「タピオカー、タピオカー、タピオカ飲みたい、タピオカー!」
狂った九官鳥のように、大きな声で叫び出した初代嬢。
ここは、東京都内きっての歓楽街・新宿歌舞伎町。タイガーマスクの姿で新聞配達をしているおじさんが普通に目の前を横切っていく不思議な街。そんな街中にあっても、初代嬢の魂のスクリームは注目を集める。浅間山荘から拡声器でアジテーションするかのごとくタピオカを要求する初代嬢。甲高い奇声に道行く人々が振り返る。
肩の出たニット、ピンクのバッグ。ミニスカート、そして巨乳。
その姿に、誰もが魅了されてしまうのがわかる。私は、そんな初代嬢を従えて歩いているプライドを胸に、タピオカミルクティーが飲める店へと急いだ。
「タピオカミルクティー」650円。こんな軽薄な飲み物が、何故こんなにも高いのか。当然のように私に支払いを任せて、グビグビと美味しそうにストローに吸い付く初代嬢。タピオカに支配された国・日本。私はこの国の行く末を憂い、ただ空を見上げ、初代嬢がタピオカミルクティーを飲み終わるのを待っていた。そのとき。
「アセちゃん、いる?」
初代嬢から差し出された、緑色のストロー。先端についた真っ赤なリップが艶めかしい。
「飲んで、いいよ」
私にタピオカミルクティーを勧める初代嬢。なんということだ。これまで頑なに肉体的接触を避けてきた私たちの関係が、今変わろうとしている。これまで私たちが公式に接触したのは、キャバクラ店内において初代嬢の右手が私の左太ももに置かれたわずか5秒。その記録が、今破られようとしているのだ。
おそるおそる、ストローに口を近づける私。初代嬢は、口を半開きにしてこちらを見ている。意識しているのだろうか。いや、意識していないなんてことがあるだろうか。今、ストローを介して我々は接吻を交わそうとしているのだから。
「はやく、飲めば?」
私の焦らし作戦にしびれを切らした初代嬢。なんて、かわいいんだ。女性の方から、求めてくるなんて。初代嬢に、恥をかかせるな。私の中の開高健が叫んでいる。そう、ホットドッグプレスで得た知識がついに発揮されるときがきたのだ。
私は思い切って、ストローを口にした。接吻時に目を瞑るタイプの私は、目を閉じ、しばしうっとりと、初代嬢との甘美な瞬間を堪能する。脳内再生される、オリジナル・ラブ「接吻」。なんて、良い曲なんだ。私の脳内プレイリストは、Negicco「サンシャイン日本海」へと曲をつなぐ。なんて、良い曲なんだ。
そして、一気に液体を吸い上げる。その瞬間、私は目を見開いた。なんて、美味い飲み物なんだ。
「美味しい?」
私は、初代嬢を見た。なんて、かわいいんだ。もしかしたら全盛期の宮崎美子ぐらい、かわいいかもしれない。いまのキミはピカピカに光っているなんてもんじゃない。
やっぱり、猫が好き。いや、違う。やっぱり、私は初代嬢が好きだ。どんなにお金を使っても、好きなんだ。
そんな初代嬢が勧めてくれたタピオカミルクティー。美味い、うまスギちゃんだ。私は、明日からタピオカミルクティーを水筒に入れて派遣先の職場に行くことに決めた。
「ねえ、そろそろごはん行く時間じゃない?」
初代嬢が、私にエスコートを促す。そう、今日のデート(同伴)のメインは「寿司」。私は、初代嬢との時間を過ごすため、最高レベルの店を予約していた。もちろん、完全個室。
「お寿司! お寿司! お腹空いた~! おっすっし!」
再び、狂った九官鳥のごとく叫び出す初代嬢。私は、タピオカミルクティーで濡れた唇を拭い、寿司屋へと初代嬢を案内した。
アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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