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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン5 コロナ時代編 第10回

StoryWriter

6月某日、新宿のヤマダ電機店内。

私は、初代嬢を待っていた。

「はろ~! 今日、何時にアレ買いに行く?」

約2年ぶりとなるデート(同伴)当日。胸のドキドキと緊張を隠せないまま朝を迎えた私に、LINEが届いた。アレとは、初代嬢が愛用していた小型マッサージ器のこと。壊れてしまい悲しみに暮れていた初代嬢のため、私が新品を買ってあげることにしたのだ。

「どこにあるかな? ドンキとか?」

欲しいものは、だいたいドン・キホーテにある。そうした思想を持ちがちな、嬢たちの世界。ドンキといえば嬢、コストコといえば北斗晶。それぐらい、世の嬢たちとドンキの親和性は高い。新宿には歌舞伎町に大きなドンキがある。初代嬢が望むなら、そこで待ち合わせするのが一番かもしれない。

しかし、聖地・歌舞伎町のドンキとなると、初代嬢にボーナスポイントが付きすぎる。歌舞伎町×ドンキ×初代嬢が新宿に創り出すバミューダトライアングル。そこに敷かれた魔法陣に入ってしまえば、強大な物欲を発揮する初代嬢の前に、私は成す術もないだろう。きっと、小型マッサージ器の購入だけでは済まないはず。私は、目を閉じて想像する。

「ほかにも、ほしいもの、あるんだよね」

ドンキ店内に入ると同時にキノコを得たマリオのようにますます巨大化する嬢の物欲。「蒲焼きさん太郎60袋入り」「スッパイマン柿ピー一番」等、余計なものを次々と商品をかごに入れて行く。さらにレジ前で焼きいもまで買う始末。私の財布からどんどんお札が吐き出されて行く……

ダメだ、ダメだダメだダメだ。翻弄されてしまっては、ダメだ。

キャバクラとは、底が丸見えの底なし沼。毅然たる態度で接しなくては、ズブズブと足を取られ、沈んでしまう。私は、一度その沼に落ちた男。しかし、2年前とは、違うのだ。私は、強い意志でドンキ行きを断ると、初代嬢にヤマダ電機での待ち合わせを進言した。

「じゃあいいよ、ヤマダ電機で」

あっさり、引き下がる初代嬢。キャバクラウォーカーは紳士たれ。どんなときでも理性と品位を持った行動を心掛けたいという私のモットーが実を結んだようだ。

そして私は今、初代嬢を待っている。

待ち合わせの17時を過ぎてからかれこれ30分。しびれを切らせた私が、4階の健康器具売り場で小型マッサージ器を見つけたとき、同時に初代嬢が姿を現した。

「おつ~ひさしぶり~」

2年振りに再会した初代嬢の姿に、私は息を飲んだ。

「アセちゃん、元気だった?」

セミロングの黒髪、長いまつげ。茶色い瞳、そして巨乳。

なんて、いい女、なんだ。

「あ、これあったんだ? ありがとう~」

小型マッサージ器を私に持たせたまま、店内を見渡す初代嬢。シャツから覗いた鎖骨が艶めかしく私を誘惑する。

「ほかにも、ほしいもの、あるんだよね」

気がつけば私は、魔法陣の中に、いた。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

アセロラ4000「嬢と私」とは? まとめはこちらから

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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