「はじめまして~! アセロラさん? じゃあアセちゃんって呼んでいいかな? ね、アセちゃん!」
そう、私の名前はアセロラ4000。
40代後半、独身、派遣社員。キャバクラに夢を見ながら夜の街を往くワタリドリ。
そんな私が、ついに辿り着いた安住の地。新宿・歌舞伎町のキャバクラ「ロザーナ」。
かつて経験したことがないほど、高級な店内で私を待っていたのは、20歳になったばかりだというギャル、エリカ嬢。
席に着くなり、フレンドリーな接客で私の心はホールド・オンされた。ロングの茶髪と、笑うとなくなるつぶらな瞳が可愛らしい。そしてなにより目を見張るのは、そのスタイル。
ほどよい身長、女性らしいなで肩。くびれた腰回り、そして巨乳。
いや、まだ巨乳と断言してしまうには早計かもしれない。なぜならば、カップを確認していないのだから。
私の目算では、推定Dカップ。キャバクラの世界では、Fカップ以下は巨乳と呼んではならないルールがある(※アセロラ4000調べ)。
これでは、エリカ嬢は不合格になってしまう可能性がある。今すぐに、確かめたい。
「じゃあ、みんだ揃ったどころで、ガンバイじまじょうが!」
空気の乾燥のためか、若干ガサガサ声に戻りつつあるエトウさんが、グラスを掲げて音頭を取る。横に座っているサカイくんは、完全無視を決め込んで色っぽい嬢と話し込んでいる。私も、当然、無視。今はカップを確かめなければならないのだ。
「今日は飲んできたの~?」
身を縮め、下から私を見上げるようにそう訊いてくるエリカ嬢。超、かわいい。まるで小動物のようだ。
ダメだ、ダメだ。バカ、私のバカ。こんなかわいらしくピュアな嬢に、私は何を訊こうとしていたのか。
ましてや、たった今会ったばかりの私たち。いつだって、ラブストーリーは突然に。とはいうものの、突然カップを訊いてしまったら、嫌われてしまうかもしれない。落ち着け、私。
「でえねえ、何ガップ?」
私たちの会話の間隙を縫って飛び込んできた、サンダーストームばりの天龍ボイス。
見ると、エトウさんが鯉のように口をパクパクさせながら、こちらを見ている。いきなり人についた嬢にカップを訊くという暴挙。
「えっなに?」
よかった。一般人には、ガサガサボイスは聞き取れなかった。私とサカイくんは、きっと特殊能力が身についてしまっていたのだ。
改めて、できるだけ早く派遣業務を終了させて転職しなければ。私もガサボになってしまうかもしれない。いずれにせよ、エトウ、あとで、コロス。
「ねえねえ、そんなことより、私の指、臭くない?」
いきなり、左手の掌を私に差し出してくるエリカ嬢。特に、臭くない。
「本当? なんかさ、アソコの臭いしない? ウケる、超ウケる!」
両手をチンパンジーのように叩き、大股を開きながら大笑いするエリカ嬢。
そんなに面白いかといえば、そうでもない。
ただただ、1人で盛り上がっているようにも見える。言ってみれば、「ア・モーレ」のニューウェーブ嬢、ユカと同じタイプなのかもしれない。
だが、エリカ嬢には、まったく不快感が、ない。むしろ、嫌いじゃない。嫌いじゃないぞ、この感じ。言うなれば、ポスト・ニューウェーブ嬢・エリカ。
「臭うかな? 嗅いでみよ!」
大股を開いたまま、笑いながら掌を股間に当て、自分の鼻と股間を行ったり来たりさせるエリカ嬢。なんて、下品な仕草。
が、しかし。
嫌いじゃない。嫌いじゃないぞ、この感じ。
さっきから、足を開くたび、下着がチラチラ顔を覗かせている。自然な態勢を保ちつつ、なんとかカラーを確認しようと視線を走らせる私。突
然、こちらに顔を向けるエリカ嬢。しまった、見つかってしまったかもしれない。
「赤、緑、青、群青色。キレイ……」
とっさに、アンディ・ウォーホルのCM真似で切り抜ける私。
「何それ、ウケる!」
何を言ってもウケてくれる、エリカ嬢。ホッと胸をなでおろす私。こんなにも、息がピッタリと合い、心が癒される嬢など、かつて存在しただろうか。いや、いない。いるわけがない。
そんな我々の仲を引き裂こうと、ボーイがエリカ嬢の名を呼ぶ。現代によみがえるロミオとジュリエットの悲劇。このままでは、エリカ嬢は別のテーブルに連れていかれてしまう。
「ねえ、うち、ここにいていい?」
言葉にせずとも、我々の心は通じていた。
もちろん、二つ返事で場内指名する私。
今日のお会計は、すべてエトウさん持ち。遠慮などいるわけないのだ。
「ありがとうアセちゃん! LINE交換、しよ?」
平成最後のビッグカップル、エリカ嬢と私。
その日から、LINEという名の同棲生活が始まった。
〜シーズン3 第7回へ続く〜
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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