最初に、熱心な読者のみなさまに謝らなくてはいけない。
『嬢と私』コロナ時代編では、時代の寵児たる「オンラインキャバクラ」について、その全貌を明らかにすべく、私アセロラ4000が水先案内人となって体験して行くことが本来の趣旨であった。
オンラインキャバクラという未知の大陸を目指し漕ぎだした船・ドリームアセロラ号。船主に立つキャバクラ界の未来少年コナンこと私の背後には、たくさんの乗組員(キャバクラウォーカー)たちの熱い視線が注がれているに違いない。実際に、私は着々とオンラインキャバクラの扉を開くために準備を始めていた。それは嘘偽りない事実であり、信じてほしい。
しかし今、港を出た船は、当初の航海とはまったく違う方向へと舵を切らざるを得なくなってしまった。その理由を今からお伝えするので、紳士・淑女のみなさまは、どうかご理解いただきたい。
あ…… ありのまま今起こったことを、話そう。
その日の午後、私は寝転がり、スマホで「あばれはっちゃく(初代)」を鑑賞しながらまどろんでいた。物語が急展開を見せ、事件を解決すべくはっちゃくこと桜間長太郎が逆立ちをはじめたそのとき。突如、私のスマホにショートメールが届いた。
「はろー! げんきにしてたー?」
私はすぐに起き上がり、画面を凝視した。なぜだろう、不思議なことに私は一瞬にして、それが初代嬢からのメッセージであることを理解した。そして、すぐに私は元気である旨を返信した。
「いろいろあって、けいたいぜんぶきえちゃったよー」
いろいろとは、いったい何があったのだろうか。いや、今それを訊くのは野暮というものだ。今はむしろ、携帯電話の脆弱性に注意喚起を行う必要がある。そして初代嬢は、このコロナ禍の中、元気にしているのだろうか。
「げんきだよー」
初代嬢の携帯は、ひらがなしか打つことができなくなっているのかもしれない。それはそうと、なぜいま、初代嬢は私のもとに帰ってきたのか。突然のできごとに、動揺し戸惑いを隠せない、私。
「らいんおしえてー!」
深夜4時のR指定のラップのように、次々と言葉を畳みかけてくる初代嬢。疑問を挟む余地など、与えてくれない。
私は、若干の警戒心を持ちつつも、開始30秒ですっかり初代嬢のペースに引き込まれて行った。今や、ドリームアセロラ号の舵を執る船長は初代嬢。面舵いっぱいに、私をキャバクラという大海原へと誘っていく。
そう、これだ、この感覚だ。
私は、自分の中で何かがスパークするのを感じた。この2年間、すっかり見失っていたキャバクラ人としての矜持。嬢の、嬢による、嬢のための私でなければ、私に生きている価値など無いに等しい。そう、私は今、初代嬢により激しく精神を揺さぶられる中で、自分自身のアイデンティティを取り戻し、新しい生命が吹き込まれていくのを感じていた。
ただ、ひとつ。確認しておかねばならないことがある。全私が泣いたあのお別れから約2年。初代嬢は、はたして今も“嬢”なのだろうか。
「そだよー! みせにいるよ~さいきん、ふっきしたてきなかんじ」
ポジティブな性格、強引なアプローチ。溌溂としたお喋り、そして巨乳。
初代嬢は今も、嬢のままだった。
私はそれを知り、大いなる喜びに沸いた。と同時に、ほんの少しの恐怖に、鳥肌が、立った。
アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編は不定期更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000