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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.24『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.24『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、24回目は『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』(ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング著/梅田智世訳/インターシフト)です。タイトルどおり、心理学というよりは脳科学についての本です。

ドーパミンという言葉を聴いたことがある人も多いと思いますが、一般的に「快楽をもたらす物質」であると思われがちです。ところが、そうではなくて「期待と可能性を司る化学物質」なのだそうです。さらに言えば「未来に手に入れられる資源を最大化し、より良いものを追い求める」役割を果たす化学物質なのです。人間の脳は「すでに手に入れているもの」や「その場ですぐに体験できるもの」と「まだ手に入れていない、遠くにあるもの」とではその働きを分けています。あるいは「持っているもの」と「欲するもの」とで働きを分けている、とも言えます。例えば食料に関して、「今持っている食料」と「まだ獲得していない食料を手に入れようとする」時とでは働きが違っていて、これから手に入れようと人間を突き動かすのが、未来志向の神経伝達物質のドーパミンになります。

その一方で一度獲得すると、今度は本書では「H&N(ヒア&ナウ)」と名付けられている現在志向の神経伝達物質の出番になります。恋愛でも、最初に相手を得ようとするときにはドーパミンが働き、その後の友愛を深めていくのにはこのH&Nの働きになってきます。また、未来志向のドーパミンにも、突き動かす働きとブレーキをかける働きの両方があり、その二つとH&Nとのバランスや調和が、人間が生きていく上で大切になってきます。それが崩れていると、さまざまな問題が生じやすくなります。これは恋愛、依存症、ADHD、芸術、政治、人類の進歩など多岐にわたって大きな影響を与えている脳のメカニズムで、各章でその説明が具体例も踏まえてわかりやすく説明されています。人間の脳の働きに興味のある人には、とても面白い本だと思います。

また、時々アーティストが例に登場するのも音楽ファンとしては興味深かったです。そのうちのひとつにビーチボーイズのブライアン・ウィルソンについての考察とエピソードがありますが、そこから少しだけ引用します。

ウィルソンによれば、症状を緩和する治療を受けても、創造力が大きく低下することはなかったという。世間の認識とは裏腹に、精神疾患を治療せずに放置する苦痛は、創作の障害にはなっても、助けにはならないのだ。「何もできずに長い時間を過ごすことに慣れきっていた。でもいまは、毎日演奏している」

これは、特にアーティストやアーティストを支援する人たちにとって、とても大切なことだと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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