いったい何度目なのか。
またしても、執念で私の元に戻ってきた嬢。
そんな嬢に会いに店に行く私。
なぜ、嬢は私を見捨てたりしないのか。
それは、固定客を失いたくないから。
そんなあたりまえのことは、私にだってわかる。しかし、そのあたりまえの関係の中から、真の恋愛関係を築こうとするところに、キャバクラという舞台の真の魅力があるのだ。
「人生は舞台(キャバクラ)主役(客)はあなた」
主役(客)は、見栄を張らなければならない。できる限り、舞台にお金を落とすことこそが、真の役者(太客)なのだ。
嬢は、私を連れて店に行くことで、いくばくかのお金を店からバックされる。そして、席につき私がボトルを入れることで、さらなる財を築く。さらに「私もいただいていいですかあ?」と、その瞬間だけ敬語を駆使して、自らが飲むドリンクを注文する。それすらも、嬢の懐へと消えていくというキャバクラのシステム。
煌びやかな照明、ノリノリのBGM。漂う香水の匂い、そして巨乳。
キャバクラナイズドされた店内に一歩足を踏み入れたが最後、抗うことができるものなど、いない。
しかも、嬢はやたらと高い酒を飲む。テキーラ、一杯、2,000円。かける、3杯。6,000円。せめて、自分が飲む分は、安く済ませたい。そんな思いから、チビチビとアセロラ鏡月の水割りを飲んでいる私の横で、豪快にテキーラのショットをイッキする嬢。
会計を済ませ、店の入り口で嬢に見送られ階段を上り外に出ると、終電は終わっている。タクシー代もなく、トボトボと家路につく私。一晩で、あっという間に財布はほぼ空っぽになった。
今月の生活費、残り5千円。
この残高で、あと半月を、どうやってサバイバルすればいいのだろう。
とりあえず、さいとう たかを先生の「サバイバル」を参考に読んでみた。面白い。ブックオフで、古本を全巻購入する私。
どうせなら、お酒を飲みながら読みたい。コンビニで缶チューハイを買おう。そうなると、ファミチキも食べたい。しょっぱくなるから、アルフォートもあわせて買っておくべきだ。甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱいの無限ループが、やめられない、とまらない。そうか、かっぱえびせんも欲しい。そして、シメはカップスター。もちろん、しょうゆ味。食べる前から、味のとりこになる私。
ふと見ると、「ゴルゴ13」の最新刊が出ている。
「今夜は、さいとう たかを祭だね」
私は、最後にスーパーカップバニラをかごに入れ、ルンルン気分で家路についた。
所持金残高、750円。
バカ、バカ、私のバカ。もう無駄使いはしないと、あれだけ誓ったはずなのに。本当にお金がない。どうすれば、よいのだろう。
そうだ、あれを売ればいいのだ。嬢の誕プレとしてネットにて3万円で購入していた「炭酸製造マシーン」。
嬢の誕生日から2ヶ月ほど経過した今、嬢はすっかり忘れているはず。
私は、早速メルカリで売却に成功した。2万円、ゲット。九死に一生を得る、とはまさにこのことだ。お祝いに、ファミチキを買ってこよう。ついでに、アルフォートも。
そのとき、嬢からのメッセージが届いた。
「炭酸のやつ、今度会ったとき、渡してね!」
嬢は、誕プレを、忘れていなかった。
〜シーズン2 第9回へ続く〜
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第3回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第4回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第5回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第6回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン2 第7回
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000