【連載】アセロラ4000「嬢と私」第8回

下北沢発・銀河鉄道4000(フォーサウザント)。

嬢と私を乗せ列車は夜の街を行く。終着駅はキャバクラという名のアンドロメダ。私が旅に出る理由。それは嬢と一緒にいたいから。そして、旅の終わりはいつだって切ない。だって財布が空になるんだもの。しかも今日は嬢の機嫌が悪い。悲しい。2度目のデート(同伴)がこんなにも悲しくなるなんて。

「悲しい思い出も、なつかしくなる時がくるのよ。輝いていた日々として…… さあ、行きましょう、アセ郎」

そうだ。嬢と結ばれ、今日のデート(同伴)を笑って振り返る日がきっとくる。そんな夢を見ながら揺られる列車の中。嬢はまたしても顔をしかめている。見ると、背後にいるおじさんに対して何やら言いたいようだ。と、嬢が私の顔に近づいてきた。一気に高鳴る鼓動。キス顔になりつつある私の顔。そのとき、嬢が、言った。

「おやじ、臭い」

さすがに小声で訴える嬢。おやじから逃げるように私に体を寄せてきた。天に昇る私の心。嬢の体が密着し、胸がペタッと、私の腕に当たっている。海綿体戦線異状あり。私の体中の血液は今、ほぼすべて股間へと集結した。思わず貧血になり、フラつく私。

「大丈夫? アセちゃん。もう着いたよ」

さっきまでのもやもやはすべて吹き飛んだ。Fカップの破壊力とはすごいものだ。嬢と、私と、Fカップ。俺とおまえと大五郎以来の、幸せのトライアングル。私は中腰の態勢でかろうじて駅を出ると、アンドロメダに到着した。

中継ぎの嬢を挟み、胸元がざっくりと開いた赤いドレスを着た嬢がやってきた。なぜか、さきほどまでと違いテンションが高い嬢。

「テキーラ飲もう、テキーラ!」

強い酒を求める嬢。一杯2,000円のテキーラを2杯、一気にあおる。なんだこの変わりようは。テキーラを飲みほすと、ボトルから焼酎をグラスに入れアセロラを注いで飲む。飲む、打つ、買うの三拍子そろったおっさんのように豪快な嬢。今度は、ポーチから何やら取り出した。

「これ、知ってる?」

スティック状のものを出し、いきなり吸い込んだと思うと、「ブォォォ~」と両鼻から盛大に煙を吐き出す嬢。ビタミンを摂取するスティックらしい。煙ではなく蒸気なのだという。

一通り蒸気を吐き出すと、私の方を向き、物欲しげな表情でスティックを口に含み、上目遣いでこちらを見つめる嬢。いつになくエロい。再び、海綿体戦線異状あり。全身の血液たちが一斉に下半身へと急ぐ。

嬢が私を欲しがっている。そう確信しながら見つめ返す私。もしかして嬢は今夜私に抱かれたかったのもしれない。そうとは気付かずストレートに店に来てしまった私。だから、機嫌が悪かったのだ。そうに違いない。嬢は、その切なさを晴らすため、店でヤケ酒と決め込んだのだろう。バカ、私のバカ。嬢の心、私知らず。せめて今、そっと肩を抱いてあげたい。左腕を伸ばす私。すると、嬢はスティックを吸い、こちらに向かって鼻から「ブォォォ~」と凄まじい轟音と共に蒸気を吐き出した。顔面に鼻蒸気を浴びる私。

スティックを吸う。

「ブォォォ~」

スティックを吸う。

「ブォォォ~」

吸う。

「ブォォォ~ブォォォ~」

吸う。

「ブォォォ~ブォォォ~ブォォォ~ブォォォ~」

吸って吐いての、鼻蒸気の無限ループ。いつの間にか、私の血液たちは海綿体戦線から退却していた。萎える。まったく色気のない嬢のアクションに、私は唖然としながらもこう感想を述べた。

「きかんしゃトーマスみたい、だね」

嬢は、一瞬目を丸くして驚いた表情を見せると、突然大声で笑いだした。

「ウケる! ちょうウケる!」

チンパンジーのように両手を叩き、爆笑する嬢。

「トーマス? きかんしゃトーマスみたい?」

そんなに面白いかというと、そうでもない。ただ、嬢のツボにはハマったらしい。

「ブォォォ~ブォォォ~」

きかんしゃトーマスのごとく、上を向いて、歓喜の蒸気を空高く吹き上げる嬢。綺麗に両鼻から均等に出ている。鼻は、詰まっていないようだ。いや、そんなことはどうでもいい。なんて下品な女なんだ。正直、引いた。鼻の穴を広げた締まりのない表情、だらしなく半開きになった口元。せわしなくバタつかせる両足、そして巨乳。巨乳は、許す。私は嬢の下品極まりないふるまいに辟易して、延長を30分で早々に切り上げお会計することにした。

本日のお会計、23,500円也。…… しまった。財布にはあと2万円しかない。

お金が、足りない。

〜第9回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第3回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第4回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第5回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第6回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第7回

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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