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StoryWriter

嬢の誕生日を逃れ、嘘をつき、挙句の果てに3度、嬢をふった(LINEブロック)私。

それからの私は、またしても日々の派遣業務をこなす、平々凡々とした暮らしに戻っていた。

ことあるごとに思い出す、キャバクラ通いの日々。

嬢とのデート(同伴)を経て、意気揚々と店を訪れると、ボーイが「いらっしゃいませ!」と階段を降りながら案内してくれた。

店内に入ると、別のボーイが駆け寄り、膝まづいておしぼりを渡してくれた。

そして、うやうやしくこう言う。

「アセロラさま、お待ちしておりました」。

今、日々の暮らしで私を待っている者は誰もいない。せいぜい、夕方に帰宅したときに電柱に止まっているカラスくらいだろう。私と同様に、さみしげな、カラス。

「おーい、カラスよー おまえもひとりぼっちなのかーい?」

大きな声を出してみる。

カラスは去り、おまわりさんがやってきた。職業と名前を訊かれる私。

「アセロラ4000、40代の派遣社員です」

そう、キャバクラを引退し、嬢をふってしまった今の私は、ただの派遣おじさん。

派遣おじさんだから、派遣おじさん。

「変なおじさん」のメロディに合わせて、前後に腕を振り、拳を合わせる私。徐々に熱を帯び加速するパフォーマンス。騒ぎを聞きつけ再び現れるおまわりさん。逃げる私。

そのとき、めったに鳴らない私のスマホが福音を奏でた。

LINEに1件のメッセージが届いたのだ。

「アセちゃ~ん! あたしだよ!」

私は、目を疑った。確かにブロックしたはずの、嬢のLINEアカウント。電話も着信拒否している。嬢へと繋がるあらゆるライフラインを断ったはずなのに。

ふと見ると、まったく見知らぬアカウントだった。

嬢は、パソコン用にもう1つのLINEアカウントを作成していたのだ。そんな裏技、ありか。

「あたしのこと、嫌いになったー?」

けなげに、別アカウントまで駆使して私への恋心(営業)を断ち切れないでいた嬢。嫌いになんか、なれるわけない。私は、事情があり連絡をしなかったこと、嬢の目の前から姿を消したことを詫びた。

嬢は、怒っていないのだろうか。

「怒ってるわけないよ! 色々あるよね!」

なんて、優しい嬢。やはり、私が一度は嫁に迎えても良いと見初めた女性だけのことはある。

いや、ダメだ。そんな上から目線はよそう。なぜなら、友だちも恋人もいない私にとって、嬢が唯一の生きる糧なのだから。

「一番大切なことは、目に見えない」

今まで、私には見えていなかったのだ。いかに嬢が大切な存在だったのかが。

そんな私に、嬢からダメ押しのメッセージが送られてきた。

「あたしは、いつだって、アセちゃんの味方だよ」

私は泣いた、泣いた、ただ泣いた(アセロラ4000・談)。

嬢よ、なぜそこまでこんな私を愛してくれるのか。優しく、明るい性格。色白美人、そして巨乳。これ以上、何を望もう。

そうだ、私は、派遣おじさんなどではない。慎ましく平凡な毎日など、くそくらえだ。

私は、キャバクラを舞台に生きるグレイテスト・キャバクラ・ショーマン。いや、違う。もはや、私は人間ですらない。

「私は人間をやめるぞ! 嬢──ッ!!」

私は、私自身が、キャバクラになったのだ。

〜シーズン2 第8回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第3回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第4回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第5回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第6回

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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