台湾のシンガー・ソングライター・魏如萱Waa Wei（ウェイ・ルーシュエン）が、2021年6月23日（水）に7thアルバム『HAVE A NICE DAY』をリリースした。同作のリリースを一つの契機に、彼女のこれまでの歩みを辿っていきたい。
魏如萱Waa Wei、愛称は「娃娃（ワーワー）」。2003年に、バンド「自然捲Natural Q」のボーカルとして音楽活動をスタートさせ、2006年まで2枚のアルバムに参加した。特に2004年の1stアルバム『C’est La Vie』は、台湾のグラミー賞と称される第16回〈金曲獎（Golden Music Award）〉にて3部門にノミネートされた他、シンガポールでの〈金曲獎〉でもノミネート。さらに、中華音樂人交流協會の2004年十大專輯（2004年十大アルバム）にも選出されるなど、当初から大きな注目を集めた。2ndアルバム『C’est La Vie Vol.2 大捲包小卷』も、前作に続き年度10大アルバムに選出されるなど人気を獲得していった。しかし、2006年末に喉を痛めたことをきっかけに、魏如萱Waa Weiはバンドを脱退することとなった。
翌年の2007年、「魏如萱Waa Wei」のソロ名義として、インディペンデント・レーベル「前衛花園唱片」から1stアルバムをリリースし、音楽活動を再始動。翌年からは映画やミュージカル舞台に出演するなど表現活動の幅を広げてきたが、その一方でも音楽活動は一貫して継続。ライヴ活動はもちろんのこと、2021年7月現在まで7枚のアルバムをリリースしてきた。作品を作りあげるたびに着実に歌手としての実力を高めていった彼女は、上述のバンド名義での初ノミネートから今日まで累計7回にわたり〈金曲獎〉にノミネート。2020年の〈金曲獎〉では、念願の最優秀中国語女性ボーカル賞を受賞した。
自分が取り入れたい物を自由に盛り込んだ最新アルバム
大半の楽曲は魏如萱Waa Wei自らが手掛けているが、最新アルバム『HAVE A NICE DAY』は多くの客演や共作曲も多い。その中でも、彼女の魅力であるウィスパー気味の優しく広がりのある歌声は健在。楽曲もポップスからロック、バラード、ローファイ、エレクトロ調など様々な要素を取り入れた楽曲が多い。今作の制作について魏如萱Waa Wei本人は、「本作は自分が取り入れたい物を自由に盛り込んだ、割と実験的な作品なんです」、「2020年の〈金曲獎〉で受賞した後に作られた作品ということもあって、自分の好きな作風を一層作り上げることができるんじゃないかと思った。今作の一曲一曲に、自分のスタイルが盛り込まれています」、「受賞してからもっと勇気を持って自分らしく、何が流行っているのかなど気にせず、自分にマッチした音楽をやるようになった」と、語っている。つまり、本作に於ける楽曲の幅の広がりや台湾、韓国、中国から招かれた客演も含め、常に変化していく彼女の音楽性をそのまま追求、示した作品でもあると言える。
同時に、今作のもう一つのテーマとして、魏如萱Waa Weiの祖母、そして3歳になる息子など家族への愛情がある。アルバムを再生してまず聴こえてくる一曲目「奶奶（Dear Grandma)」は、意外にも日本語の童謡「ももたろう」の歌唱から始まり、歌詞には客家語も盛り込まれている。実は、これは彼女の祖母との思い出が関係しており、「彼女の祖母は「桃太郎」の童謡をよく口ずさんでいました。子どもに聞かせたくない話をする時は、私たちにわからないようにいつも客家語で話していたんです」と、本人が語っている。サビで祖母を”お母さん”と呼んでいるのも、祖父母に育てられた経験から由来している。楽曲全体の、孫から祖母へ送られる童謡のような暖かさのあるメロディも印象的で、幼少期の記憶が想起されて心がくすぐられる一曲に仕上がっている。
一方、アルバムのタイトル曲でもある「HAVE A NICE DAY」は、気軽に何度も聴いていられるような聴き心地のよい曲を目指したと本人は語っており、それを体現したようにローファイ感と浮遊感のあるサウンドに仕上がっている。また、もうじき3歳になる彼女の息子も一緒に歌えるような曲を目指して作ったということもあり、ツイていない日常を笑い飛ばす朗らかな内容となった。また、同じく収録曲「變形金剛（トランスフォーマー）」は、母親が子供を想う気持ちをユーモラスな歌詞で表現しているが、その歌声はタイトル通り力強くもあり、曲によって声の表情を大きく変えてくる彼女の表現の豊かさを垣間見ることができる。
また、本作では、3組のミュージシャンとのフィーチャリング曲も収録。台湾のヒップホップグループ・影子計劃（Shadow Project）を招いての「我的菜」では男女の出会いにまつわる駆け引きをテーマにラップ調の歌唱にもトライし、中国の男性シンガー・裘德（Jude Chiu）を招いたピアノとトランペットのサウンドのみで仕上げたバラード曲「四月是適合說謊的日子」、そして韓国のシンガー・Sunwoo Jung-aを客演に招いた「賣花的人」は、21度にも渡る音域を歌い上げている。
このように、2020年の〈金曲獎〉での受賞で自信をつけた魏如萱Waa Weiが、”やりたいこと”に挑戦した作品となっている。その結果が、本作のジャンルレスで多元的な収録曲のラインナップに繋がっており、実験的でありながらもファンの間で作品への評価は高いアルバムとなっている。独自の世界観を常に更新し続ける彼女は、現地のアリーナ級の大型会場での公演チケットも即完させるなど、メジャー、インディーの垣根を超えて幅広く支持を集めている。間違いなく、今の台湾を代表する創作意欲に溢れた女性歌手の一人と言える。今年の〈第32回金曲獎〉のノミネート対象期間には発表されなかったものの、来年度は間違いなく、本作を掲げてあの大舞台に登壇する彼女を再び見られるだろう。
■作品情報
魏如萱Waa Wei
7thアルバム『HAVE A NICE DAY』
発売中
配信リンク：https://waawei.lnk.to/HAVEANICEDAYalbum
収録曲：
1. 奶奶
2. 賣花的人 Aroma duet 鮮于貞娥 sunwoojunga
3. HAVE A NICE DAY
4. 沒事不哭 Merci Beaucoup
5. 我的菜 My Type feat. 影子計劃 Shadow Project
6. 美人 Pretty Woman
7. 變形金剛 Transformers
8. 大賞 Champion
9. 四月是適合說謊的日子 April, Good for Lying feat. 裘德 Chiu
10. 很小很小 Small Small
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