嘘つきは、泥棒のはじまり。
そういう意味で、私は今、世紀の大泥棒・ルパン三世になれるほどの嘘をついた。
リアル不二子ちゃん・嬢の誕生日が迫る4月某日。私は、再三再四、店に招かれていた。
しかし、デート(同伴)の申し込みはNG。その日に限っていえば、嬢は私のものではないのだから。
お客さんが来ないと言いつつも、じつはしっかり私以外の恋人(客)とコンタクトを取っていた、したたかな嬢。
「他のお客さんも来ちゃうのは、ごめん。ヤキモチ焼かないでね」
そんな言葉で、健気にセンシティブな私のハートをケアしてくれる嬢。嬢、サンクスモニカ。私の心は嬢だけのもの。例え嬢が誰かの彼女になりくさっても。私の心だけは、嬢のものだ。
しかし、正味の話、金がない。
店には、行きたい、でも行けない。もしもこの状態で店に行ってしまったら完全に金を使い果たし、私はあまりの金のなさに銀行強盗を犯してしまいかねない。
「40代、アセロラ4000容疑者 キャバクラに行く金欲しさの犯行」
と夕方のニュースで大々的に報じられ、Yahoo!ニュースでも取り上げられるだろう。嬢も、そんなことは望んではいないはず。
そこで、私はすべてを丸く収めるために、嘘をついたのだ。
「じつは、身内に不幸があって、急に実家に帰らなくてはならなくて…」
魔法の言葉、「ミウチノ・フコウ」。
これまでバイト・仕事をサボるときに散々使用したキラー・フレーズを使い、一気にすべて解決することを試みた。
送信した瞬間、すぐに既読がついたLINE。
私は嬢の返信を待った。待つこと、3分。カップスターなら、食べたその日から味の虜になる短い時間。しかし、私には永遠にも思える長い時間だった。そして、嬢からの返信が届いた。
「そか! わかったよ!」
嬢の、精一杯の強がり。私は、ハッと目が覚めた。なんというバカな嘘をついたのか。
「じゃあ、仕方ないね!」
バレバレな嘘。嬢は、きっとお見通しなはず。にも関わらず、まったく怒るそぶりも見せず、サラッと流してみせる嬢。高い自尊心、女の意地。揺るぎない意思、そして巨乳。一流キャバクラ嬢としての生きざまがここにある。
それに引き換え、最低な嘘で店に行くのを回避しようとした私。なんと、情けないことか。なんと、セコいことか。嬢がアンドレ・ザ・ジャイアントパンダなら、私などせいぜいハムスター。なんと、小さい男だろう。
本気で嬢の誕生日を祝おうという気持ちがあれば、こんなことにならなかったはず。私の、嬢への愛は偽物だったのだろうか。バカ、私のバカ。
私は、罪の意識に苛まれ、いたたまれずに走り出した。走る、走る私たち。流れるアセもそのままに。いつか辿り着いたら、嬢に打ち明けられるだろう。
「金が、なかったんです」と。
そして、私は今、日本海の荒波を前に誓う。今度こそ、今度こそ、今度こそ、今度こそ。
嬢から、卒業、しよう。
〜シーズン2 第7回へ続く〜
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第3回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第4回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第5回
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000