産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、4回目は『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』(ダフナ・ジョエル&ルバ・ヴィハンスキ著 鍛原多恵子訳・紀伊國屋書店)です。
「女性脳」「男性脳」が存在するという説が昔からあります。そうした考え方を「ニューロセクシズム」と言うことがありますが、本書はそうした考え方には根拠がないと、大きな一石を投じます。そう聞くと「いや、違いはあるでしょ?」と身構えてしまう人もいるかもしれませんが、実はそういう方にもこの本はおすすめかもしれません。以下、本文から一部引用します。
私は女性と男性の脳に違いがないと主張しているわけではない。むしろ、他の科学者の多くと同様に、私のチームは両者の脳の多くに違いを認めた。私が言いたいのは、どの人の脳もそれぞれ他の人と異なる特徴を持ち、全体としてその人特有のモザイクを形成しているということだ。
様々な研究によって、一部の特徴は平均すると女性と男性で異なることがわかっています。しかし、それらは一人一人異なったバランスで混ざり合っているのです。つまり、ある人の脳のある部分は男性的な特徴があるけれど、ある部分は女性的な特徴がある、ということが無数に組み合わさっていて、しかも脳の神経学的特徴の性別は変化することもあるので、「脳の全てが典型的な女性あるいは男性の特徴を持っている」ということはなく、人の脳は皆、女性的な特徴と男性的な特徴のパッチワークになっているのです。
この考え方は、前回紹介した「ニューロダイバーシティ」とも通じると思います。人の脳や神経は誰一人として同じではありません。それは「バイナリー(二分法)」のような単純に分けてしまうやり方では正しく理解することはできないのです。
ではなぜ女性脳・男性脳のような考え方が生まれ、それがそれぞれの行動や思考にも影響を与えてきたのでしょう。それを考えるときに「ジェンダーの固定観念」という問題が浮かび上がってきます。その辺りの考察も本書では丁寧に行われていて、そこも重要な読みどころの一つです。ちなみに、女性のうつ病の発症率は男性の2倍で、自殺率ということになると反対に男性の方2〜3倍と高くなることがわかっており(*)、それもこの問題と深い関係があります。以下、もう一ヶ所本文から引用します。
一般的なジェンダーの枠組みに当てはまらない人が傷ついていることは言うまでもないが、私は女性と男性のどちらがより傷ついているかを述べたいわけでもない。むしろ、ジェンダーバイナリーという二分法によって私たち全員が傷ついているのだから、ジェンダーという枠組みを排除する理由は十分にあると言いたいのである。
皆がメンタルを健康に保って生きていくためにも、前回の「ニューロダイバーシティ」や、今回の「どの人の脳もそれぞれ他の人と異なる特徴を持ち、全体としてその人特有のモザイクを形成している」という考え方を持つことはとても重要だと思います。
(*)
女性のうつ病有病率は男性の2倍、SNSと埋まらないジェンダーギャップの相関
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/32579
社会から受ける「男らしさ」というプレッシャー、助けを求められずに陥るアルコール依存
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/32671
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
https://teshimamasahiko.com