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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.12『サブカルチャーの心理学』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、12回目は『サブカルチャーの心理学』(山岡重行編著・福村出版)です。編著者の山岡先生は伝説のバンドAUTO-MODのメンバーでもあった方で、そのフロントマンのGenet(ジュネ)の弟さんでもあります。実は僕は10代の頃このバンドの大ファンだったのですが、その山岡先生と以前対談させていただく機会があって、個人的にとても感慨深かったです。

そもそも「サブカルチャーとは何か?」というところからはじまるのですが、ここではとりあえず「良識ある大人たちのメインカルチャーから、幼稚で低級な遊び、俗悪な遊びとして白眼視されてきた若者文化」と設定されます。そして、これまで心理学の研究対象とされてこなかったこの領域を、欧米のサブカルチャー研究の文脈だけでなく日本のオタク系文化をきちんと見据えて論じていきます。「サブカルチャーと若者文化」「オタクの系譜学」からはじまり、アニメ、マンガ、腐女子、ジャニオタ、鉄道オタク、レコードコレクター、オカルト・超常現象・疑似科学・陰謀論などが研究対象として取り上げられます。

どの章も面白く、そしてわかりやすく解説してくれているのですが、個人的に「おお!」と思ったところのひとつはジャニオタの章で、様々な調査の中で「1日でジャニーズに費やす時間は?」という項目に対し「24時間(寝ているときも)」という回答が最も多かったところです。「そうか、寝ているときもか!」と、変な意味は全くなしに、純粋になんだか清々しい気持ちになりました(笑)。他にも「ジャニオタになって悪かったことはなんですか?」の問いには、65%の人が「お金がなくなった」と答えているところも「そうだろうなあ、熱いなあ」と思いました。

あとがきで山岡先生は次のように書かれています。

まずは「自分の幸福感を高め自分の人生を豊かにする」ことから始めましょう。人からなんと言われようと、あなたの幸福感を高めあなたの人生を豊かにするものを大切にしてください。それがあなたのサブカルチャーなのですから。

多くの人が自分のサブカルチャーで幸福感を高めれば、本当の意味で多様性を認め互いに尊重し合う豊かな社会が実現するのではないかと思います。サブカルチャーとメインカルチャーが影響を与え合い、豊かで幸福な文化生活を送ることができる社会に変わっていくのではないかと思います。

サブカルチャー全般がとかく「不要不急」などと言われることも多々ある昨今ですが、僕もサブカルチャーを愛する人として、この言葉にはまさに同感です。多くのサブカルチャー愛好家にも届いて欲しいメッセージだと思います。

「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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