産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、5回目は『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』(石田仁著・ナツメ社)です。前回とりあげたのは『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』という本でしたが、どちらを先に読んでも大丈夫なので、合わせて考えてみるのもおすすめします。
本書は、イラストやマンガ、図も豊富で、基本的に1テーマ2ページでコンパクトにまとめられていて、とても読みやすく書かれています。そしてわかりやすさだけでなく、社会構造の問題や、広告代理店などの調査やいわゆる「LGBTビジネス」に対する疑問などにも踏み込んだ骨のある内容にもなっています。
基本的な知識や情報の部分の大切さはもちろんなのですが、それ以外にも読んでいてハッとさせられる言葉がいくつも出てきます。例えば、昨今は「ダイバーシティ・インクルージョン」という言葉が頻繁に使われるようになってきましたが、本書では次のように指摘しています。
「インクルージョン(包摂)」するためには、その前に「エクスクルージョン(排除)」があったと考えるのが筋でしょう。
つまり、「包摂」という意味のインクルージョンが使われるということは、これまで「排除」があったことの裏返しであり、まずそれへの反省が必要なはずなのです。また、経済成長などの文脈で、それまで冷遇されてきたマイノリティを「必要になったから呼び出す」かのような扱いは、単にマイノリティを都合の良い使い方をするだけの「ムシのいいインクルージョン」になってしまうのではないかという重要な指摘もなされています。本書の「おわりに」に書かれているのですが、「『生まれながらの変更不可能な属性』を、当事者でない人々に『理解』してもらうこと」「何を包摂し、何を排除しているのかを常に意識すること」がとても重要なのだということに気付かされます。また、本書中にはLGBTについて学ぶためにおすすめの本も多数紹介されていますので、それも参考になると思います。
以下、どんなことがテーマとなっているのかをお伝えするために各章のタイトルを掲載しておきます。
プロローグ 「性」は多様
第1章 自分の性をどう伝える? 周りはどう受け止める?
第2章 どうしたら学校は過ごしやすい場所になる?
第3章 性的マイノリティの心と体の健康
第4章 性的マイノリティを取りまく法律上の問題を考える
第5章 性的マイノリティの市民生活と課題
第6章 何のための「LGBTビジネス」か
第7章 性別と科学の関係を深く知ろう
第8章 これまで十分に語られてこなかったセクシュアリティのこと
特別編 LGBTについて調査・研究をするときに
エピローグ LGBT言説のその先
誰かに生じてしまったメンタルヘルスの問題は、その周囲の環境側の合理的な配慮や調整の欠如、多様な特性への無理解の結果である場合がとても多いです。そして、この連載を読んでいる人の多くは、問題を抱えている当事者側ではないかもしれません。当事者はもちろんですが、むしろ多数派の当事者ではない人々の方が、世界には多様な人がいることを理解し、どのような社会にしていけば皆が生きづらくなくなるのかを考えることが大切なのだと思います。そうしたことも少し気に留めていただきながら、ここで紹介している本を読んでいただけると幸いです。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
https://teshimamasahiko.com