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台湾の実験音楽的バンド落差草原WWWW 来日公演「どんな文化にも、きっとどこかで触れたことがあって」

StoryWriter

上段左より、一之(イージー/Dr,Program)唯祥(ウェイシャン / Gt.Vo.etc)洪御(ホンユー/Gt.) 下段左より、愛波(アイボー/Ba.Vo.etc)小白(シャオバイ/Dr)

2019年7月、男女混成の5人から成る台湾のバンド落差草原WWWWが日本にやって来た。実験的であり、サイケデリックでもあり、台湾の民族音楽の要素も取り入れた唯一無二のサウンドを出すバンドである。日本に住む我々には馴染みの薄いサウンド、だが、それゆえに興味を惹かれてしまうバンドである。そんな彼らが、国内外からの評価を集めるアルバム『盤 / Pán』の日本盤を今年6月12日にリリースした。それを記念して、7月9日に青山・月見ル君想フ、10日に渋谷WWWにて日本での来日公演を行った。どんな会場でも自分たちの世界を作り出し、観衆が目を離せなくなってしまう。そんな彼らの独創性と魅力について、インタビューと、青山・月見ル君想フでのライヴレポをお送りする。

取材・翻訳&文:エビナコウヘイ


落差草原WWWWライヴレポ@青山・月見ル君想フ

落差草原WWWW が7月9日(火)、東京都は南青山にあるライヴハウス月見ル君想フにて〈落差草原WWWW 「盤 / Pán」 release party〉と銘打った日本公演を行った。対バン相手は、京都出身のエレクトロニック・ミュージック・ユニット、Sawa Angstromである。

最初にステージに上がったのは、Sawa Angstrom。ステージのVJは、ゲストとして井上理緒奈が担当した。真っ白な衣装に身を包んだメンバーがステージに上がり、シンセサイザーとサンプラーをベースにエレクトロニック・ミュージック・サウンドを繰り広げる。先日リリースした2nd EP『OF FOOD』のリード曲「Sweet Impact」や「Thunderbolt」などを披露。「Thunderbolt」のゆったりとしたテンポのエレクトロに身体を揺らして楽しむ会場。「Sweet Impact」は、インドネシアの民族音楽ガムランのようなサウンドとエレクトロを融合させたようなサウンドの相性が際立ち、会場を心地良くまどろませていった。

舞台の転換が終わると、落差草原WWWWのメンバーがステージに登場。

昨年リリースの最新アルバム『盤 / Pán』収録の1曲目「雨連結天與地的通道」からライヴはスタート。ベースとドラムの重々しいフレーズで、念仏のような低く唸るような歌い方、ギターのボリューム奏法を多用して儀式的な雰囲気を醸し出す。怪しくも神々しさのある落差草原WWWWの世界観を作り上げた。曲が終わると水流の音が聴こえ始め、各パートが大自然の音を再現し始めた「碎花星辰」へ。愛波(以下:アイボー Ba,Vo)の鳴らす鍵盤ハーモニカの音色が、さらに部族的な雰囲気を作り始める。「台湾という島で繁栄する生命の記録」という彼らのテーマを体現するように、唯祥(以下:ウェイシャン / Vo. Gt Synth)が〈我聽過 我看過(訳:私は聴いた、私は見た)〉と何度も繰り返して原生の大自然の情景を歌う様子は、舞台上のVJと相まってアミニズムな世界観を感じさせた。「碎花星辰」、「符號學」の両曲では、愛波(アイボー / Ba,Vo,etc)は鈴、鍵盤ハーモニカ、たて笛など様々な楽器を持ち替えて原始的な自然界、民族儀式の世界観を作り出していき、会場は神妙な雰囲気でありながらも、食い入るようにその世界観に身を投じていった。

続く「觀星」、「灰色的人」では一転して激情パートへ。赤の照明がステージを照らし、フロントマンの弦楽器隊は歪んだサウンドをかき鳴らすが、ドラムのタムを中心としたフレーズが部族的なサウンドのせいか自然界の激情を想起させる。「灰色的人」では、唯祥のエフェクトの掛かったボーカルが〈把心打開(訳:心をひらけ)〉と何度も繰り返し唱え、リバーブのかかった木魚のようなサウンドのタムで、重さのある余韻をどこまでも残した。

愛波が英語で簡単な挨拶を済ませると、「高梁」、「遊」がスタート。亜熱帯と熱帯の境目にある台湾らしい、オリエンタルな民族の祭儀を想起させるミドルテンポな楽曲で、踊るようにリズムにのる唯祥が印象的であった。終盤にかけて、その神聖な雰囲気はどんどん増していき、マラカス、たて笛など様々な楽器の音色と、巨大な石が回るVJが不思議な世界観を究極化させていく落差草原WWWW。〈想像我是一隻鳥(自分を鳥だと想像する)〉と何度も囁き、徐々に過激さを増していく「眼林」を最後に披露し、激しく乱れる照明と共にヒートアップさせたところでライヴは終了した。


インタヴュー:どんな文化にも馴染むことができると思っていて。

──昨日7月9日の月見ル君想フでのライヴも観させていただいたんですけど、皆さんから見て昨晩のライヴはどうでした?

