱりロマンチストというかエモーショナルな人だと感じました。

そう。だから道具はあまり必要なくて。テレキャノ的に言うと、バイクで走ってるシーンだけでも情緒的に見せられるし、特別なことじゃないシーンでもテロップワークを入れることによって、ちょっと意味が出るような見せ方が好きで。変わったことをできる人間じゃないので、どこかに行って、飯を食って、セックスをして、帰ってくるだけというか。企画性ってゼロなんですよね。それをどう見せるかっていう工夫だけでこれまでやってきちゃった。だから今回のようなストレートじゃないレースは弱いですね。

カンパニー松尾

──いわば、直接的な対面コミュニケーションが封じられたレースだったと思うんですけど、そこが強い人が逆にかなり苦戦したんじゃないかと思います。

現場で何とかしようっていう人たちが苦戦しましたよね。その手前で用意している人たちがちゃんと上にっていうことですよね。

──スマホでもテクニック的な部分で差が出てくるのも象徴的でしたし、世の中のルールが少し変わっている感じも受けました。

だから、現代にフィットしている人たちが強いよね。今回非接触で離れているけど、映像的に表現することに必死だったじゃないですか。例えば単純にオシッコをしてくださいってところでも、絵的な説明に、もう一つ付加価値をアドリブで付けているシーンがある。あそこは洒落がわかっているというか、今までの大喜利力というか、AV監督としての力が出ていると思いました。そこら辺は強いですね。

──そういう意味でいくと、松尾さんが撮っている雨の中の傘を差すシーン。まさにコロナ禍を象徴する情緒的なシーンでした。

相合傘ってコロナの時代には成立しないんですよね。今だったらマスクをしていれば別にいいと思うんですけど、あの時はなかったんです。同じ傘に入れないっていうのは、コミュニケーション取れる距離じゃないですからね。

──あんなに非日常な毎日だったのに、映像を観ると忘れてしまっていることが多いなと感じました。本当に人の近くに寄れなかったなと。

あの時が本当に最初だったから。電車もなるべく時間をずらして乗りましょうとか。いまじゃ、リモートワークが当たり前になったじゃないですか。本当はすごい変わったよね。

──日常が戻ってきたようで、実はすごく変わった部分が多くありますもんね。

元通りになるのかっていったら元通りにはならない。変化の一番厳しいときの記録という感じかもしれないですね。

実は東京って一番シリアスなんです

──すごく気になったことがあって。アポの待ち合わせ場所が東新宿ばかりだったじゃないですか? あれは何か理由があるんでしょうか。

そこが、わからないんですよ。渋谷とか池袋とかにもその手の待ち合わせ場所ってあるんですけど、2020年5月5日と6日の、あの期間、全員が東新宿だったんです。

──別に監督同士で何か示し合わせたわけじゃなく。

たまたまなんです。僕は2回待ち合わせに歌舞伎町と東新宿行きましたけど、いるのはポツポツ歩いてる普通の人と、スマホをガン見してる女の子。パパ活なのかエンコーなのかはわかんないですけど、ちょっと黒っぽい格好をしてる子たちかゆるフワ系の2パターンに分かれて。その子たちが100mおきにポツポツポツポツといる。直接声をかけてないので、どうなのかわからないけど、立ちんぼ状態というか、点在しているんです。路上で立ちながらずっとスマホをやっているんですよ。

──そういう意味では、後々振り返ったとき貴重な風俗資料になりますよね。

もうちょっとちゃんと撮っておけば良かったのかもしれないんですけど、本当に不思議な光景でした。だってお店がやっていないわけだから。ちょっと異様な光景でした。

──今回登場してくれた方々にとって、お金はリアルな動機になっていると思いますが、そこはある意味で意図的な演出をされていますよね。

もうちょっとシリアスに見せることも考えたんですけど、2020年5月に2日間やった感想が、ただただ楽しかったんですよ。そこを大切に、審査会議のテンションで編集したんです。神妙に作りすぎない方が俺にとってリアルなのかなと。一個人にフォーカスしていくとシリアスな話になるんだろうけど、コロナによって、社会全体に出来た見えない檻があると僕は思っていて。スコーンとはめられて人がそれで動けなくなっちゃうみたいな。しかも等しく平たくのしかかって囲まれている。そういう感覚だったので、その中で、シリアスになりすぎないようにはしたんです。

