産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、8回目は『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』(東畑開人著・医学書院)です。これはこれまでに紹介してきた本と比べ、よりエッセイ・物語的で、精神医学や心理学などに関して詳しく知るというよりは、面白い話を読みながら人の心のケア、セラピーとは何か、という本質的なところを感じ取れる本、と言えるかもしれません。基本的に良い意味でとてもゆるくユーモアに溢れた文体で、なんとなくこの分野に触れてみたいという人には入りやすく、一方で本格的に学びたいという人にもより「心に関わる」ということの根本的なところを考えるきっかけを与えてくれます。その両者に跨がれているという点でも実に稀有な傑作です。
内容に関して、出版社の紹介文を引用してみます。
京大出の心理学ハカセは悪戦苦闘の職探しの末、ようやく沖縄の精神科デイケア施設に職を得た。「セラピーをするんだ!」と勇躍飛び込んだそこは、あらゆる価値が反転するふしぎの国だった――。ケアとセラピーの価値について究極まで考え抜かれた本書は、同時に、人生の一時期を共に生きたメンバーさんやスタッフたちとの熱き友情物語でもあります。一言でいえば、涙あり笑いあり出血(!)ありの、大感動スペクタクル学術書!
タイトルにもある「居る(いる)」ということがとても重要なテーマとして通貫しています。とかく生産性や効率性の高さ、さらには自己責任などが求められる社会では、「何かをすること」の価値ばかりが重視され、「ただ、いるだけ」ということがまるで無価値なもののように扱われてしまいがちです。しかし僕たちが「生きる、生きている」というときに、この「ただ、いる(いられる)」ということが実はとても重要なのです。しかし、「ただ、いる」ということは意外ときつい。その「きつさ」あるいは「居心地の悪さ」が生じてしまうのはなぜなのか。それは僕たちが、もはやそこで暮らしていかざるを得ない「市場」の存在とそのロジックとも無関係ではありません。これまでにこの連載で紹介してきた本とも共通するのですが、この本もやはり最終的には社会的な問題に踏み込んでいくことになります。
そう言うと、なんだか難しそうに感じてしまうかもしれませんが、冒頭にも書いたように、基本的に文章は良い意味でゆるく、ユーモアに満ちていて、他の作家に例えるなら椎名誠や遠藤周作の書くちょっと笑えるエッセイのようでもあり、そこに節々でちょうど良い塩梅に効いたスパイスのように精神医学・心理学・哲学(現代思想)に触れていきますので、多くの人が安心して入っていけることは保証します。おすすめです。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
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