産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.15『相方は、統合失調症』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、14回目は前回紹介した『統合失調症がやってきた』(松本ハウス著・幻冬舎文庫)の続編の『相方は、統合失調症』(松本ハウス著・幻冬舎文庫)です。前作では、統合失調症で活動中止せざるを得なくなったハウス加賀谷さんが、再び松本キックさんとコンビ復活して、10年ぶりに復活ライヴを行うまでの話でしたが、これはその後の話になります。
10年ぶりに復活できたものの、なかなか全盛期のようなライヴを行うことができず、二人は悩み苦しみます。かつての自分のままではないということを、さまざまな辛い挫折と煩悶の中で、それも自分であるとそのまま受け入れて、自分たちらしい「新しい生き方、やり方」を見出していく二人の姿には心を打つものがあります。いくつも考えさせられる言葉が出てくるのですが、そのうちのひとつを紹介しておくと、松本キックさんが「個」というものをすごく大切に考えているところです。
統合失調症の患者は、100人いれば100人とも症状が違う。全く同じというところがない。中には幻聴や妄想が現れない患者もいる。そのくらい、統合失調症という病気は個性的なのだ。ということは、「やっぱり個を見なければならないと思うんです」
症状は症状。無視してはいけないが、過度に意識するのも良くない。部分的なものを見てはいけない。もっと広く、加賀谷という個を見ていかなければ。症状を含めた加賀谷こそ、今の加賀谷なのだ。
何らかの病気や特性に限らず、人はそれぞれ違っていて、それが尊重されるということはとても大切なことです。この本は、統合失調症に対する理解ということだけでなく、芸や表現の世界で必要な「自分らしいあり方」とは、そしてどんな人にも通じる「生きづらくない生き方」のヒントが溢れた良書だと思います。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
https://teshimamasahiko.com