──バックグラウンドを掘れば掘るほどシリアスになっていくのはわかっていたと。

バックグラウンドを堀るという点でいうと、実は東京って一番シリアスなんですよ。僕は毎回話を聞くたびに思っているんですけど、東京って格差が激しくつく街なんです。路上で生活している方もいらっしゃるし、その横を高級車がスーパーカーが通っちゃう。例えば、お金がないって話にしても、地方では漠然と5万円あると助かりますってことが多いけど、東京の5万円っていうのは今日の5万円なんですよ。支払いなのかバックが買いたいのかわからないけど、すぐに必要というか。今日の5万円なのか、今月5万円なのか。そういうところの違いですよね。ある種地方だと人がいいからあくせくもしてないし、その中でぼんやり何かが不安だったりする。東京はいつも困っているステージの人が多いという印象が強いですね。

──今回、東京が舞台ということで、シリアスなものになる可能性もあったんですね。

本当はシリアスな舞台の筈なんだけど、出演者には映画に出てくれるって同意書を書いてもらわなきゃいけなくて。逆にそこをOKで越えてくれる方たちなわけで、ある種ふっきった人たちだから、言い方は合ってるかわからないけど面白い人たちが多い。逆に、そうじゃないパターンの事例があったりもして。漠然とした不安があって、軽い気持ちでOKはしたけどやっぱりっていう。あれは今っぽいですよね。

──今っぽいっていうところでいうと、リモートの時差もちゃんと収録されていて。同じ条件なんですけど、環境によってちょっとした差がついていく。ああいうのも10年後とかに見たらわからない感覚かもしれないですよね。

Wi-Fiの環境とかも、クリアされているかもしれないですもんね。

──改めてこれから「劇場版 おうちでキャノンボール2020」を見る方に対して、見どころを教えていただけますか。

基本的には「テレクラキャノンボール2013」を見た人が大多数だと思うんですけど、さっきも言ったように価値観がアップデートされていたり、コロナで世界が変わっちゃったと思うんですよ。だから前みたいに素直に楽しめないんじゃないかとか、あんときは好きだったけど今となってはあれはひどいよねって思うかもしれない。ただ、人間ってそんなに変わらないと思うんです。時代が変わったり、社会のルールが変わったとしても、自分のアイデンティティみたいなものは大切にしてほしいなと思って。SNSで何も言わなくていいから見に来てほしいなって。好きな人だけが好きなタイミングで見てほしい。今まで渋谷の劇場でやらせてもらったんですけど、今回は舞台が新宿なので新宿で長くやりたいなって。だから劇場で最初見てもらいたいですね。大声出さなくていいから、こっそり見に来てください。

──気が早いですけど、次のキャノンボールの構想なんかは考えていたりするんですか?

次は俺が還暦の年かなと思っていて。オープンニングで俺がちゃんちゃんこを着ていたらおもしろいんじゃないかなと(笑)。ちゃんちゃんこで出てきちゃったよみたいな。山さん完全に勃ちませんみたいな。そういう別のおもしろさが出たらいいなと思いますね。


■公開情報

『劇場版 おうちでキャノンボール2020』追加上映日程
2022年4月23日(土)~5月13日(金) *終映日は予定
4/23~29 連日21時00分より *4/30以降のタイムテーブルは未定

『テレクラキャノンボール』シリーズ特集上映概要
4月23日(土)『劇場版 テレクラキャノンボール2013』(上映時間:132分)
4月24日(日)『劇場版 BiSキャノンボール2014』(上映時間:120分)
4月25日(月)『劇場版 アイドルキャノンボール2017』(上映時間:135分)
4月26日(火)『劇場版 テレクラキャノンボール2013』(上映時間:132分)
4月27日(水)『劇場版 BiSキャノンボール2014』(上映時間:120分)
4月28日(木)『劇場版 アイドルキャノンボール2017』(上映時間:135分)
連日18時30分より

PICK UP