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【INTERVIEW】鳥飼茜が語る“アラサー男性と風俗嬢の恋”、ジャッジできない「恋愛」の眺め方

StoryWriter

アラサー男性と風俗嬢の運命の恋とその後を描いた漫画『ロマンス暴風域』が、2022年7月5日(火)よりMBS/TBSドラマイズム枠にて実写ドラマ化、放送がスタートした。

主人公は、私立高校で非正規美術講師として働く佐藤民生(さとう・たみお)<通称:サトミン>、34歳。非モテの人生を歩む自分にコンプレックスを抱えながら生きており、マッチングアプリで婚活に勤しむも非正規を理由になかなかうまくいかない。追い打ちをかけるように講師の仕事も契約が打ち切りになり、人生ドン詰まり状態。そんな失意のある日、ふと入った風俗店で出会った女性・せりかに一目ぼれ。お金や肩書など関係ない“運命の出会い”を感じ、店に通いつめるようになる。せりかとの関係は徐々に接近していくが、せりかとの恋は民生に容赦なく現実を突きつけていく……。真実の愛とはなにか。運命の恋はどこにあるのかー。

本作を描いたのは、漫画家・鳥飼茜。2014年、『おはようおかえり』が「このマンガがすごい! 2014」オンナ編第9位を記録、2015年には「第39回講談社漫画賞」にて『おんなのいえ』がノミネート、『先生の白い嘘』が “男女の性差”を浮き彫りとして大きな話題となり、『地獄のガールフレンド』は映像化も果たすなど、リアルな描写で読者の心をえぐる話題作を続々生み出し続けている。そんな鳥飼に、本作を描いた背景、またなぜ他者だけでなく自分自身に対して深く向かい合うことができるかなど、ざっくばらんに話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎


自分をノーコントロールにさせてくれる相手をみんな潜在的に期待している

──『ロマンス暴風域』は、知人から聞いた実話がきっかけで描き始めたそうですね。

鳥飼:その男性はいい出会いがなく、初めて風俗に行ってみたら、すごく好みの子がいたそうなんです。その女の子も「好き」って言ってくれて、外でも会うようになったそうなんですけど、急に会えなくなってしまい、騙されてたのかな……と悩むようになって。その後、さみしかったのか、風俗通いに馴染んじゃったのかわからないんですけど、風俗やガールズバーに行くようになり、そこでも何度か女の子との出会いがあったみたいで。その話に着想を得て、そこから漫画にしていったんです。

──その体験談を、どのように鳥飼さん的に着色していったんでしょう?

鳥飼:もちろん相手の女性がどんな顔をしているのかとか、現場で起こった全てを知っているわけではなくて。その女の子がどうしてそういう行動に至ったかも知らないんですけど、私の中で一応の理屈がないと書けないので、ノンフィクションをフィクション化していくというか。それぞれの動機づけみたいなものをして描いていきました。

漫画『ロマンス暴風域』1・2巻 表紙

──主人公は、かなり「運命」を求めるじゃないですか。それはどうしてなんでしょう?

鳥飼:「週間SPA!」で漫画を描くことになったとき、版元の偉い人が、「男は最終的に死ぬ前に純愛をして死にたいんですよ」「そういうのが諦められない生き物なんですよ」ってファミレスで熱弁していて。純愛とか運命って言葉を多用したのは、男性はそういうものを期待しているんだなっていう知識というか、その時の入れ知恵があってというのもあります(笑)。

──ちなみに、その方はご結婚されている?

鳥飼:しています。

──でも、再び純愛をしたいと願っている。

鳥飼:死ぬまでにもう1回純愛をしたいって。

──鳥飼さん的には、何言ってるんだ、って感じですか?

鳥飼:何を言っているのかは分かるけど、何言ってるんだろうって(笑)。結婚してるその人の言う「最後の純愛」って、要するに背徳性のある恋愛ですよね? 背徳がある上で、最後の運命を期待しているとしたら、舞台設定として風俗はすごくいいんじゃないかと思った部分もあります。

──タイトル『ロマンス暴風域』の“暴風域”って言葉がいいですよね。

鳥飼:編集の人といろいろな単語を組み合わせてつけたんですけど、このタイトルがいいなと思って。抗えない何かに巻き込まれる、みたいなものを男の人は期待しているんじゃないかなと。

──その感覚は、鳥飼さん自身はお持ちではない?