小白(以下:シャオバイ):僕はすごく良かったと思います。落差草原WWWWの楽曲は曲の終わりが分かりにくい部分もあるので、お客さんもいつ終わったのかわからなかったのかもしれないですけど、落ち着いて観てくれている感じがしました。以前やった時は演奏が終わった後に拍手とか反応とかあったんですけど、昨日のお客さんはあまり状況が分かってなかったのかもしれなくて。それも含めて面白かったです。

一之(以下:イージー):僕もほとんど一緒ですね、多少のミスはあったけど良かったと思います。

シャオバイ:昨夜のライヴは80点くらいかなあ。多少のミスはあったけど補うことはできたからオッケーですね。

──前にも月見ルでライヴをしたことがありますよね。前回と違う感覚はありました?

イージー:2017年に初めて日本でライヴをしたんですけど、1日目は月見ル君想フで落日飛車(Sunset rollercoaster)と対バンをしました。お客さんも多くてとても緊張したし、機材のセッティングがうまくいかなかったらどうしようという心配もありました(笑)。次の日は〈フジロック〉に出演したんですけど、めっちゃ疲れましたね(笑)。午前3時の出番だったし、たくさん雨も降っていたので、終わってやっと一息つけました。

──落差草原のライヴって、アンビエントで実験的な楽曲も多いから、夜中の時間にすごく雰囲気が出そうですけどね。僕自身、皆さんのステージングや照明、VJも落差草原WWWWの世界観を作り上げる上で重要な要素だと思うんですけど、こだわりとかあるんですか?

イージー:NAXSという映像専門のグループの人と一緒にVJを作っているんです。台湾の音声芸術の人とも協力して、ヨーロッパなど各地のツアーも一緒に回って活躍している人たちで。VJの一部には僕らのMVや、アルバムの中のビジュアルの素材なんかも使われていますね。彼らと話し合って使う素材を集めたりして一緒に作り上げている感じです。

──皆さんの楽曲ってオリエンタルな民謡要素なんかも感じられてかなり特徴がありますよね。なかなか日本人には作れないんじゃないかって思うんですけど。

イージー:そんな事ないと思いますよ(笑)。日本人には日本人の表現方法があると思いますし、なんならそれぞれ民族性が違うじゃないですか。日本にこういう音楽に馴染みがないって言っていたけど、日本には僕らの作れないものがあるでしょう。だって文化の違いがあるから。

──台湾では、たくさんの先住民がいてそれぞれの文化があったり、台湾語や中国語もあったり、その他各民族の言語もあったりと多文化社会ですよね。

イージー:歴史上ではオランダやスペイン、日本による植民地化もあったし、中国との問題もあるし古来の先住民族もいる、台湾の文化って実は複雑なんです。でも、このように様々な文化の影響を受けてきたがために、どんな文化にもどこかで触れたことがあって抵抗なく馴染むことができるっていうことが特徴だと思っていて。僕たちの音楽の核心もこれに関係していると思います。先住民らしい雰囲気を感じられる楽曲もあると思うけど、実はメンバーの中には先住民族出身の人はいない。遠い先祖で血が混ざっていたりすることもあるかもしれないけど。

──それらが皆さんの音楽性に影響を与えていると思います?

イージー:宮廟なんかの宗教文化の習俗の影響とか、インスピレーションが僕らの楽曲にはあるかもしれません。だから、僕たちの楽曲は特別な部分があるのかもしれない。曲ってそういったものが総合的に含まれているものですから。でも、そういう風に曲を作る人は確かに少ないかもしれません。他の人たちは曲を作るときにもうジャンルが決まっていたりすると思うけど、僕らは自分たちの好きな文化を融合させています。もし文化を模倣して作ろうものなら、きっと変な感じになるかもしれないですよね。勢いのある主流なスタイルに近寄っていってしまう。でもちゃんと意識している人は、オリジナルと流行りをミックスさせて自分のものにして、そこから広げていく事ができますよ。僕らだって流行りのものに触れたりするし。台湾にはこういう事をやっていけるエネルギーがあるし、それを続けて融合していけるんじゃないかと思います。

──皆さんは元々落差草原WWWWでやっているような音楽が好きだったんですか? それともバンドに参加していく中で独特なスタイルを追求していったんでしょうか?

シャオバイ:元々こういう音楽が好きだったし、各々の好きな実験音楽をお互い受容していった結果だと思います。バンドを組み始めて、各々の好きなものを詰め込んでいった感じです。

イージー:バンドを始めた時、求めているサウンドが台湾には無かったので、自分たちで作り上げてきました。でも最初の頃は、自分たちの作っている音楽がどんなものか分からなくて、西洋、日本など世界中の好きなバンドがいて、自分たちもそういうのを作りたいと思っていました。始めた当初は楽しくて、彼らみたいな音楽がカッコいいなあって思っていたけど、だんだん彼らのカバーだけではなくて、自分たちの文化や好み、考え方を盛り込んでいって自分たちの新たな音楽にしていったんです。自分たちの音楽がどうなっていくのか分からなかったけど、10年近くも活動していると、だんだんと方向性が明確になってきました。自分たちの特徴とか何が得意かって言うのが分かってきたし。

これからも”交流”を続けていきたい

──今後、バンドとして何かやってみたいこと、目標はありますか?

