watch more

【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン5 コロナ時代編 第25回

StoryWriter

コツコツコツ…… 階段を降りてくる冷たい足音が聴こえてくる。ヒールのかかとをコンクリートに打ち付けながら、誰かがやってきた。

それが誰でも、私には構わない。なぜならば、私にとっては、ここに来るすべての人は上司であり、お客様なのだから。

私は今、ガールズバー「ジューシー」のボーイとして働いている。

午後6時、誰よりも早く出勤した私は、午後8時の開店に向けて、準備をしている。ドアが開き、誰かが店内に入ってきた。私は、段ボールからスミノフを取り出す作業の手を止めて、顔を上げ、笑顔を作り挨拶する。

「あ、おはよう~、アセちゃん、だっけ?」

やってきたのは、この店の最古参、31歳のガールズ、ひなこさんだった。大阪出身のひなこさんは、先日31歳のバースデーを迎えたことを機に、「私のことは今後、掛布ちゃんと呼ぶように」と店のガールズたちに宣言していた。ノーリアクションのガールズたちに対して、人差し指を額に当てるアクションで横山やすしばりに怒りを露にする掛布ちゃんことひなこさん。

中肉中背、おかっぱヘア。大きな口、そして巨乳。

関西色が強すぎるが故、ガールズから浮いている、掛布ちゃん。私は、ただ一人の理解者として、早めに店を開け、週5回シフトに入っている掛布ちゃんの出勤を迎え入れることで1日を始めるのだ。

私は被っていたベースボールキャップを脱ぎ、礼儀正しく一礼した。ハラリ、と申し訳程度に前頭部に残った私の毛髪が揺れた。

「いや、禿げとるやないか」

すかさず突っ込む、掛布ちゃん。ふと、悲しい顔を私が見せてしまったからだろうか。必死にフォローしようと、次の言葉を探す掛布ちゃん。

「ダッダーン、ボヨヨンボヨヨン」

そう言いながら、控室へと消えていく、掛布ちゃん。私は、嬉しかった。31歳の掛布ちゃんが、私の世代の流行語を使ってくれるなんて。もしかしたら、掛布ちゃんは年齢をごまかしている可能性も否定はできない。ただ、それでもいい。その心意気にほだされて、私は少しずつ、掛布ちゃんのことを好きになりそうな自分に気が付き、はにかんだ。

そんな掛布ちゃんにも、馴染みの客が付いていた。パチンコ店で働いているタキさんだ。タキさんは、パチンコ店で働いた金をすべて別のパチンコ店で使ってしまうことで知られていた。そんなタキさんでも「ジューシー」に来る金はなぜかしっかり取ってあるようで、週5で店に通っていた。もちろん、お目当ては週5回出勤している掛布ちゃん。

タキさんは掛布ちゃんにぞっこんラブのようだ。ただし、毎回来るたびに掛布ちゃんの前のカウンターに腰掛けるものの、ひと言もしゃべらずに帰っていく。「居酒屋兆治」や「駅 STATION」の健さんでも、もう少ししゃべるのに。タキさんはしゃべれないというわけではない。あるとき、店内についていたテレビを見て「あ、ベッキーだ」とつぶやいたのを聞いたガールズがいるのだから。

寡黙に、一途に、不器用に。私は、そんなタキさんのことを、いつからか心の中で「師匠」と呼ぶようになっていた。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

アセロラ4000「嬢と私」とは? まとめはこちらから

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

PICK UP