【連載】アセロラ4000「嬢と私」第10回

嬢と別れた私(LINEブロック)。喪失感の中で、ふと、ある女性を思い出していた。

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10年ほど前、冴えない毎日を送っていた私。むしゃくしゃしたことがあったのだろう、街に繰り出し、パーっと酒でも飲もうとキャバクラへと向かった。

とある街の繁華街。なにげなく入ってみた店。かなり若い女の子たちが数人、「いらっしゃいませ~!」と迎えてくれた。そこで、私にとって忘れられない女性との出会いがあった。

私が席につくと、1人の女性がやってきた。名前は、ミサキちゃん。隣に座るスペースを空けてお出迎えする私。しかし、なぜかテーブルを挟んだ向かい側に座るミサキちゃん。どうして隣に座らないのだろうか。私は、隣に座ることを促した。すると彼女はこう言った。

「ここ、キャバクラじゃないよ~」

そうなのか。ここは、キャバクラではない。では、なんなのか。キャバクラ以外に女性と話せる空間などこの世に存在するのか。

「ここ、ガールズバーだかんね」

そう、ガールズバー。当時はまだ今ほど市民権を得ていなかった新手の接客業。ガールズバーは対面接客が基本。営業許可形態がキャバクラと違うため、隣に座って接客するのはNGなのだ。よく見れば店内はカウンター席が多く、ほとんどの客はカウンター越しにガールズと話している。

さらに、キャバクラ嬢のようにドレスアップもしていない。ミサキちゃんも、スリムなブラックジーンズにセーター姿というカジュアルさ。だが、それがいい。

「いいもんだねえ、ガールズバー」

私は中尾彬ばりに頬に右手を当てながら悦に入った。しかも、60分3,000円という低価格。ただし、女性にドリンクを飲ませると1,000円くらいかかるというシステムだけは、キャバクライズムを継承しているようだ。私は、ミサキちゃんがビールを飲むことに同意して、ガールズバー・デビューの祝杯を上げた。

終始タメ口で接客するミサキちゃん。ハキハキした口調の、結構強気な感じの女の子。嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ。キリっとした瞳、キュートな小顔。キュッと結ばれた口元、そして美脚。私の好みのすべてを網羅したガール、ミサキちゃん。

私は延長を決めた。

2時間飲んで、ドリンク代を入れても12,000円程度。キャバクラならば、その倍はかかるだろう。その日から私は、彼女に青春のすべてをささげることにした。

当時はまだ、LINEなどなかった時代。ミサキちゃんからは、ショートメールで「今日、出勤するよ~」と連絡がきた。私は、ミサキちゃん目当てに足繁く店に通った。ただし、そこには1つ問題があった。

じつは、ガールズバーにおいては指名という制度が設けられていないのだ。ガールの独占を禁ずる、殺生な制度。この店にいる客は、すべて平等。私たちは、宇宙船ミサキ号の乗組員。運命共同体なのだ。色んな客に声をかけていたのだろう、自分で呼び出しておきながら、客被りが発生しており、なかなか私の元にやってこないこともあった。

対角線上で、小汚い親父を相手に接客しているミサキちゃん。その姿を遠くから見つめながら、目の前にいる“ブタ界一の美女”が放つマシンガントークに付き合わされる屈辱。結局、1時間経ってもミサキちゃんがこないときすらあったが、ここはキャバクラではない。仕方ないことなのだ。

1年近く通いつめ、生誕祭にも足を運びミサキちゃんと信頼関係を結んだ私。ある日、私は思い切ってショートメールで告白してみた。

「付き合おっか?」

ミサキちゃんから、答えが返ってきた。

「え? ムリでしょw」

あっさり断られた。

なぜなのか。あんなにも店に通ってきたのに。そのとき、私は気が付いた。ガールズバーの女の子にとって、私など所詮金ヅルなのだと。キャバクラよりは安いとはいえ、結構な授業料を払い続けて知った事実。キャバクラが高校ならば、ガールズバーは中学校。もっとも多感な時期に道徳を学ぶ義務教育として、授業料を収めたと思えば報われる。そう考えることにした。

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そして今、私は嬢と別れ、キャバクラからの卒業を迎えていた。

「ありがとう、嬢。さようなら、キャバクラ」

百恵ちゃんがマイクをステージに置いて去って行ったように、鏡月のボトルをテーブルに置き、キャバクラを去る私(イメージ)。その日から私は社会へと飛び立った。

平凡な日々が淡々と続き、数ヶ月経ったある日。ピロリンッと、スマホが鳴った。

「アセちゃ~ん! わたしだよ!」

嬢から、ショートメールが、きた。

〜第11回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」第1回
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【連載】アセロラ4000「嬢と私」第9回

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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