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StoryWriter

東京を飛び出した私は、深夜の高速バスに揺られている。

キャバクラごっこを今も続けながら旅の途中。忘れたい。「嬢生誕祭」のことを。

ただ、目的地はある。私は海を目指していた。厳しい日本海の荒波を見つめながら、これまでの嬢との熱愛の日々(キャバクラ通い)を見つめなおしたいのだ。

早朝の新潟には、まだ誰もいない。白んだ空、冷えた空気。カラスの鳴き声、そして巨乳。

何もない地方の街。なんて、清々しいのだろう。やはり、東京にいると精神衛生上良くない。いつでもキャバクラに行ける都市・東京。日本人の8割がキャバクラに給料のほとんどを使ってしまうという(※編集部注:アセロラ4000調べ)。

それに比べて、新潟には何もない。あるのは、美味しい食べ物ばかり。寿司、へぎそば、茶豆、そして巨乳。イタリアン、タレかつ丼、生姜ラーメン、そして巨乳……。

ダメだ。思い出すのは嬢のことばかり。嬢は悪くない。悪いのは、生誕祭。全部生誕祭が悪いのだ。

嬢は今頃何をしているだろうか。生誕祭で披露するパラパラの練習だろうか。「NIGHT OF FIRE」に合わせて汗だくで踊る嬢。あまりの激しさに跪く嬢。仕方がない。もうかれこれ12時間近く踊りっぱなしなのだから。

「もう一丁!」

ホイス・グレイシー戦の塩試合後に叫んだ高田延彦のようにつぶやくと、再び立ち上がる。ふと、玉置浩二ばりの私からの熱視線に気付く嬢。

「アセちゃんも、一緒に踊ってほしいな」

私は、すぐにセーラーズのトレーナーを脱ぎ捨て、黒いタイツ一丁になり嬢の元に駆けつける。右手の人差し指を突き立て、激しく左右に振りながらパラパラを踊る私。時折「ナニコラ、タココラ」と口走りながらキャバクラ店内に集まったパリピたちを煽る。嬢生誕祭最大の見せ場。嬢と私は懸命に踊り、フィナーレへ向かって互いを高め合う。

「次で、最後の曲になります!」

ラストナンバーの「ルカルカ★ナイトフィーバー」を踊りきった嬢と私。万雷の拍手に包まれる店内。嬢のラベルが貼られた特注ドンペリを掲げている者もいる。ディズニーランド風にデコレーションされた店の奥で、ボーイたちが涙を拭った。

「よかったらまた遊びにきてください! ありがとうございました!」

涙で言葉につまる嬢に代わり、深々と頭を下げ、オーディエンスに感謝する私。やりきった。そんな充実感に浸りながら顔を上げる。嬢24歳の生誕祭、大成功。

多幸感に包まれる中、ふと、我に返った私。ここは、嬢から遠く離れた街、新潟。キャバクラもない、嬢もいない。レーザーディスクは何者だ。

辺りを見渡すと、野良猫と目が合った。

「にゃあ」

猫が、言った。

〜シーズン2 第5回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第3回

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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