【連載】Jumpei Yamada「illusionism」Vol.7─────あみ × 春

 

泉谷しげるや曽我部恵一をはじめとしたミュージシャンのポートレート撮影を中心に、CD、書籍、広告、webや雑誌などの撮影を手がけている写真家のJumpei Yamadaが、写真をもっと自由に捉えてほしいという想いをもって、7月3日(火)よりスタートした新連載「illusionism」。公募で募ったゲストモデルを撮り下ろし、その写真を元にゲストライターが想像した文章を自由に執筆、写真と一緒に掲載していく。毎週火曜日更新予定。

 

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「illusionism」Vol.7

 

鼻で笑われるに違いない安易な悲愴、耐え難いほどの愚直な苦悩。不埒で、不肖で、不謹慎で、つまりはひどく純粋だった僕は、闇に屈して、光に怯え、なにに定義されることもない自分を確かめるように指を噛むのが癖だった。痛い。生きているのだと思った。

 

僕を救ってくれる人は一人もいなかった。僕一人ではだめだった。いつしか写真による革命を諦め、安っぽい芸術を謳うようになった僕の周りには、退廃的なロマンチシズムを求めてやまない女が湧いた。ポートレイトの撮影と称して、手当たり次第に電話をかけ、たまたま繋がったやつと会う。レンズ越しにその目を見つめる。そよ風になびく髪を撫でる。レンズを外してその目を見つめる。反吐が出るほど軽率で、涙が出るほど切実な算段。生ぬるい穴を埋めるたび、冷たい穴が大きくなった。それでよかった。穴が対象の大きさを超えてしまえば、それはもう、穴、ではない、はずだった。

 

 

だから、燃やせばいい、と言ったのだ。その女はいささか怒ったように眉をひそめた。気の強いやつだと思った。いまは疎遠になった友人の友人だか、元恋人だかで、高円寺のライブハウスで知り合ったから、その日も同じ場所で落ち合って、撮影の休憩がてら、広場で煙草を吸っていたときである。彼女が、あ、と呟いて、腿の辺りを慌てて払った。紺地に花柄のブラウスはうしろの裾だけが長く、そのへりを脚に乗せるような形で花壇に座っていたのだが、そこへ灰を落としたのだった。

 

 

「燃やせばいいって、なにそれ。どういうこと?」

 

「服に穴が空いただけでそんなに落ち込むなら、穴をなくせばいい。服を燃やすのが手っ取り早いってことだよ」

 

「そんなことしたら服がなくなっちゃうじゃん」

 

「うん。でも間違いなく穴もなくなる」

 

「そうかな。わかんないよ。穴だけ残るかもしれないし」

 

「穴だけ残る?」

 

彼女は懲りもせずに二本目の煙草に火をつけると、なにやらドーナツについて語り始めた。ドーナツの穴は、ある、のか、ない、のか。つまり、穴を食べていないにも関わらず、身を食べただけで穴がなくなるというのなら、最初から穴は存在しないことになるが、穴がなければドーナツとは呼べないわけである。使い古された命題らしい。僕は聞いたこともなかった。僕が聞いたこともないことを彼女が口にするとも思っていなかった。ひたすら煙草を吸って、ひたすら酒を飲み、ひたすら遊び歩いているような女である。

 

 

「で、ドーナツには穴があるのか、ないのか、君はどっち派なわけ?」

 

「私はあると思う。ドーナツを食べたら穴がなくなるんじゃなくて、いままで食べられたドーナツの分だけ、食べられなかった穴が残されてるような気がするの」

 

「へえ。じゃあ世界は穴だらけだ」

 

「うん」

 

「心の穴は?」

 

「心の穴?」

 

「心をなくしても穴が消えないんだとしたら……」

 

「心に穴が空いてるの?」

 

そう聞いて不思議そうに首を傾げた。大きな瞳の中で光が揺れた。たぶんそうだった。病葉のようにしなびた記憶である。あのころ撮ったおびただしい量の写真はずいぶん昔に捨ててしまったから、ほかの女と共にあの女のこともすっかり忘れていたのだが、別れ際にもらった一冊の本が押入れの奥から出てきて、ふと、思い出しただけである。あれからいくつの季節が過ぎ去っただろう。不埒で、不肖で、不謹慎なまま、なぜかひどく不純になった僕の白昼夢のような日々は鮮やかに塗りつぶされていくようで、絶望とも見違えず、白夜のような虚無は暗く翳っていくようで、希望とも見違えない。つまりはなにも見えていない。

 

「穴の空いてない心なんてある?」

 

僕は、指を噛まなくなった。

 

 

2018年8月21日更新予定
「illusionism」Vol.8へ続く

Text = 春

Twitter : @aur0raph0bia

Model = あみ

俳優

Photograph = Jumpei Yamada(じゅんぺい・やまだ)

1987年富山県生まれ。
2007年より関西にて活動。
活動拠点を東京へ移し、2014年独立。
ミュージシャンのポートレート撮影を中心に、CD・書籍・広告・webや雑誌等各種媒体の撮影を手がけ、並行して自身の作品制作も行う。

2015年2月 写真集「ギミ!ギミ!ギミ!ダーリン!」発表。
2018年2月写真展「immanent」at 高円寺FAITH

Web : https://jumpeiyamada.com/
Twitter : @jumpeiyamada_

写真はもっと寛容で発想力を掻き立てるもの──写真家・Jumpei Yamadaが人生、連載を語る


被写体募集
illusionismに被写体として参加して頂ける方を募集中です。経験不問。興味のある方は「氏名」「年齢」「バストアップ写真、全身写真(3ヶ月以内撮影)」「芸能活動されている方は芸歴・活動歴」を明記・添付の上、件名:被写体募集にてillusionism.wanted@gmail.comまでご連絡下さい。応募者多数の場合、採用させて頂く方にのみご連絡させて頂きます。

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