【連載】カウンセリング入門Vol.9──大江慎也「Get Happy」で吐露された不眠の苦しみ = 睡眠を考える

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法

多くのミュージシャンに影響を与えた伝説のバンド、ザ・ルースターズ。その初期はこんなふうにアグレッシブなサウンドとパフォーマンスでした。

 

ところが、その中心人物だった大江慎也は、神経衰弱(*1)によって安定した活動が困難になってしまいます。

この「Get Happy」という曲は、ルースターズ脱退後の彼のソロの作品のひとつです。状態が良くないことを感じさせるその歌と歌詞が非常に痛々しく、メンタルの問題を抱えた人間の苦しみが赤裸裸に表現されています。

彼はこの曲の2番では〈どうして僕だけが眠れないのかい?〉と不眠の苦しみを吐露しています。

 

睡眠はメンタルの健康には欠かせないものです。

また、不規則な生活になりがちなアーティストにとっても、睡眠の重要性はもっと認識されても良いと思います。

日本睡眠学会によれば、成人の30%以上が何らかの不眠症状を有していて、6〜10%が不眠症に罹患しているそうです。不眠は、様々な良くない精神・身体症状を生じさせてしまいますので、対処が必要です。

不眠症に対する治療と言えば、睡眠薬を思い浮かべる方も多いと思います。実際、日本睡眠学会も「現在の不眠症治療の主流は睡眠薬を用いた薬物療療法である」としています。

睡眠薬は有効な方法ですが、同学会は「世界的に見ても日本人は睡眠薬に対して群を抜いて強い心理的抵抗感を有する」ので「不眠症に対する薬物療療法は、患者が持つ不安・心配について適切に答えられ、ベネフィットがリスクを上回る妥当な方法で行われる必要がある」と指摘しています。

私は医師ではありませんので、睡眠薬に関する詳細な説明は控えますが、より詳しく知りたいという方は、こちらの『睡眠薬の適正な使用用と休薬のための診療療ガイドライン』を参照してみてください。
http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf

さて、カウンセリングでの不眠との関わり方のひとつに「認知行動療法」という手法があります。この有効性は科学的にも立証されていて、日本睡眠学会でも推奨度A(最高レベル)に置かれています。

認知行動療法では、不眠症を長引かせてしまう生活習慣(行動パターンと睡眠に関する考え方)と身体反応(過覚醒)をカウンセリングなどで修正することで改善していきます。修正すべき行動パターンと睡眠に関する考え方とは、例えばこのようなものです。

このように、不眠に対する不安や、睡眠に対する過剰な努力によって、身体的な緊張が(無意識に)生じ、それによって眠れなくなり、さらに眠るための努力をしてしまい緊張して眠れなくなる、という悪循環に陥ってしまう場合があります。また、こうした悪循環の体験が、寝室やベッドに入ること自体に不安を覚えさせるようになり、不眠を慢性化させてしまいます。このような体験のある方も少なくないのではないでしょうか?

こうした悪循環を断ち切るために、睡眠習慣と睡眠への考え方の歪みを正していくのが認知行動療法です。自分でも今すぐできることとしては、以下のような方法があります。

まず、「眠くなってから就床し、起床時刻を守る」ことです。

しっかり眠ろうとして、早く就床すると、眠れないためにかえって緊張を生じます。眠りが浅いと感じるのであれば、遅寝早起きで大丈夫です。

また、自分の睡眠を過小評価してしまっていて、実際は自分が思っているよりもちゃんと眠れているということも少なくないのです。ここでのポイントは「起きる時刻を一定にすること」です。

寝る前にはできるだけリラックスします。テレビやPC、スマートフォンなどを就床1時間前には切り上げられると良いです。また、寝酒は眠りを浅くしますので避けます。

そして、これも大事なことですが、15分経っても寝付けなかったら一旦寝床から出ます。可能なら、寝室以外の場所に移動して、眠くなるのを待ちます。

不眠→緊張→不眠という悪循環を断ち、寝室は、寝るとき以外は使わず「眠る場所・眠れる場所」にします。

また、「リラクセーション法」も有効です。

リラクセーション法は、リラックス反応を誘導し、ストレス反応を低減させ、心身の回復機能を向上させる方法です。ストレス反応の軽減において即効性があり、訓練を続けることで心身の自律機能が回復し、ストレス反応が起きにくい体へと変化させます。

これにはいろんな方法がありますが、ここでは、文部科学省の『在外教育施設安全対策資料【心のケア編】』で紹介されている「漸進的筋弛緩法」を紹介します。

【基本動作】
・各部位の筋肉に対し、10秒間力を入れ緊張させ、15~20秒間脱力・弛緩します。
・身体の主要な筋肉に対し、この基本動作を順番に繰り返し行っていきます。各部位の筋肉が弛緩してくるので、弛緩した状態を体感・体得していきます。

1.  両手
両腕を伸ばし、掌を上にして、親指を曲げて握り込みます。10秒間力を入れ緊張させます。手をゆっくり広げ、膝の上において、15~20秒間脱力・弛緩します。

2. 上腕
握った握り拳を肩に近づけ、曲った上腕全体に力を入れ10秒間緊張させ、その後15~20秒間脱力・弛緩します。

以下、緊張させる部位について。10秒間緊張後、15~20秒間脱力・弛緩する要領は同様です

3. 背中
2と同じ要領で曲げた上腕を外に広げ、肩甲骨を引き付けます。

4. 肩
両肩を上げ、首をすぼめるように肩に力を入れます。

5. 首
右側に首をひねります。左側も同様に行います。

6. 顔
口をすぼめ、顔全体を顔の中心に集めるように力を入れます。筋肉が弛緩した状態口がぽかんとした状態です。

7. 腹部
腹部に手をあて、その手を押し返すように力を入れます。

8. 足
爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉を緊張させます。
足を伸ばし、爪先を上に曲げ、足の上側の筋肉を緊張させます。

9. 全身

1~8までの全身の筋肉を一度に10秒間緊張させます。

力をゆっくりと抜き、15~20秒間脱力・弛緩します。

こうした、リラクセーション法は、アーティスト活動のさまざまなストレスフルな場面でも利用できると思いますので、試してみてください。

(*1)神経衰弱は、かつて多くの国々で病名(診断名)として扱われていましたが、現在では、この用語は概念が曖昧なためほとんど使われなくなりました。そして、かなりの割合でうつ病、不安状態にも分類しうることが証明されています。『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)」


手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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