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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.14『統合失調症がやってきた』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、13回目は『統合失調症がやってきた』(松本ハウス著・幻冬舎文庫)です。1991年に結成されたお笑いコンビの松本ハウス(松本キック・ハウス加賀谷)は、「タモリのボキャブラ天国」などをきっかけとして、テレビ、ライヴで人気を獲得しますが、実は10代前半から統合失調症に苦しんでいたハウス加賀谷さんは、その忙しさや、処方された薬の服用の乱れなどからその症状を悪化させてしまい、活動休止せざるを得なくなってしまいます。それからハウス加賀谷さんは精神科の病院に入院したり、退院後アルバイトをしたりしながら、徐々に復帰していきます。その間相方の松本キックさんは黙って待ち続け、10年の時を経て復活ライヴを行うことになるまでの話です。

統合失調症は、100人に1人が発症するという実は意外と身近な病気でもあります。症状としては、妄想や幻覚、まとまりのない発語、ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動(固まったり同じ行動を繰り返したり等)、陰性症状(意欲の欠如、情動表出の減少)などが発生します。

統合失調症は「脳が感じ過ぎてしまう病気」とも表現されます。脳は日常的に膨大な情報や思考を処理しています。通常はそれらの多くは意識されず、必要なものだけを処理するのですが、統合失調症の場合、このシステムとバランスに不具合が生じています。不要だとみなされる情報や思考が意識されすぎて、その辻褄を合わせるために脳が勝手に意味づけをしてしまい、その結果幻覚や妄想が生じると考えられます。また、処理しなければならない情報が多すぎる状態が続くと脳は疲弊してしまい、徐々に機能が低下してきて「集中できない」「活動性が下がる」「感情の表出が乏しくなる」などの症状が出てきてしまいます。

松本キックさんは、加賀谷さんが統合失調症を患っていると知っても、それをそのまま受け入れ、自然体で接します。そんな松本さんは「統合失調症をはじめ精神疾患の当事者を受け入れる世の中というのが、まだまだ足りていないですね。なぜかと言うと、やはり(統合失調症のことを)まだまだ知らないからというとこで、まずは知ってもらうという活動をしていかないといけないと思います」と語っています。統合失調症をはじめとして、精神疾患やメンタルヘルスに関する知識、そして当事者を受け入れる意識と仕組みが、より一層広がっていくことを願います。

「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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