「生誕祭、やぱ、やめた」
ついさっき、嬢から届いたLINE。
遠く離れた新潟で、妄想から覚めた私は、我が目を疑った。
「やぱ、やめた」
あれだけ悩んでいたのに。「やぱ、やめた」の一言で片付ける嬢。
おそらく、集客の不安を解消できず、開催を見送ったのであろう。ある意味、気の毒な嬢。私は、ふと、思った。
もしかして、嬢って人気ないのかしら?
そもそも、嬢はなぜここまで私にZOKKON 命(ゾッコン・ラブ)なのだろう。自分でも疑問に思うようになってきた。シブがき隊でいえば、私などフッくんなのに。
もしかしたら、嬢は私以外にデートする相手(同伴客)がいないのだろうか。いや、いまい。もしや、これまで素敵な男性に出会ったことがないのかもしれない。
そんな嬢にとって、私との出会いは衝撃的だったはず。きっと、理想の男性像を私に見たのだろう。優しく、紳士的な物腰。軽妙な語り口、そして巨乳。
いや、違う。私は巨乳ではない。
しかし、嬢にとって私が魅力的に映っていることは間違いない。そうでなければ、いちキャバクラ嬢が、ここまでデート(同伴)を繰り返すことなどおかしい。
「閃いた!」
私は、初代あばれはっちゃくと同じテンションで叫んだ。
そうか。もっと自信を持っていいのだ。つまり、
「アセロラ4000、嬢以外にもモテる説」
俄然、勇気りんりんとなった夜のアンパンマンこと私は、その仮説を証明すべく、新潟の繁華街へと繰り出した。
都会のキャバクラで鍛えられた私のトークの前に、次々と新しい新潟嬢が現れては、交代して行く。入店して、2時間経過。
意外と、モテない。
ダメだ。こんな田舎のキャバクラ嬢にうつつを抜かしていてはダメだ。やはり検証は、キャバクラの聖地・東京でおこなうべきだった。成人女性の2人に1人がキャバクラ嬢だといわれる(※アセロラ4000調べ)都市・東京。そこでこそ、私のモテ説は立証されるのだ。思い立ったが吉日。私は帰京すべく店を出た。
お会計は、28,000円。意外と、高い。
これでは、東京で新たなキャバクラに行くことができない。地方キャバクラで羽目を外しすぎた罰が私にのしかかる。
まあ、いい。嬢生誕祭は中止になったのだから。しばらくは、嬢の店に行くこともあるまい。その間にお金を貯めれば良いのだ。安堵する私に、嬢から再びLINEが届いた。
「アセちゃ~ん!またものもらいになっちゃった!」
無邪気にそんな報告をしてきた嬢。大丈夫か、嬢。踏んだり蹴ったりな、嬢。少し、本気で気の毒に思えてきた。慰めの言葉をかけるべく思案していた私は、次の瞬間、戦慄した。
「誕生日に会ったとき、アイパッチしてたら笑ってね」
嬢は、あきらめていなかった。生誕祭は中止。しかし、私が誕生日に店に行く約束は、嬢の中で生きていたのだ。
困った。
プレゼントを買うどころか、店に行くお金すら、まったくない。新潟のキャバクラですっからかんになってしまったのだから。嬢の誕生日は、明後日。時間が、ない。
私は、とっさにこう返信した。
「ごめん、身内の不幸で、行けなくなりました」
最低な、嘘。
送信した瞬間、私はすでに後悔していた。
〜シーズン2 第5回へ続く〜
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第3回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第4回
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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