【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.8 「I Love Myself」自己肯定感を持て! ケンドリック・ラマーのメッセージ

現代を代表するラッパー、ケンドリック・ラマーは、2015年に製薬会社のカイザーのうつ病啓発キャンペーンに「i」という曲を提供しています。

元曲の歌詞を少年が呟いているこの動画の最後には「うつは言葉にするのが困難だ」、「自分の言葉を見つけろ」というテロップが流れます。

 

原曲はこちらです。

 

この曲のフックの部分では「I Love Myself」と連呼しています。自分自身を愛する、言い換えるならば「自己肯定感を持て」というところでしょう。

自尊感情(Self Esteem)、という言葉でもほぼ同じ意味合いで使われています。

これは、文字通り自分自身に対して肯定的な感覚を持つことですが、それは、自分の長所も短所も、すべてを含んで受け容れるということで、これまでの連載の中でも出てきた「自己一致」「徹底的受容」などにも通じる感覚です。

日本では「自尊心が高い」というと、「なんだか偉そう」という感じに、悪い意味で受け止められることもありますが、ここで言う自尊感情は、そのように「威張る」というようなことではなく、先述したように「ありのままの自分を受け容れる」ということです。こうした自己肯定感、自尊感情が高い人ほど、他人を尊重することができます。

ところが、日本人はその自己肯定感が低く、自分に対してネガティヴな意識を持つ傾向にあります。

このグラフは日米中韓の高校生を対象に、それぞれの自己肯定感のあり方を調査したものです。これを見ると、日本人がいかに自分を否定的に捉えているかがわかります。

この他に、平成26年の内閣府の調査(※1)によれば、「自分自身に満足している」かを日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの7カ国の13〜29歳で調査し比較したところ、日本がダントツで低い数値になっています。

これらの結果には、自分のことを謙虚に表現する日本人の国民性の影響もありますが、これだけ如実に数値として現れると、何か別に問題があると考えざるを得ません。それが何なのか、考えなければならないでしょう。

ところで、ケンドリック・ラマーはこんなことも言っています。

「俺の考える偽アーティスト、それは他人のスタイルを真似て成功を収めようとするヤツらのことだ。自分の声で語ることを恐れ、他者の成功を妬み、ただ逃げてばかりいる連中だ。そういうヤツらが、ヒップホップというゲームに水を差してしまっている」

「誰もがケンドリック・ラマーになれるわけじゃないんだ。俺みたいにラップしてみろって言ってるわけじゃない。ただ自分自身であれって意味さ。他人を意識しすぎるあまりに、自らの才能を台無しにしてしまったヤツらを、俺は嫌と言うほど見てきた」(※2)

あるがままの自分を受け容れることが、アーティストにとっていかに重要なことなのかを、力強く主張しています。自己肯定感、自尊感情は、メンタルヘルス的にも、クリエイティヴ的にも、とても大切なのです。

ちなみに、HIP HOPシーンでは、自分の希志念慮をラップするような、自己のメンタルに向かい合った表現は昔からあったのですが、その一方では心理療法を拒否する風潮もありました。それには様々な理由があるのですが、大きな理由のひとつに「強さ主義」、つまり、自分は心理療法みたいなものに頼らない強さを持っている、逆に言えば、心理療法に頼るような弱い奴ではない、と言うことがカッコいいという思想がありました。

しかし、2010年代以降、キッド・カディやJay-Z、そしてケンドリック・ラマーらが弱さを表明することを肯定するようになり、心理療法を推奨する動きも現れてきました。このように、海外の音楽シーンはアーティストのメンタルヘルスに対しての関心の高まりと意識改革が進んでいます。こうした動きには日本の音楽シーンも同調して欲しいと思います。

【参照】
(1)『「平成26年版 子供・若者白書(概要版)」 特集 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~』内閣府  平成26年

(2)『現代最高のラッパー、ケンドリック・ラマーが考える「偽アーティスト」とは?』Rolling Stone Japan  2018/07/19 http://rollingstonejapan.com/articles/detail/28689/1/1/1


手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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