2018年12月24日。ここ、歌舞伎町にも、Xmasイヴがやってきた。
歌舞伎町でイヴといえば、真っ先に連想してしまうのが、イヴちゃん。そう、元祖・歌舞伎町のアイドルこと、ノーパン喫茶の女王・イヴちゃんに決まってる。
色白で、清楚な顔立ち。スレンダーボディ、そして巨乳。
いや、違う。イヴちゃんの売りは、そうではなかったはず。私は、己の巨乳審美眼が鈍ってきていることを痛感した。言うなれば、巨乳イップス。
イヴちゃんが巨乳だったのかどうか。エトウさん・サカイくんと審議することにしよう。
バカ、バカ、私のバカ。今はそんなことはどうでもいい。
現在の歌舞伎町のアイドルといえば、「ロザーナ」のエリカ嬢。Xmasイヴ当日の夜21時。私は、エリカ嬢との約束を果たすため、歌舞伎町へと歩を進める。
新宿駅東口を出て、百果園のパイン串の甘い匂いを嗅ぎながら先を急ぎ、靖国通りを渡って、歌舞伎町一番街のアーチをくぐる。
途中、チャラそうな居酒屋店員の誘いを、龍神池の飛び石に移る要領でかわしていく。新宿東宝ビルのゴジラを眺めつつ、新宿LOFTのラインナップをチラ見して、ホストたちの前を通り過ぎた。
よりディープな界隈に入ると、ストロング金剛・丹古母鬼馬二コンビにも似た、呼び込みのおじさんたちが迫りくる。案内所だらけのジブラルタル海峡を越え、風林会館を曲がり、区役所通りの緩い坂道を、どんぶらこっこと進んでいくと、ようやく「ロザーナ」に辿り着いた。
「よくぞ生き残った我が精鋭達よ」
ありがとう、谷隊長。
違った。谷隼人じゃない。よく見ると、ボーイが私に、指名の有無を尋ねていた。
食い気味に、エリカ嬢の名を告げる私。長い階段を下ると、ついに、たけし城ならぬエリカ嬢のもとへとたどり着いた。
戦いは終わった……
いや、違う。戦いはこれからなのだ。私は、Xmasイヴを迎えひときわ華やいだ店内を見渡す。
どの嬢も、サンタ風のドレスを身に纏っている。エリカ嬢は、どんな衣装を着て私という煙突からやってきて、心の靴下にプレゼントを入れてくれるのだろうか。ワクワクしすぎて、ロマンティックが止まらない。止まらなすぎる。
「アセちゃ~ん! 来てくれてありがとー!」
両手を振りながら、私の横に腰掛ける、エリカ嬢。
その姿は、鎖骨・へそ出し・ミニスカサンタ。超カワイイ。あまりにもセクシーなサンタクロースに、私のハートはストップモーション。
「ねえねえ、うちのサンタ、どう? 似合うかなあ?」
体をくねらせ、すり寄って評価を待つエリカ嬢。私の中の審査員が、ジャルジャルに対する立川志らくと同じ高得点を叩き出す。
「ほんとう? 99点? 超嬉しいー! じゃあ、飲も、飲も?」
そうだ。今日はXmas。特別な日に相応しく、2人のために乾杯しなければ。
「シャンパン、入れてくれるんだよね?」
キラキラした瞳で、上目遣いで私にねだる、エリカ嬢。もちろん、そのつもりでやってきた私。シャンパンの市場価格調査を済ませてきているのだ。不安はまったく、ない。
私は、ボーイを呼ぶと、シャンパンのオーダーをすべく、メニューを広げた。
ない。
私が市場価格調査を行った際に見て、あたりをつけておいた、5,000円のシャンパンが、ない。
あるのは、万単位のものばかり。最低価格は、30,000円。そんな、バカな。どこかに、もっとリーズナブルな価格のシャンパンがあるはずだ。探せ、探せ、探すんだ、私。
「どれに、しよっか?」
ない、ない、ない。でもとまらない。
「どれに、しよっか?」
2回言う、嬢。
私は、静かに、メニューを、閉じた。
〜シーズン3 第11回へ続く〜
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