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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第10回

StoryWriter

「Xmas、来れるの?これないの? どっちっち~!?」

「ロザーナ」のエリカ嬢から、懇願にも似たLINEが届いた。しかし、私は返事をすることができない。そう、毎度恒例の「お金がない」なのだ。

まして、ただでさえ高級な歌舞伎町のキャバクラで、シャンパンを入れないといけないだなんて、あまりにも酷。

私が今、キャバクラでシャンパンを入れるか、「お笑いウルトラクイズ」の人間ロケットクイズを体験するかのどちらかの選択を迫られたとする。答えはもちろん、後者。平成最後の人間ロケットとして、上島竜兵ばりに全裸で空高く舞い上がる覚悟はできている。

それくらい、キャバクラのシャンパンは高いと聞いている。なにしろ、エトウさんは8万円のドンペリを入れてしまい、17万円というお会計で身ぐるみを剥がされてしまったのだから。

「ちょっとでもいいから、来てほしいなぁ」

エリカ嬢が、私を追い込む。お姫さまのようなドレスを着た麗しい姿の自撮り画像もダメ押しで送られてきた。やっぱり、カワイイ。

行きたい、「ロザーナ」に。行きた~い、でも金な~い。その矛盾に、ハイマンナン。いや、違った。平成が終わろうとしているときに、昭和のなつかCMをしている場合ではない。

そうだ、店でもっとも安いシャンパンをオーダーすれば良いではないか。エトウさんは、見栄っ張りなばっかりに、8万円もの高級品を入れてしまったのだから。私も、見栄っ張りではあるものの、ここは恥を忍んで、激安シャンパンでごまかすとしよう。

それにしても、シャンパン価格の相場がわからない。そうだ、酒屋に行こう。幸い、職場の近くに大きな酒屋「やまや」がある。そこで調べておけば、店に行ったときにもスムーズに注文できるはず。

思い立ったが吉日。私は、さっそく近所の「やまや」に足を運んだ。いつもはビールや缶チューハイを買うだけで、店を出てしまう。よく見ると、レジの上部にある棚に、シャンパンのボトルがズラリと並んでいるではないか。ここで、価格をチェックしよう。

「いらっしゃいませ~」

レジに立っているエプロン姿の女性店員さんが、愛想よく私に微笑みかける。一気に華やぐ私の心。

そういえば、いつ訪れても、この店員さんは店にいる。平日も、土日も、昼であれ、夜であれ、必ず、いる。いつ来てもいるなんて、ちょっと妙ではないか。

もしかして、この店員さんは、私のことが好きなのではないだろうか。私の来店タイミングに合わせて、シフトを組んでいるのかもしれない。そうだ、そうに違いない。

そう思うと、とたんに胸が高鳴って来た。私は、レジの前に立ち、チラリと胸の名札を見る。「高梨」と書いてある。

「なにか、お探しですか?」

小首をかしげ、私に微笑みかける、高梨さん。

切れ長の目元、小悪魔的な八重歯。艶のある黒髪、そして巨乳。

いや、巨乳かどうかはまだわからない。しかしながら、よく見ると、かわいい。アイドル並みの、かわいさじゃないか。

こんな子の前で、キャバクラのシャンパンの値段など確認できるわけがない。そんな不純な姿を、高梨さんの前で、見せたくないのだ。

私は、架空の商品の名を挙げ、探してもらうことにした。

「黄霧島のキングサイズ、アルコール度数35度ですか? …… 少々お待ちください」

私が創り上げた架空の芋焼酎・黄霧島35(キングサイズ)。真剣に店内をチェックする高梨さん。すまない、高梨さん。私はそのすきに、棚の上のシャンパンをチェックさせてもらう。

10,000円、8,000円、5,000円、4,000円。

なんだ、そんなものか。思ったよりも、安い。これくらいだったら、すぐにでも、払える。

私は、必死に黄霧島35を探す高梨さんを残し、店を出た。

行こう、ロザーナに。エリカ嬢のもとへ。

〜シーズン3 第11回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第6回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第7回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第8回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第9回

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※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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