【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.7 「現在」と「事実」を重視する。視点を変えてみる

この連載の4回目で少しだけとりあげたブルース・スプリングスティーンは、その自伝『ボーン・トゥ・ラン ブルース・スプリングスティーン自伝』の中で自身のうつとの闘いについて書いているのですが、「この本の中で僕が強調したかったことの一つは、誰であろうと、どこにいようと、うつは決して放っておいてはくれないということなんだ。いつも車に喩えているんだけどね。あらゆる自分自身がその車に乗っていて、新しい自分はその車に乗り込むことができるんだ。でも、昔の自分がその車を降りることはないんだよ。いつでも重要なのは、そのなかの誰がハンドルを握るかってことだよね」と語っています。

この発言はとても示唆に富んでいます。

マーシャ・リネハン博士が開発した「弁証法的行動療法」には「徹底的受容」という考え方・手法があります。

そこでは、何であれその出来事を価値判断したり、自分自身を批判したりすることなく、現在の状況を認めて受け容れるということ、そして現在の状況はずっと前にはじまった出来事の長期的な連鎖を経て存在していること、この連鎖を否定することは、すでに起きてしまったことを変化させることに対して、全く役に立たないことを認識すること、が大切になります。

過去を変えようとしても無駄、つまり「昔の自分がその車を降りることはない」ということを受け容れて、唯一コントロール可能な「現在」つまり「誰がハンドルを握るか」に意識を向けることが重要なのです。

心理療法の1ジャンルである「認知行動療法」では、過去よりも「現在」を重視します。先述したとおり、過去は変えようがないからです。

ただし、「過去に対する考え方」は変容させることが可能です。

私たちは、なんらかの事柄やストレスがあったときに、パッと頭に浮かんでくる考え方や感じ方の癖や偏り=「自動思考」を持っています。それがネガティヴに偏っていると、悪循環を生んでしまうことがあります。

この悪循環を避けるためにも、自分がどんな自動思考の癖を持っているのかを把握し、それが現実とどのくらいズレているかに注目し、自由な視点で柔らかいものの見方をできるように練習していきます。

ここで大切なのは「事実に基づいて考える」ことで、「きっと〜にちがいない」は「単なる想像」、あえてもっと強い言葉で言うなら「妄想」に過ぎないということです。

たとえば、誰かにメッセージをメールやラインで送ったのに返事がないときに「嫌われているに違いない」と思うことなどです。

これは事実でしょうか?

これだけでは単なる想像に過ぎません。違う視点でこの事実を見直せば、違う考え方、感じ方を得られるはずです。

こうした偏りはいくつもあります。

以下、『うつ病の認知療法・認知行動療法 (患者さんのための資料)』(厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業)から引用です。

(1)感情的きめつけ
証拠もないのにネガティブな結論を引き出しやすいこと

(2)選択的注目 (こころの色眼鏡)
良いこともたくさん起こっているのに,ささいなネガティブなことに注意が向く

(3)過度の一般化
わずかな出来事から広範囲のことを結論づけてしまう
例:ひとつうまくいかないと「自分は何一つ仕事が出来ない」と考える

(4)拡大解釈と過小評価
自分がしてしまった失敗など、都合の悪いことは大きく,反対に良くできていることは小さく考える

(5)自己非難(個人化)
本来自分に関係のない出来事まで自分のせいに考えたり、原因を必要以上に自分に関連づけて、自分を責める

(6) “0か100か”思考(白黒思考・完璧主義)
白黒つけないと気がすまない、非効率なまで完璧を求める
例:取引は成立したのに、期待の値段ではなかった、と自分を責める

(7)自分で実現してしまう予言
否定的な予測をして行動を制限し、その結果失敗する。 そうして、否定的な予測をますます信じ込むという悪循環。
例:「誰も声をかけてくれないだろう」と引っこみ思案になって、ますます声をかけてもらえなくなる

こうした自分の認知の偏りに注目し、事実に基づいて考え、「視点を変えてみる」ことで、バランスの良い思考が得られるのです。

Cornelius「Point of view point」。歌詞は、さまざまな視点の「位置」のみ。価値判断を保留して、いろんな視点から自分を捉えてみようというカウンセリングの姿勢とも一致するようにも思えます。

 

【参照】
・ブルース・スプリングスティーン、最新インタヴューで自身の鬱について語る(NME 2016.9.7 https://nme-jp.com/news/26138/

・『弁証法的行動療法 実践トレーニングブック 〜自分の感情とよりうまくつきあってゆくために〜』(星和書店 マシュー・マッケイ、ジェフリー・C・ウッド、ジェフリー・ブラントリー 訳 遊佐安一郎 荒井まゆみ)


手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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