【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.5「不安や絶望はクリエイティヴに必須でない」

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない

メンタルな問題を抱えていることを告白しているミュージシャンは少なくありませんが、彼ら、彼女らからのメッセージには耳を傾けるべきことが多く含まれています。

デビュー以来、高い評価を得てきたジェイムス・ブレイクは、2018年、自分がうつ病と不安神経症(※1 全般性不安障害)に苦しんできたことを明かしました。

彼は、「音楽活動を始めた頃に苦しんだうつ病のせいでツアー中に自殺を考えたことがあった」そうです。

そして「創造力と心理的苦悩を混同しないように気をつけるべきだ」、「不安でなければクリエイティヴになれないとか、絶望していなければ天才でないというような通説がある。でも僕が何かを創る時に不安神経症が助けになったことなどないとはっきり言える。そして友人たちの創造的プロセスを破壊するところも見てきた」と語っています。

確かに彼が言うように、時として精神疾患に発展してしまうほどの「不安や絶望がクリエイティヴには必要」であるかのような通説があるように思います。

しかし、彼のように、誰しもがその才能を認める音楽家が、「それは必要ない」と断言していることは、とても重要だと思います。

また、彼は「何かを打ち明けて心の重荷を降ろしたり、助けてくれる音楽に共感することが恥だと、自分の感情を恐れている者たちから潜在的に思わされないでほしい。男らしさや虚勢は最終的に大きな勝利にはならない。僕が情熱を傾けている精神の健康と幸せへと続く道は誠実でできているんだ」と、男性が自分の弱さや感情を表現することは悪いことではない、とも主張しています。

ちなみに彼の場合、EMDR(※2)という療法が効果的だったそうです。

 

そのジェイムス・ブレイクがアルバム『Lemonade』でゲストボーカルとして参加したこともあるビヨンセも、うつ病で苦しんでいたことを明かしています。

「食事もせず自分の部屋にこもっていた。私の人生のなかでとてもつらい時期で、私は何者? 私の友人は誰? と思うほど孤独な時間を体験した。人生が変わってしまった」、「自分が有名になった以上、ありのままの自分を愛してくれる人に2度と会えないんじゃないか、と不安だった」と語っています。

ここでも、「ありのままの自分を愛してくれる人」という、これまでに何度か出てきた重要なキーワードである「無条件に受け容れること」の大切さが示唆されています。

彼女は「無条件に受け容れてくれた」母親の力を借りて、2011年から1年の休暇を取りました。そして「女性は罪悪感を持たずに、自分のメンタルヘルスのために休むべき」と主張しています。

 

パッション・ピットのマイケル・アンジュラコスは、自分が双極性障害であることを明かしています。

そして、自身の楽曲がダークさとポップさを兼ね備えていることが双極性障害という精神疾患から生まれるものだと評価されることについて「音楽のバックグラウンドを飾るためにはどのくらい多くの(精神疾患のような)エピソードが必要なのか。あと何人のアーティストが死ぬ必要があるんだ」と語り、ジェイムズ・ブレイクと同様に、メンタルの問題とクリエイティヴを結びつけて考えることに疑問を投げかけています。

そして「常に音楽を作り続けたい。そのための唯一の方法は懸命に健康を維持することだ。より健康であることはとてもアートなことなんだ」と言い、精神面の健康のために活動休止を宣言しました。

 

こうしたアーティストたちからのメッセージは、とても重要だと思います。クリエイティヴィティとメンタルの問題をむやみに関連づけず、もし、状態が悪いようであれば、とにかく休むことが必要なのです。

※1 全般性不安障害
過剰な不安と心配が、起る日のほうが起らない日よりも多い状態が少なくとも6ヶ月間に渡り、その心配を抑制することが難しく感じていて、以下の6つの症状のうち3つ以上を伴っていて 【(1) 落ち着きのなさ、緊張感、神経の高ぶり (2.)疲労しやすい (3)集中困難、または心が空白(4)易怒性(5)筋肉の緊張(6)睡眠障害 】 臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的、その他重要な領域で機能の障害を引き起こしている状態にあること。
※2 EMDR
アメリカの臨床心理士F・シャピロが開発した方法。英、米、独、仏、スウェーデン、イスラエル、北アイルランドなど多くの国が発表するPTSD(外傷後ストレス障害)の治療ガイドラインに「実証された最も効果がある心理療法」の1つとして載せられている。トラウマとなっているつらい記憶を心に思い浮かべながら、指の動きや機械の光の動きを追い、目を左右交互に動かす手法。
WHO(世界保健機関)も、EMDRを患者の負担が最も少ないトラウマ治療の方法として推奨している。

参照
・ジェイムス・ブレイク、自分の曲が“sad boy”と呼ばれることに反論「不健康で問題があると常々思っていた」(billboard JAPAN 2018/05/29)
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/63826/2

・ジェイムス・ブレイク、うつ病や不安神経症に苦しんだ過去を告白「話すことで悪いイメージを取り除く責任がある」(billboard JAPAN 2018/07/03)
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/65093/2

・『音楽が好きだが自分の心の健康も大事にしたい 米ミュージシャン、治療のため活動休止を宣言』J-CAST NEWS
https://www.j-cast.com/2017/07/26304248.html?p=all

・11人のセレブが告白した「自分が向き合った心の問題」(COSMOPOLITAN 2016.10.24)https://www.cosmopolitan.com/jp/entertainment/celebrity/tips/a2555/celebrity-quotes-mental-health/

・1人の人間として・・・メンタルヘルスを明かした9名のアーティスト(COSOMOPOLITAN)
https://www.cosmopolitan.com/jp/entertainment/celebrity/news/a5936/artists-on-mental-heath-issues/

・クローズアップ現代『心と体を救う トラウマ治療最前線』2013年12月11日(水)放送http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3445/1.html

・一般社団法人 日本臨床心理士会
http://www.jsccp.jp/

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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