鳥飼:できれば避けたいです。そうはいいつつ、自分をノーコントロールにさせてくれる相手を、わりとみんな潜在的に期待しているのは、男女問わずあると思うんです。ただ、おじさんは割とそれを口にして言うところがあるのかなって(笑)。

──僕も39歳なので、結構口に出して言っちゃいます(苦笑)。自分の場合、キャバクラにはよく行くんです。舞台は違うけど、主人公の気持ちがわかるというか。もしかして、相手は自分のことを好きになってくれたんじゃないのかみたいな。

鳥飼:あー…… それはそういう商売だから(笑)。

──もちろんそれは分かっているんですけど、自分だけは違うんじゃないか……って思っちゃったりするんです。

鳥飼:その話で言うと、漫画のベースになった友だちは当時まだ30代で、おじさんと言うにはまだ若さが残っていたし、見た目もちょっと大学生風だった。そういう彼がお店に行ったら、他のおじさんよりは嬢にとって魅力的だろうと本人も思っていたのが透けて見えたというか。世の中全般、ミドルエイジ男女全員が思っていると思いますよ。自分は他の同世代よりイケてる、自分は同世代より若い子の気持ち分かるとかって。

ドラマイズム 「ロマンス暴風域」第一話 場面写真

──漫画の中で、女の子たちはサトミンに心を許しているように見えますが、クイックジャパンのインタビューで、男性読者が見たらわからないけど、女性が読んだら、サトミンが手のひらで転がされているのがわかるとおっしゃっていましたね。

鳥飼:男からは分からないけど、女には分かる表現ってことですよね?

──はい。そのインタビューを読んでから読み直したんですけど、女の子に転がされているとは思えなくて……。

鳥飼:それは、私の演出下手なのかもしれない。

──いや、僕が女心を分かっていないだけだと思います。

鳥飼:もっと分かりやすく描くこともできたんですよ。具体的に、せりかがいじわるくほくそ笑んでいるシーンを描けば、もっと分かりやすかったと思うんですけど、そこはふわっとさせました。結局、又聞きの話ではあるし、舞台は風俗ではありますけど、一応男女の出会いだし、本当の好き同士の可能性もあるわけで、誰にもそれは否定できない。その子は地方出身者の子だったらしいんですけど、都市部の自分の知らないことを知っているその男性に実際惹かれている部分もあるのかな、というか。推測ですけど。イニシアチブをとっている人って瞬間瞬間で入れ替わるから、ずっと転がすなんてよほど策略のある人だと思うんです。もしかしたら2人とも場当たり的に恋愛っぽいことをしたのかなと思ったし、そっちの方が描きたいなと思ったんですよね。

人間を露悪的に描いたりするのは、殺人者と同じ発想が自分の中のどこかにあるから

──家庭を持っている風俗嬢も登場します。彼女は男性の純愛妄想に付き合う必要がないはずなのに、それでも店を通さず付き合うのはなぜなんでしょう。

鳥飼:単純に自分の環境において圧倒的に満たされていないから、そういう行動に出たんだろうし、それは理解はできます。暴力と一緒で、親や配偶者から強い抑圧を受けた人は、それを自分より弱い方にぶつけてしまう。それは悪いことだけど、止められない自然のサイクルとして存在するのも事実で。もしかしたら、せりかは旦那さんにもっと認められたかったのかもしれないし、他の誰かに圧倒的に愛されたかったけど、噛み合わなかったのかもしれない。そういう思い出を、別のぶつけやすい人を見つけて代わりに叶えたりとか、自分が受けた抑圧を仕返ししてみたりとか。そういう嗜虐性みたいなものは誰にでもあると思います。そんなに珍しいことじゃないというか。

──そのきっかけの場として、本作では風俗が舞台になっているのはなぜでしょう?

鳥飼:お金を払えばとりあえず喋りたいレベルの異性と喋れたり、そこに介入できる。サトミンも、もともとお見合いアプリで純愛をしようとしたんだけど、彼のスペックでは、それが難しかった。自分がジャッジされる側であることに耐えられなくなったときに、お金を払ってジャッジできる側に回った。そこは全然理解できるというか。いいとは思わないけど、人間の弱さってそういうものだしって思っています。

ドラマイズム 「ロマンス暴風域」第一話 場面写真

──たしかに歳を重ねると、お金が介在しないと、プライベートで誰も異性は自分と喋ってくれないんじゃないかって思うようになってきているのも否定できないです……。

鳥飼:だから、純愛したいんでしょうね(笑)。

──読んでいて、共感する部分も多く、それがつらい気持ちになるんですけど、どうしてそこまで男性側の視点が分かるんでしょう。

鳥飼:えー、全然分かってはないんですけど……いつも考えているからですかね? これまで、自分が1番多くの経験を得る場面って恋愛だったんですよ。異性と一対一で付き合ったときに起こる摩擦とか衝突から、なんで自分と人って違うんだろう?と考えることが多くて。上手くいかないことも多いし、どうしたら折り合いがつくんだろうと考えてきたんです。解せないことに対して、その相手なりの理屈を推測してきた。それが多少当たっている部分もあったのかもしれないけど、それで男性のことを分かったかと言われると分からないです(笑)。

