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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回

StoryWriter

都会 裏窓 袋小路 夢を消された他人街。

そう、ここは夢と金が行きかう爆裂都市・新宿歌舞伎町。

私は、ガサガサ声のエトウさんに誘われ、派遣社員で芸人のサカイくんと共に、新たなキャバクラ「ロザーナ」へとやってきた。

「ここですよ、ここ!」

この日のために、大量のマヌカハニーを摂取させたおかげで、見違えるようにクリアボイスへと変貌したエトウさんが指をさしたのは、ゴージャスなレッドカーペットが敷かれ、地下へと続く階段。入口には、歌舞伎町生まれ歌舞伎町育ち、ホストとヤクザはだいたい友だちと言わんばかりの、いかにもな黒服ボーイが立っていた。

「いらっしゃいませ。ご指名はありますか?」

「サキちゃんで!」

食い気味に、愛想を崩しながら8万円をつぎ込んだ嬢の名を告げるエトウさん。その表情は、安定のブサイク。よく見ると、マキバオーにも似ている。

そして、サカイくんは思わずコーラの瓶を投げてみたくなるほど、ブッシュマンのニカウさんに似ている。

私はというと、自称・クロコダイルダンディー。ただし、頭部は温水洋一。

そんな、お正月映画のラインナップのような3人で、階段を降りて行く。

そこに広がっていたのは、まるで宮殿のようなラグジュアリーな空間。廊下を挟んで、左右に大きな部屋がいくつも並んでいた。私は、思わず生唾を飲み込んだ。

ここは、キャバクラじゃ、ない。

いや、正確に言えば、れっきとしたキャバクラであり、むしろ絵に描いたようなお店。しかし、その規模感はこれまで経験した店とは比べものにならない。ここまで巨大なフロアで構築されたキャバクラは、初めてだ。

間違いない。ここ「ロザーナ」は、歌舞伎町ニューウェーブ・キャバクラの頂点。ミスター味っ子でいえば、味将軍が住んでいなくては辻褄が合わないレベルの店なのだ。

周囲を見渡すと、アイドルタレントばりの女の子のポスターがあちこちの壁に貼られている。これは、いったい、なんだ。

「この子が、俺のお気に入りのサキちゃんですよ」

エトウさんがポスターを指さす。

「12月5日サキ生誕祭」と書いてある。生誕祭アピールのために、嬢ごとにポスターが作られているらしい。

「今月、誕生日らしいんだよね。だから、生誕祭でまた来なきゃいけないんすよ、俺」

デレデレ顔のマキバオー。プレゼントは何が良いのか、サカイくんに相談を持ち掛けている。

そんなことは、どうでもいい。私は、「生誕祭」という言葉を耳にしたとたん、頭痛を感じ出した。忘れたはずの、あの忌まわしい過去。

私は、我慢ができず、嬢たちがやってくるより先に、思わずトイレへと駆け込んだ。具合が、悪い。

しばらくトイレでうずくまり、洗面所で顔を洗い、気分を持ち直した私。店に来るなりトイレに行くなど、キャバクラマナーでいえば、愚の骨頂。私は羞恥心に苛まれながらも、店内へと戻ろうと、ゆっくりドアを開けた。

「大丈夫ですか?」

ドアの向こうに、見知らぬ嬢が立っていた。

「具合悪いの? 飲んできたのかな?」

丁寧に、温かいおしぼりを手渡しながら、私のことを気遣う嬢。

茶髪のロングヘア、つぶらな瞳。スレンダーボディ、そして巨乳。

「はじめまして、エリカです」

ギャルっぽい嬢、エリカ。超、カワイイ。

「席に、戻ろっか?」

そう言いながら、腕に手を回すエリカ。うなじから漂う、甘い香水の匂い。

師走の新宿歌舞伎町・午後10時半。

私は、一瞬で、恋に落ちた。

〜シーズン3 第6回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回

アセロラ4000「嬢と私」まとめページはこちら

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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