シャオバイ:台湾やアジアだけでなく、我々が行ったことがない地域の人にも作品を届けたいですね。自分たちの曲を聴いてもらってどんな感想を持つか聞いてみたい。僕らの歌っている内容が分からないから、感覚的に理解するしかないってすごく面白いじゃないですか。

イージー:交流だよね。

シャオバイ:そう。感想も聞きたいし、僕らも色々なことをお客さんとも共有していきたい。

イージー:リアルな話をしてしまうと、バンドで飯を食えるようにしたくて。でもそんなに簡単なことではないし、僕らの曲風ってちょっと特殊ではあるから。活動を続けていくことが大事だし、もっと作品をリリースしていきたいです。僕らの好きなものや自分の中にあるものを押し広げていく、つまり心から作りたいものを作り出していくことが一番大事なことです。そして、各国のファンと交流していきたいし、バンドとしても安定できるようにしていきたいですね。後はジャンルを超えてコラボしていきたいです。自分たちと異なるタイプの芸術家達、音楽以外のジャンルでもいいのでクロスオーバーしていきたいですね。普通のバンドらしくないかもしれないけど、そういうのはやっていきたいと思っています。

アイボー:後は次の音源リリースにも楽しみですね、昨年ホンユーがバンドに参加してくれたのでもっと新しいことができると思います。次の作品も少しづつ制作中です。

イージー:メンバーはバンドでの音楽活動以外にも仕事をしていて、得意なことややっていることも違うけど、それを続けていって皆でバンドの肥やしにしていきたい。本当に音楽だけで食べていけるバンドも台湾にはいるので。

洪御(以下:ホンユー):僕らは今、音楽をやるために普段仕事をしているんですけど、音楽だけで飯を食っていきたいですね。

ウェイシャン:僕もほとんど一緒ですね。

──今晩のライヴへの意気込みをお聞かせください。

アイボー:とても楽しみです。渋谷WWWは、僕らのバンド名と一緒で「W」が多くてかっこいいし。以前、forestsもここでライヴをしていて、ボーカルのJONもここは良いハコだと言っていたのでとても楽しみです。

イージー:音もいいしね。

シャオバイ:Elephant Gymとか色々な台湾のバンドが渋谷WWWを「演者としてもお客さんとして来ても音がすごく良い」って勧めていたので楽しみですね、対バン相手のBLACK BoboiとかDJのsuiminも楽しみです。

イージー:対バンも交流だしね。

ウェイシャン:今日が今回のアルバムリリースツアーのファイナルなんです。1年くらいかけて中国、ヨーロッパ、そして日本へとツアーを回って来て。色々な物事を見聞きしてきて、音楽関連の産業や創作についても、各国の色々な人たち、風景なんかもとても素晴らしかった。そして今夜もここ渋谷WWWでしっかり演奏していきたいと思っています。今は何も考えずに、今夜のライヴを楽しみたいと思っています。

ホンユー:僕たちの作品を皆さんに気に入ってもらえると嬉しいです。先ほどVJの話もしましたが、Tシャツやトートバッグのデザインなんかも僕らの作品なのでそこも注目してもらいたいですね。


こうして7月10日の渋谷WWWでの公演に向かった落差草原WWWW。

前日の月見ル君想フでは披露されなかった2016年リリースのEP『霧海』収録リード曲「霧海」も披露するなど、これまでの落差草原WWWWの総集となるセットリストでライヴを行った。より大きな会場で、妖しくもエネルギッシュな雰囲気を存分に発揮した彼らのライヴで、渋谷WWW公演は幕を下ろした。


今回、〈落差草原WWWW「盤 / Pán」 release party〉として2度目の来日公演を完遂した彼ら。本アルバム『盤 / Pán』は「落差草原WWWW結成8年以来の生命の累積を支える」作品であるとのことだが、それを確かに体感させられた、自然や生命の力を溢れさせるステージであった。インタビュー中、何度も中国語で「交流」という言葉を使った彼らだが、今後も様々な物事と交流していった先に彼らが体現する音楽に、期待が高まる来日公演であった。

〈落差草原WWWW 「盤 / Pán」 release party〉

2019年7月9日(火)青山 月見ル君想フ

セットリスト

  1. 雨連結天與地的通道
  2. 碎花星辰
  3. 符號學
  4. 觀星
  5. 灰色的人
  6. 高粱
  7. 慈悲
  8. 眼林

落差草原WWWW / Prairie WWWW

2010年に台北に結成された5人組バンド。エクスペリメンタル、フォークを軸に、アンピエントや台湾民謡、ポエトリーといった要素が混合されたサウンドを追求している。2016年には<Liverpool International Festival Of Psychedelia>に出演し、2017年にスペイン最大のフェス<Primavera Sound>に招聘され、同年には日本でもFUJI ROCKのルーキーステージにも出演するなど、世界で注目を集めているバンド。

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