──鳥飼さんの漫画を読むと、自分自身に対してもすごく曖昧に生きてきたなと思わされるんです。自分の中の疑問や想い対しても、心の中で上辺で回答しちゃうというか。

鳥飼:みんなそうだと思いますよ。自分もそうだし。でも私の漫画が読みづらいって言われるのは、そこだと思うんですけど、私が人間を露悪的に描いたりするのは、究極的には殺人者と同じ発想が自分の中のどこかにきっとあるからで。犯罪者に対して、みんな自分達とは違う異常者って箱に放り込んでとりあえずフタをしときたいと思うんですけど、なんでフタをしたいかっていうと、自分の中に、その人と共感できる弱さや醜さがあるからだと思って。全然分からなかったら怖いってだけだけど、どこかまでは一緒なんです。だからこそ、どこから崩れたんだろうと知っておかないと、自分もそこに近づいちゃいかもしれない怖さがあるんですよ。

──それは男女の間でも、どこか繋がっている部分があると。

鳥飼:女性を圧迫したり、何かを強要する男性は嫌だけど、もし自分が男性だったら女性のこういうところ腹が立つだろうなってよく考えるんです。腹立つから圧迫していいかと言ったら違うんですけど、露悪的なところを見せるのは、自分にも人を傷つける可能性が常にあるって、ちょっとでも思い立ってもらえたらいいなって。みんながそれを考えて初めて、その事実が変わっていくというか。誰かが虐げられていたり、差別されたりするけど、自分も差別する気持ちがあるし、そこを認めてからじゃないと前に進まない。あれ、何の話をしてましたっけ……(笑)。

──どうしてそこまで上辺じゃなく、自分を掘り下げられるのかなと思って。それって、自己嫌悪だったり、自信をなくしていくことにも繋がる作業な気がするんですよね。

鳥飼:根本的に私は、自分のことがめっちゃ好きな人なんですよ。だから、あまりそこでメンタルをやられることはない。あと、なんで自分を嫌いにならないかって言うと、みんなこういうダメなところあるよね?と思うから。その分量が多いか少ないかにもよるし、場合によっては気持ちが落ちてしまうかもしれないので気をつけていかないといけないけど。いろいろな要素を持った上で、自分がバランス良くかっこよくいられるために、悪い癖とか歪みはある前提として知っておかないといけない。だから、怖いとは思わないし、知っておかない方が怖い。

女の笑顔って防御策だから

──最近、キャバクラの女の子と『明日、私は誰かのカノジョ』の話をよくするんです。みんなリアリティがあると口を揃えて言うんですけど、この漫画も、男は純愛を求めているし、女の子はまた違うところを見ている。女の子が心を許してくれていると思っていたところに、ズバッと現実が描かれるから、僕にとっては予測不能な展開で。

鳥飼:男性側からすると予測不能だけど、女性には全部見えているってことですよね? なんで予測不能なんですか?

──たぶん僕が相手のことを深く考えていないというか、自分にいいように勝手に解釈しているだけなんだと思います。

鳥飼:逆に、そこを見ないでよく問題なく生きていられるなって思います(笑)。

──それは自分でも思うんです。今になってショックを受けることがすごく多くて。

鳥飼:大丈夫ですか(笑)? でも、大丈夫なんでしょうね。考えすぎないのは羨ましいと思いますけどね。予測不能だったことにびっくりしちゃうのは、相手の気持ちに思いが至らなかったのもあると思うけど、女の人ってギリギリまで笑っているんですよ。笑って受け入れている。それを見てうれしがっていると思うんだけど、女の笑顔って防御策だから。自分がこれ以上傷つかないために、これ以上入って来られないために、ガードしておくために、笑って済ますという。それも理由としてはあるんじゃないかなって思うんですよ。分からないですけど。

──僕、結婚した年の年末に離婚しているんです。

鳥飼:まじで(笑)!

