【連載】アセロラ4000「嬢と私」第7回

「アセちゃ~ん!!」

Xmasまであと1週間に迫ったある日。サンタが街にやってきた。そう、恋人がサンタクロース。キャバクラの世界からやってくる。正確には、恋人ではない。しかし、今もっとも恋人に近い距離感。人生の喜びというプレゼントを届けてくれるのが嬢サンタなのだ。

「待った!? ねえ、待った?」

2度目のデート(同伴)の待ち合わせ。正直、待った。約束は午後7時。今、7時半。下北沢の居酒屋「魚真」は、連日満員の人気店。やっとのことで予約したにも関わらず平気で遅れてくるとは。私の心、嬢知らず。だが、仕方ない。嬢は忙しいのだ。私とのデート(同伴)に時間を割いてくれただけでも嬉しい。

それにしても、嬢の存在感はなんだ。駅前に嬢が現れただけで、都会(まち)はきらめくパッションフルーツ。ウィンクしてるエブリナイト。嬢のキャッツアイにキャッチされたら誰もが虜になってしまう。先ほどから道往く男性たちがこちらをチラ見しながら通り過ぎている。光沢のある黒髪、透き通るような白い肌。長く綺麗なまつ毛、そして巨乳。私は、地上に舞い降りたエンジェルを連れて街を歩く快感に酔いしれながら、店に向かった。

「今日は、いっぱいお魚食べようね!」

2度目のデート(同伴)にして、早くも勝手知ったる仲の2人。遠慮など、いらない。カウンターに並んで腰掛け、速射砲のごとく次々とオーダーする嬢。刺身盛り合わせ、のどぐろの刺身、うにといくらが乗った豪快なのっけ寿司……。容赦ない嬢の食欲が私の経済に襲い掛かる。遠慮など、いらない。いや、少しは遠慮も必要かもしれない。ちょっとは私という大蔵大臣に「これ食べていい?」と、お伺いを立てても良いのではないか。1回目のオーダーですでに私の財布は冷や汗を流し出した。

そこへ、女性店員さんがやってきてこう言った。

「刺身の盛り合わせに、のどぐろのお刺身も入っておりますが、単品でもご注文なさいますか?」

ナイスな指摘。わざわざ、ダブり注文を諭してくれる女性店員。よくみると、かわいい。私と嬢の顔を交互に見ながら答えを待つ店員さん。ありがとう、もちろん単品は取り下げよう。そう言いかけた私の声を遮るように、嬢がこう言った。

「どっちもお願い」

ムスッとした愛想のない声で、店員さんに告げる嬢。そんなに、高級魚のどぐろが食べたいのだろうか。いや、違う。おそらく嬢は、私にやきもちを焼いているのだ。かわいい女性店員さんに一瞬でも心を奪われた私を。すまなかった、嬢。改めてここに誓う。私は、嬢のものであることを。

レモンサワーとビールで乾杯して、2人の冬物語が始まった。この日が来るまで長かった。マヨネーズごはんで日々の食費を抑え、移動はもっぱら徒歩と自転車。蛍の光、窓の雪。どんな誘惑にも負けずにこの日を待った。そして今、嬢が隣にいる。どれほど夢に見たことか。嬢が今、隣にいるのだ。隣にいる。だがしかし。

話すことが、ない。

嬢の生い立ち、キャバ嬢へと昇りつめるまでのストーリーは、初回の同伴で聞いた。逆に嬢は私のことについて何も訊いてこない。どんな仕事をしていて、どんな毎日を送っているのか。彼女はいるのか、好きなタイプはどんな女性かなど、まったく聞いてくる気配がない。遠慮をしている、いや、もしかしたら「興味がない」のか。では、なぜ嬢はここにいるのか。私に会いたいのではなかったのか。そんなことを思いながら嬢の横顔を見つめる。嬢は、さきほどから店の入り口を見ている。いや、睨んでいるようだ。

「寒い」

店の入り口には、店の混雑具合を見て入るかどうするか迷っている様子のカップルがいた。嬢は引き戸を開けたままで会話しているカップルにキレていたのだ。そして、嬢の感情が爆発した。

「寒いからさ」

嬢はカップルに直に話しかけた。ハッとして気まずそうに、戸を閉めて出ていくカップル。唖然とする私に振り返ると嬢は言った。

「私、ああいうの言うからさ」

のどぐろの刺身をばくばく食べながら、アティチュードを示す嬢。店内には、ちょっとピリついた空気が漂っている。私は嬢を見つめ、ハハハ、と力なく笑う。傍若無人な嬢の振る舞いに、私の心も少し曇りがちになってきた。こちらの様子をものともせず、レモンサワーをお替りする嬢。グビグビっと飲み干すと、「そろそろ、行こ?」と、お会計を促す。そうだ、ここから電車で移動して、店に行かなければならないのだ。

合計9,500円也。短時間で、結構、飲んだ(嬢が)。結構、食べた(嬢が)。会計を済ませ、大した会話もなく店を出る嬢と私。何かが、おかしい。嬢は私のことが好きではないのだろうか。どうしてこんな態度をとるのだろうか。それに、もしかしたら嬢って…… 性格が悪いのではないだろうか? ダメだ、ダメだ。そんな疑念を抱いてはダメだ。嬢は少し勝気なだけだ。これから、2人だけのXmasパーティーが待っているのだ。行かなければ。

嬢は私のサンタクロース。そして私は、嬢を乗せてソリを走らせるトナカイ。行く先は、嬢の店。トナカイは、いつもみんなの笑いものなのかもしれない。私は、少しだけ暗い気分でキャバクラへとソリを走らせた。

〜第8回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」第1回
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【連載】アセロラ4000「嬢と私」第6回

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アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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