──そういう事実もあるから、人の気持ちが分かってないと自己嫌悪に陥るというか。

鳥飼:私も4月に離婚したんですよ。そのときまでは、私も頑張っていたし、防御で笑ってたと思う。だから、もしかしたら相手はびっくりしたかもしれないです。

──パートナーからしたら、青天の霹靂みたいな感じだったんですか。

鳥飼:それまで諸々あったので予測できないことじゃなかったと思うけど、最終的に女の人というか……私ですけど、あーもうこれダメだよって決めてからは、仏のようにうっすら笑っているし、不要なことは言わないし、これ以上絶対介入させないって決めたら、相手に悟らせないようにっていうのがすごく働くんですよ。結局モメたり問題提起するのって相手からしたら面倒事でも、こちらからすると積極的介入という愛の形ではあるので。だから愛情はなくなるにつれモメなくなる(笑)。(インタビュアーは)そういう部分が見えてなかったんですよね?

──そうだと思います。全然気がついていなかった。

鳥飼:私も10代おわりのとき、信じきってた関係がひっくり返ったことが1回あって。そのときに足元をすくわれたというか。そこからガラッと人生変えて、人も自分も信用しないようにしたときがあるんです。自分にも汚いところがあるとか、全ての裏切りが犯罪にすら結びつく要素を誰しも持っているし、それでも人間を信ずるに値すると思いたいから、まず自分の中にあるものを全部眺めるってことをしないと生きていけないなって悟ったんです。

──ドラマ化されるにあたって、どんなところに着目して観てほしいですか?

鳥飼:漫画を描くときに意識していたのは、風俗での出会いそのものに「正しい/誤り」はないということで。私自身、男の人が風俗で謎のファンタジーを求めるのは自由だけど、そこに純愛はないでしょと思っていて。そもそもを言えば、私は風俗業というものに対して、どうしても飲み込めない部分が未だにずっとあるし、完全な理解者ではない。そんな思いもありながらも、そこで起こった恋愛が嘘か誤りかとか勘違いかは誰にも判断できないと思うんです。不倫も嫌だし嫌いだけど、人の恋愛を他人が判断することは絶対にできない。もっといえば、本人同士にもジャッジできない。それでも進んでいってしまうものが恋愛の側面でもあるから。それを正しくないって気持ちも込みで、モヤモヤしながら最後まで眺めることをどうかオツだと思ってほしいです(笑)。オツと思うしか、今後の人生で起きることを乗り越えられないというか。何ごともオツだなあくらいに思ってないと、予測不能が起きたときに人って耐えられない。誰しもが予想しなかったことに巻き込まれるってこともあるので。だから、オツと思って観てもらえたらと思います。


■放送情報

ドラマイズム 「ロマンス暴風域」
MBS/TBS ドラマイズム枠にて7月5日(火)より放送スタート!
MBS:毎週火曜 24:59~(※初回は 25:19~)
TBS:毎週火曜 24:58~(※初回は 25:50~)
原作:鳥飼茜「ロマンス暴風域」(扶桑社)
出演:渡辺大知 工藤遥 小野花梨 ほか
監督:児山隆(『猿楽町で会いましょう』)、水波圭太(「荒ぶる季節の乙女どもよ。」)
脚本:開真里(「シジュウカラ」)
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
製作:「ロマンス暴風域」製作委員会・MBS
Twitter:@dramaism_mbs
Instagram:dramaism_mbs
TikTok:@drama_mbs
公式 HP:https://www.mbs.jp/romance_bofuiki/
配信:TBS 放送後、TVer、GYAO!、MBS 動画イズム 見逃し配信1週間あり
©「ロマンス暴風域」 製作委員会・MBS

ドラマあらすじ
高校の非正規講師である佐藤民生(34)(渡辺大知)は、学生時代に付き合った彼女と別れて以降、独り身が続いている。非モテの自分から抜け出したいと婚活に励むも、非正規を理由に相手にされず……。さらに講師の仕事の契約終了が決まっているが、就活もうまくいかない。そんな自分を慰めるように入った風俗店で出会った風俗嬢・せりか(工藤遥)に一目ぼれ。せりかに“運命”を感じた民生は、風俗店に通いはじめる。いつも明るく笑顔のせりかに民生はどんどん惹かれていき、ついに店外デートの約束をとりつける。デート当日。恋人のようにデートを楽しむ二人は自然といい雰囲気に……。民生のせりかに対する気持ちも最高潮に盛り上がるが、せりかにはある秘密があって――。肩書、年収、年齢、世の中から求められる一般的な男性像。さらに、コンプレックスにまみれた自分の内側。目を背けることのできない現実に惑う民生が求める、真実の愛とはなにか。運命の恋はどこにあるのか。“ありのままの自分”を認めてほしい。愛してほしい。恋愛弱者のロマンス、ここに開幕!!

■原作情報
漫画『ロマンス暴風域』1・2巻好評発売中

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